
ふわっとした口どけ。箱根の老舗が届ける奇跡の和菓子「湯もち」
2025/10/29
まるでマシュマロのよう。それでいて、絹のようになめらかな、きめ細やかさ。今回、編集長のアッキーが注目したのは、ほんのり香る柚子が、どこか懐かしい記憶を呼び覚ます銘菓「湯もち」です。このお菓子は、単なる和菓子という枠を超え、箱根の旅の思い出そのものを包み込んでいるかのよう。創業から75年、変わらぬ製法で守り続ける唯一無二の味わいには、どんな思いが込められているのでしょうか。有限会社ちもと 代表取締役の杉山隆寛氏に、取材陣が伺いました。

有限会社ちもと 代表取締役の杉山隆寛氏
―まずは、お店の成り立ちからお聞かせください。
杉山 創業は1950年です。もともと、私の祖父が戦前に銀座にあった「ちもと総本店」でのれん分けを許されたのが始まりです。当時、避暑で箱根を訪れるお客様から「箱根でも、ちもとのお菓子が食べたい」というご要望をいただき、銀座から職人がお菓子を運んで販売していました。そのお客様に寄り添う心を受け継ぎ、箱根の地に根を下ろしたのが「箱根ちもと」です。


箱根湯本駅から徒歩5分の「ちもと駅前通り店」。
隣の「お庭の『茶店』」では、
屋外でゆったりと抹茶や「湯もち」を味わうことができる。
―異業種から家業に戻られたそうですね。
杉山 ええ。もともと家業を継ぐつもりは全くなく、大学卒業後は生命保険会社に就職しました。お客様の人生に寄り添う仕事にやりがいを感じていましたし、ありがたいことにトップクラスの成績を評価していただいていました。ですが25歳の時、母が他界したのを機に、祖母に呼び戻される形で箱根に戻ることになったのです。
その決断を後押ししてくれたのが、当時の上司からいただいた「お前しかできないことをやれ」という言葉でした。大きな会社は自分がいなくても動き続けるけれど、お前がいなければ止まってしまうものがある、と。その言葉に背中を押され、家業を継ぐ覚悟を決めました。生命保険会社時代に教わった「お客さんに不要なものを売るな」「美しい営業をしていきなさい」という哲学は、今も私の経営の根幹になっています。扱う商材はお菓子に変わりましたが、お客様に対して正直であるという信念は変わりません。
―看板商品である「湯もち」は、どのようにして生まれたのでしょうか。
杉山 「湯もち」は、「温泉から立ち上る湯けむり」と、お店のそばを流れる須雲川の「岩石」をイメージして作られました。目指したのは、まさに「温泉の湯上がりの柔肌のような、なめらかな口どけ」。箱根の心地よい情景や幸福感を、ひとつの和菓子で表現したいという創業者の思いから生まれた、この土地ならではのお菓子です。

マシュマロのようなふわふわ食感が特徴。
白玉粉、寒天、メレンゲを生地に練りこんでいる。
―75年以上も愛され続ける「湯もち」の、こだわりについて教えてください。
杉山 「湯もち」の命であるあの柔らかさを生み出すために、いくつものこだわりを重ねています。まず、主原料となる白玉粉は、国産のものを厳選。その繊細な粉が、きめ細やかでなめらかな舌触りの基礎となります。そして最大のこだわりは、創業以来、冷凍や冷蔵を一切せず、「常温」で作り、お届けすることです。お餅の原料であるデンプンは、実は冷蔵庫の温度帯が一番苦手で、風味が落ちて固くなってしまうんです。

竹皮に包むのも、ひとつひとつが手作業。
常温で作ることで、やわらかい食感を保っている。
杉山 非効率に見えるかもしれませんが、この製法こそが、出来立てのような柔らかさを守る唯一の方法なのです。そのお餅の中には、食感のアクセントとして刻んだ羊羹を忍ばせています。そして全体をふわりと包むのが、爽やかな柚子の香り。この柚子があることで、甘さの中に凛とした風情が生まれ、後味もすっきりと仕上がります。これら全ての工程を、今も職人が毎日手づくりしています。私たちはこれを「手肌の温度が残っている」と表現していますが、それはまるでお母さんが握ってくれたおにぎりのような、人の温かみが感じられるおいしさだと信じています。


自家製の羊羹で食感にアクセントを加え、爽やかな柚子で味を引き締める。
―「湯もち」を通じて、どのような体験を届けたいとお考えですか。
杉山 私たちが届けたいのは、単なるおいしさだけではありません。「ありし日の思い出」という、心温まる時間そのものです。例えば、箱根旅行のお土産に持ち帰った「湯もち」を翌日に食べると、楽しかった旅の記憶が鮮やかによみがえってきませんか。「また行きたいね」「楽しかったね」と、お菓子を囲んで家族の会話が自然と生まれる。頑張った一日の終わりに、「湯もち」をひと口味わいながら、大切な思い出に浸る。そんなご褒美のような時間をご提案したいのです。
―その品質は、各方面から高く評価されているそうですね。
杉山 ありがたいことに、箱根の多くの老舗旅館で、お着き菓子として長年ご愛用いただいています。一泊何万円もするようなお宿で、多くの食通の方々に愛されてきた「上質な体験」を、私たちの店では1つ290円で、どなたでも手に取っていただくことができる。これこそが菓子屋の醍醐味だと考えています。また、「神奈川県銘菓」や、豪華列車「TRAIN SUITE 四季島」のウェルカムスイーツにも認定していただきました。
―最後に、今後の展望についてお聞かせください。
杉山 私は「観光は世界平和の一翼を担える」と本気で信じています。箱根という国際的な観光地から、日本のものづくりの素晴らしさを発信していきたいですね。そしてもう一つ、従業員が心から幸せに働ける環境づくりにも全力を注いでいます。作り手が「しんどい」と感じながら作ったお菓子が、お客様の心を温めることはできません。「ちもと」のお菓子を選んでいただくことが、作り手の幸せを育み、日本の素晴らしい文化を未来へ繋ぐ応援になる。そんな温かい循環を生み出していくことが、私たちの目標です。
―作り手の幸せがお菓子の味になる、素敵なお話でした。本日はありがとうございました。

「湯もち5個入」
価格:¥1,550(税込)
店名:湯もち本舗ちもと
電話:0460-85-5632(9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.yumochi.com/page4
オンラインショップ:https://www.yumochi.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
杉山隆寛(有限会社ちもと 代表取締役)
1975年山形県生まれ。2児の父親。幼少期に父を亡くし、母方の実家である箱根の和菓子屋で職人たちと過ごす中で、和菓子の魅力に触れる。大学卒業後、一般企業に就職するも、母の逝去を機に25歳で故郷である箱根に戻り和菓子の道へ。自然災害やコロナ禍を乗り越え、創業75年を迎えた今もなお、先代より受け継いだ味を守り続けている。
<文/お取り寄せ手帖編集部 MC/藤井ちあき 画像協力/ちもと>




























