
職人の丁寧な揉み込みと火入れで生まれる香りとコク。340年続く老舗の辛味調味料「黒七味 四角」
2026/02/25
今回、編集長のアッキーが注目したのは、京都「原了郭」の「黒七味 四角」です。封を開けた瞬間に広がる鮮烈な山椒の香りと、鼻に抜ける重厚な風味、そしてしっとりとした独特の「黒」の質感は、一度知ると手放せなくなる唯一の存在。
その背景には、『忠臣蔵』の物語の題材として有名な武士たち・赤穂浪士(あこうろうし)にゆかりを持つ深い歴史と、代々受け継がれてきた職人のたゆまぬ努力がありました。取材スタッフが、京都府に本社を構える、株式会社原了郭 代表取締役社長の原悟氏にお話を伺いました。

株式会社原了郭 代表取締役社長の原悟氏
―1685年創業という長い歴史をお持ちです。まずは御社の歩みについて教えてください。
原 私たちの創業は1685年(貞享2年)に遡ります。以前は1703年創業と伝えていたのですが、古書に「香煎屋 了郭(こうせんや りょうかく)」の名が見つかり、さらに歴史が古いことが判明しました。初代は『忠臣蔵』の物語の題材として有名な赤穂浪士・原惣右衛門元辰(はら そうえもん もととき)の息子である原儀左衛門道喜(はら ぎざえもん みちよし)。忠義を貫いた一族の血筋が、誠実なものづくりの根底に流れています。当初は、漢方の原料等を煎って粉末にし、塩や砂糖を加えた飲み物である「香煎(こうせん)」を中心に扱っており、明治・大正期には宮内省御用品として皇室にも愛されてきました。京都・祇園の地で一子相伝の製法を守り抜き、伝統を繋いでいます。



江戸時代前期の1685年創業。
「香煎屋」として愛され、宮内省御用品も務めた信頼は、今も変わらず京都・祇園の地にある。
※国立国会図書館デジタルコレクション 貞信『都名所之内 祇園社西門よりhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1305962
―社長ご自身は、職人としての技をどのようにして身につけられたのでしょうか。修業時代の歩みを伺います。
原 私は幼い頃から、香煎や七味の香りが漂い、原料を煎る熱気に包まれた調合場を遊び場として育ちました。当時は意識していませんでしたが、胡麻を煎る音や山椒の鮮烈な香りを、無意識のうちに五感で覚え込んできたのだと思います。言葉で具体的に教わった記憶はありません。調合場の空気を肌で感じ、五感で記憶していく。この積み重ねこそが、データでは表せない職人の勘を養う唯一の道なのです。現在は14代目となる息子も入社し、彼もまた、私と同じように身体に感覚を叩き込むところから始めています。「経営者である前に、最後まで一人の職人でありたい」という思いは、代々変わることのない私たちのアイデンティティです。
―看板商品である「黒七味」ですが、誕生にはどのような物語があったのでしょうか。
原 実は「黒七味」が生まれたのは100年以上前のこと。当時の当主が、看板商品であった香煎に並ぶ新しい柱を作ろうと、御香煎の原料の1つである山椒に着目したのがきっかけでした。発売当初は「ヒリッとからひ」というモダンな名前でした。その後12代目がわかりやすい商品名にするため、「七味唐からし」と改名しましたが、お客様からの「あの黒いのん、ちょうだい」と親しみ深い愛称に大きな価値を見出し、13代目である私が「黒七味」と命名して商標登録を行いました。当初は、その黒い色から「湿気ているのでは?」と誤解されたこともありますが、今ではこの「黒」こそが京都の味として信頼いただける証となりました。職人手作りの木製容器は、定番の四角形の他に直営店限定の八角形の木筒も特別なバージョンとしてご用意しています。

鼻に抜ける重厚な風味が特徴の「黒七味」。
手のひらサイズの四角い木筒。

京都の直営店限定で、八角形の木筒も購入できる。
―最大の特徴である「黒」の質感と豊かな香りを生み出す、職人のこだわりについて詳しく教えてください。
原 原料は白ごま、唐辛子、山椒、けしの実、黒ごま、青のり、おの実の7種類ですが、その配合は一子相伝の極秘事項です。最大の特徴である濃い茶色、いわゆる「黒」の正体は、原料の一部を乾煎りし、細かく挽いた後に揉み込んで仕上げていきます。丁寧に揉み込むことで、それぞれの素材から自然な油分がじわりと引き出され、全体がしっとりと馴染み、香りが内側へぎゅっと封じ込められるのです。この一手間が、粉末が舞い上がらず、素材本来の風味をダイレクトに伝える秘訣といえます。
さらに命運を分けるのが「火入れ」の工程です。原料が爆ぜる音、香り、色の変化を五感で捉え、絶妙なタイミングで火を止めます。その差はわずか20秒から30秒。この火入れの時間を誤ると香りが台無しになってしまいます。大量生産では決して真似できない、職人の鋭い勘と手が介在することで、奥行きのある風味が完成します。「黒七味」は弊社の登録商標ですが、この名前を大切に守り続けるのは、本物の味だけを届けるための責任感でもあるのです。過去にはコラボレーションの相談を受けた際も、風味が本来のものとかけ離れた場合はお断りしてきました。私たちの「黒」は、ただの色ではなく、代を継いだ者が伝統を背負い守り抜いてきた信頼の証なのです。


一般的な七味とは一線を画す、濃い茶色の粉末。
白ごま、唐辛子、山椒など7種の原料を配合し、職人が手作業で丹念に揉み込んだ。
―毎日の食事で、おすすめの楽しみ方はありますか。
原 まずは、うどんやお味噌汁に一振りしてみてください。お味噌のコクが引き締まり、スパイシーな余韻が広がります。焼き鳥やおでんに添えるのもいいですね。いつもの食卓が、一気に京都の割烹のような雰囲気に変わるはずです。意外な組み合わせでは、ステーキやパスタといった洋食なども合いますよ。朝の納豆や卵かけご飯にかけるだけでも、その一振りで一日を豊かな気持ちで始められるのではないでしょうか。



定番のお味噌汁から、ステーキ、お刺身のお醤油にも。
湯気とともに立ち上るスパイシーな余韻で、いつもの食卓が一気に割烹の雰囲気に変わる。
―プロの料理人の方々からも支持されているそうですが、反響はいかがですか。
原 横浜ラーメン博物館をはじめ、全国の有名ラーメン店で味の決め手として採用されています。また、一流ホテルの朝食や高級料亭でも、ゲストを迎える大切な演出として使っていただいています。京都の老舗漬物店の主人が「ここのをかけると最高においしい」と太鼓判を押してくださったこともありました。プロの方々に「仕上げの香り」として選んでいただけるのは、職人冥利に尽きますね。贈り物として利用される方も多く、その香りの良さに驚いたという声をたくさんいただいています。
―最後に、未来に向けたビジョンをお聞かせください。
原 優先するのは、いいものを作ること。お金の勘定はその次です。これが、340年続く私たちの矜持です。規模を追うのではなく、この場所で、納得のいく一振りを追求し続けること。それが何より大切だと思っています。次の300年も、変わらぬ「黒い宝石」を届け続けるために、息子と共にたゆみなく技を研ぎ澄ましていきたいですね。祇園の歴史と共に歩み、京都の食文化という形のない宝物を未来へと繋いでいくことが、私たちの使命だと考えています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!

「黒七味 四角」
価格:¥1,265(税込)
店名:原了郭オンラインショップ
電話:075-561-2732(10:00~18:00)
定休日:年中無休(1月1日・2日を除く)
商品URL:https://shop.hararyoukaku.co.jp/i/032
オンラインショップ:https://shop.hararyoukaku.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
原悟(株式会社原了郭 代表取締役社長)
21歳で13代当主を継承。以来、一子相伝の技法を受け継ぎ、日々調合に励む。「経営者である前に職人でありたい」という強い哲学を持ち、340年続く老舗の暖簾を守り続けている。現在は14代目の育成にも力を注ぎ、京都・祇園の食文化を次世代へと繋ぐ活動に尽力している。
<文/お取り寄せ手帖編集部 MC/藤井ちあき 画像協力/原了郭>




























