開栓後さらにまろやかにおいしくなっていく、生酛(きもと)造りの「Tsuchida 壌木桶(じょうきおけ)」

2026/03/19

今回、編集長のアッキーが注目したのは、時間が経つほどに味わいが育つ日本酒「Tsuchida 壌木桶」です。お米をほとんど削らず、蔵に住み着く微生物の力だけで醸されるこの一本は、抜栓後もゆっくりと置くことで、ワインのように深みが増していきます。従来の「日本酒は新鮮なうちに飲みきるもの」という一般的なイメージを覆す、新しい楽しみ方の提案です。

その背景には、土作りから丁寧に向き合い、醸造工程を科学の視点で見つめ直す挑戦がありました。群馬県利根郡川場村に本社を構える、土田酒造株式会社 代表取締役の土田祐士氏に取材スタッフがお話を伺いました。

―まずは、1907年(明治40年)創業という歴史を持つ御社の歩みについて教えてください。

土田 私たちの蔵は1907年(明治40年)に創業し、110年以上の歴史を刻んできました。かつては品評会で「名誉賞」という、関東で唯一の賞をいただいたこともある歴史ある蔵で、地元では「誉国光(ほまれこっこう)」という銘柄が広く親しまれていました。群馬の地酒として、地域に根付いてきたのです。しかし、時代の変化とともに経営は厳しくなり、私が継いだ2012年頃には「このまま地元の酒だけを中心に売っていても、あと10年持つかどうか」という危機的な状況にありました。

そこで、伝統ある蔵だからこそ、今の時代に求められる価値を「再定義」する必要があると考えたのです。大きな決断だったのは、2017年に、添加物を一切使わず天然の菌の力を借りる「全量山廃」その2年後「全量生酛造り」へと舵を切ったことです。100年以上続く伝統を守るということは、単に同じことを続けるのではなく、その本質を未来へ繋ぐために変化し続けることなのだと考えています。

明治から続く老舗蔵。
2017年には添加物を一切使わない「全量山廃・生酛造り」という、進化の道へ進んだ。

―社長ご自身は大手ゲーム会社カプコンに勤務という経歴をお持ちですね。その経験は今の酒造りにどう活かされているのでしょうか。

土田 カプコンでは「面白いものづくり」に没頭していました。当時は週8日ゲームをやっているような生活でしたが(笑)、会社が大きくなる中で、自分が本当に納得できる「面白いものづくり」とのギャップを感じるようになったのです。そんなとき、実家の酒造りを改めて見る機会がありました。その瞬間に「こっちの方がおもしろいかもしれない」と衝動的な魅力を感じ、戻ることを決めたのです。

ゲーム開発で学んだ「ロジック」と「検証」の視点は、今の私の根幹にあります。伝統に甘んじず、「なぜこの工程が必要なのか」を徹底的に突き詰める。このクリエイターとしての探求心と、フラットな視点があったからこそ、これまでの常識に縛られない「科学的かつ面白い酒造り」に挑戦できているのだと思います。

―今回ご紹介する「Tsuchida 壌木桶」ですが、この印象的な商品名にはどのような思いが込められているのですか。

土田 「壌」という一文字には、土壌、そして研究への信念が凝縮されています。このお酒の誕生には、地元の福祉事業所「ゆずりは会」の方々が丹精込めて育てた、無農薬・無肥料の自然栽培米との出会いが不可欠でした。私たちは「いいお酒は、いい土壌から始まる」と確信しています。以前は届いたお米を加工するだけでしたが、今は土作りからが酒造りのスタートだと考えています。ゆずりは会の方々が育てたお米は生命力にあふれていて、蛍が舞うほど豊かな田んぼで育つのです。生命力に満ちたお米のエネルギーを、削ることなくそのまま引き出したい。そんな思いからこのお酒は生まれました。生命力あふれる独創的なラベルデザインも、実はゆずりは会の就労者の方が描かれたものです。農業、福祉、および醸造が一つに溶け合い、地域が一体となって生まれる「新しい吟醸」の形を目指しました。

お米をほとんど削らず、自然の力だけで醸した「Tsuchida 壌木桶」。
お米の生命力をそのまま閉じ込めた、土田酒造の自信作。

―お米をほとんど削らない製法は非常に驚きですが、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

土田 一般的な高級酒はお米を半分以上削りますが、「Tsuchida 壌木桶」はわずか10%しか削りません。かつては、削らないお米は扱いにくいとされてきましたが、私たちは「お米の生命力を引き出す」ことに価値を置いています。そのために用いるのが、江戸時代の製法である「生酛(きもと)造り」です。この製法では、人工的な乳酸を加えません。さらにこのお酒は酵母も加えず、蔵にいる蔵にいる目に見えない微生物の力を借りて、地元の杉材で作られた「木桶」の中で、ゆっくりと対話するように発酵させていきます。面白いのは、蔵内の菌を検査でマップ化し、菌の動きを可視化している点です。最新科学で「何が起きているか」を把握したうえで、伝統製法を行う。この「ハイテク×伝統」こそが、お米本来の複雑な旨味や個性へと昇華させる、私たちにしかできない技術の裏付けなのです。一口飲めば田んぼの風景が浮かんでくるような圧倒的な「素材感」を感じていただけるはずです。

添加物を一切加えずに菌や微生物の力で醸す、江戸時代から続く生酛造り。
伝統技術と科学を融合させた、世界基準の新しい日本酒。

―このお酒は味が変化していくと伺いました。おすすめの楽しみ方を教えてください。

土田 「Tsuchida 壌木桶」は、開栓してからが本当の楽しみの始まりなのです。1週間、2週間と置くことで、角が取れて味がまろやかに「伸びて」いきます。日本酒は開栓したら劣化するというのが常識ですが、このお酒は空気に触れることで味が育ちます。今日よりも明日、明日よりも数日後がおいしくなっている。そんな変化を愛でる体験は、日常に驚きと心のゆとりを与えてくれるでしょう。お好みの温度で楽しめるからこそ、和食に限らず、ワインのように洋風の味付けにもよく馴染みます。ライフスタイルに合わせて、しなやかに寄り添ってくれる日本酒なのです。

味わいの変化で楽しみが長く続く。

―世界中で高く評価されているそうですが、お客さまからはどのような反応がありますか。

土田 現在、世界30カ国以上のレストランやシェフから「今までにない日本酒だ」という支持をいただいています。特に海外の料理人の方からは、私たちの「どの工程でどの菌が働いているか」を科学的に可視化した説明と、ユニークな味わいの両面に価値を見出してくれていますね。また、自然派ワインを愛好する方々からも、添加物を一切使わないピュアな造りが高く評価されています。

国内のお客さまからも、「お酒ができるまでに物語があるから、大切な人に贈りたくなる」というお声を多くいただきます。単なる嗜好品としてだけでなく、日本の豊かな自然や福祉との繋がりといった背景も含めて、ギフトとしての満足度を高く感じていただけているようです。世界基準で認められた、全く新しい日本酒のカタチをご提案できていると感じています。

―最後に、今後の展望についてお聞かせください。

土田 私は、お酒を売ること以上に、日本の素晴らしい「発酵という魔法」を次世代の子どもたちに伝えることを大切にしたいと考えています。かつては家庭で「どぶろく」を造ることが当たり前だった時代もありました。そのように、日本酒が再び自分たちの文化として身近なものになり、家庭に発酵文化が根付くような未来を目指しています。

そのためにも、子どもたちへの教育活動や、土地の個性を映し出す酒造りを続けていきたいのです。私たちの取り組みが、日本の農業の未来を守り、豊かにしていく一助になればこれ以上の喜びはありません。この大きなビジョンに共感してくださる方々と共に、これからも新しい日本酒の道を切り拓いていきたいと思っています。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

「Tsuchida 壌木桶 720ml」
価格:¥5,500(税込)
店名:土田酒造オンラインショップ
電話:0278-52-3511(9:00~17:00)
定休日:年中無休
商品URL:https://cart.homare.biz/i/S0240
オンラインショップ:https://cart.homare.biz/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>

土田祐士(土田酒造株式会社 代表取締役)
1976年生まれ。4人兄弟の末っ子として育ち、1998年に大手ゲーム会社カプコンに入社。5年間の勤務を経て日本酒の魅力に目覚め、2003年に家業である土田酒造株式会社に入社。2007年から杜氏、2008年から代表取締役を務める。伝統を科学で解き明かす独自のスタイルで、2017年には全量純米・生酛造りへとシフト。日本の発酵文化を次世代へ繋ぐべく、革新的な挑戦を続けている。

<文/お取り寄せ手帖編集部 MC/藤井ちあき 画像協力/土田酒造>

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