「IPA」(350ml)

酒を知り尽くした姉妹が、自らの情熱を注ぎ込んだクラフトビール。――「TDM 1874 Brewery」

2025/10/23

今回、編集長アッキーこと坂口明子が注目したのは、横浜で生まれたクラフトビール「TDM 1874 Brewery」のIPA(インディアンペールエール)です。日本国内のみならず、「Asia Beer Championship 2024」で金賞に輝くなど、世界的にも高評価を得ています。下北沢にも洗練されたタップルームがあり、ビール離れと呼ばれる中で、若い世代からも熱い支持を受けています。ブランドを牽引しているTDM 1874 Brewery(株式会社坂口屋)の取締役・石田美寿々氏、妹の加藤葉月氏に取材陣がお話を伺いました。

株式会社坂口屋 取締役の石田美寿々氏と加藤葉月氏

TDM 1874 Brewery(株式会社坂口屋) 取締役の石田美寿々氏と加藤葉月氏

―姉妹で会社を経営されているのですね。

石田 妹の葉月と一緒に、経営をしています。家業が、明治7年(1874年)創業の「坂口屋」という横浜の酒問屋でして、父で5代目、私たちで6代目にあたります。もともとはいわゆる町の酒屋という感じで、酒だけでなく、米やたばこなども販売しているようなお店でした。ちなみに、坂口屋と屋号は名前ではなく、場所に由来しています。昔は、坂の入り口にあるお店、という意味だったのだと思います。

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横浜市十日市場にある現在の本店。酒屋、飲食店、醸造所が融合している。
TDMとは、「Ten Days Market」の略で、十日市場を意味している。

―そこから、主に酒を販売するように?

石田 本格的に酒に力を入れるようになったのは、父の代からです。ワインを輸入したり、業務用の酒を販売したりするようになり、卸業に転換し、株式会社にしました。それまでと同じように一般消費者が増え続けるわけではないし、地域と絡めて酒屋としてやれることはなんだろう?と、考えてのことでした。世の中が変わる時に、自分たちも変わらなければいけないと思ったのです。
ただ、この頃にはまだ、酒は仕入れて販売するものであって、自分たちで作るということはしたことがありませんでした。「伝え手」ではあったけれど、「作り手」ではなかったんですね。そこは未体験ゾーンでした。

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本店のブリューパブでは、地元ならではのドラフトビールを提供している。
醸造所直結のおいしさは格別。

―ビール醸造のきっかけは?

石田 ちょうど昔の店舗の移転を考えている場所があり、自分たちで何か作ってみようということになりました。お酒にもいろいろありますし、ワインや日本酒というのも考えましたが、クラフトビールがいいのではないかという結論に。というのも、弊社は横浜の十日市場というところにあり、農家さんが多い土地なのです。その地元で採れるものを季節ごとに取り入れたいと考えたら、クラフトビールになりました。クラフトビールは様々な副原料を使って作ることが可能で、ワインとかに比べると比較的短い期間で出来上がるので、畑で採れる旬の素材を活かせると考えました。シーズンごとに多種多様なクラフトビールを醸造できるということがクラフトビールに決めた一番のきっかけです。

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ホップやモルトは、ビールの種類に合わせて世界中から厳選して仕入れている。
地産地消を掲げ、横浜ブランド梨「浜なし」や神奈川ブランド米「はるみ」など、
地元農家から原料を仕入れ、新しい横浜産のビールを醸造する。

―お二人が経営者になった経緯は?

石田 実は、私は大学卒業時にやりたいことが見つからず、大学卒業後はどのような仕事に就こうか悩んでいました。父に、ワインスクールに行ってみたら?と薦められ、当時お酒はほとんど飲んだことがなかったのですが、ワインというとなんとなくキラキラしたイメージがあったので、知識はないままワインスクールに入ることに。

ワインスクールでは、大学ではあまり出会えないような、例えば企業の社長さんやフライトアテンダントの方などと知り合い、同級生になって、そして共通のワインの話で盛り上がって一緒に食事に行ったりもしました。その時に、ワインってすごいな、ただの飲み物だけど、こんなふうに人との出会いがあるんだな、と思い、父にワインに関する仕事をしてみたいと話しました。今思うと、父が敷いたレールにまんまとのせられているのですが(笑)。

その後、私はワインの輸入業者に勤めました。その時に、英語が話せないと、このビジネスの土台にも立てないのだと気づき、アメリカのポートランドに渡りました。ワインの学校に通いながらワイナリーで5年ほど働いたのですが、その時に父から、クラフトビールの勉強をしてきて欲しいと頼まれました。ポートランドは、クラフトビールの中心地でもあったからです。ビールの醸造長を紹介したりと、いつの間にか父を手伝うことになっていました。

加藤 私は、姉とは年齢が10歳ほど離れており、会社がクラフトビールの醸造を始めたころはまだ学生でした。卒業後も、いきなり家業には入らず、大手ビールメーカーに勤めました。いきなり家業に入るより、外から自分の会社のことを見るのも大事だと感じました。数年働いたのちに、家の仕事を手伝うことにしました。下北沢のタップルームの店長などを経験してきました。

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加藤氏が立ち上げた「TDM 1874 下北沢」。3年間店長として地域の方とクラフトビールの楽しさを分かち合ってきた。
特に「シモキタ CRAFT BEER FEST」には情熱を捧げてきたという。

石田 私にとって妹がいることはとても心強いです。揺るぎない存在ですから。家族経営ではありますが、父とは時代も違うので、私たち姉妹は私たちらしく、父と全く同じことをしているわけではありません。父もブランドについてはある程度私たちに任せてくれています。

加藤 自分たちでやっていると、ブランドを表現しやすいと感じています。ラベルやグッズなどもすべて自分たちの発信でお客様に届けることができます。

石田 そういうところは妹の方がセンスがあるんです。お互いの長所を生かし、その後ろに父がどっしりと構えて強いサポートをしてくれるので、安心感を持って経営することができています。

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缶のデザインも個性的でインパクト大。他にはない魅力がある。

―「TDM 1874 Brewery」について教えてください。

石田 創始者は父です。ブランドは2016年にスタートし、同年11月に工場ができ、2017年1月に酒造免許を取得して、初めてビールを醸造しました。醸造長のジョージは、私がアメリカにいた頃に紹介した人ですが、イングランド出身、日本在住の醸造家です。ですので、アメリカンスタイルかと思われるかもしれませんが、ブリティッシュスタイルのものも作っています。

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醸造長のジョージ氏。
13歳からビール醸造に興味を持ち、イングランドのダークスター・ブルーイングで5年間勤務し、来日。
アメリカのビール評価サイト「Ratebeer」でBest New Brewer (Japan)の評価を受けている。

石田 メインは定番として4~5種類、そのほかに、季節ものとして、1シーズンごとに2~3種類、限定の1回限りのものも含めると年間で40~50種類ほどを作っています。地元の原料を使ったシリーズはその年の収穫状況によって、できるものできないものがありますので、定番にはせず、季節ものとして表現しています。

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季節限定の「湘南ゴールド Hazy Pale Ale」。
神奈川県西部で採れる“黄金柑”と“今村温州”の掛け合わせで生まれたまぼろしの柑橘「湘南ゴールド」を原料に使用。
地元の魅力をクラフトビールで表現している。

―今回ご紹介いただく、定番のIPAについて教えてください。

加藤 自信を持ってご紹介できるものとして、このIPAをピックアップしました。実は、この味になるまではナンバリングをしていました。IPA#1〜24まで番号を振りながら、使うホップを変えたりレシピを変えたりしてチャレンジしていたのです。コンテストでの反応や、お客様からのご意見をいただいて、常に良いものを造ろうと昨年まで試行錯誤を重ねていました。その中で、ナンバー10が評判が高かったことがわかりました。再販して反応を見たり、コンテストでも良い結果が出せたので、これを自分たちのIPAとしようということになりました。ちょうど創業150周年でもあり、新工場の建設も決まり、決めるならこのタイミングしかないという時でもありました。

IPAはたくさんホップを使っていて、柑橘系の華やかな香り、味わいはドライでスッキリした柑橘の爽やかなシトラス、ハーブっぽい爽やかな印象です。パイナップルとかトロピカルな感じもあります。バランスが良く、華やかだけど、もう一本いけるビールです。

ラベルは、フラッグシップビールということで、横浜をイメージして、ホップの海をTDMが船に乗ってやってきたという感じを表現しています。醸造長と知り合いのデザイナーに頼んでいます。

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国内だけでなく、シンガポールで開催された「Asia Beer Championship 2024」IPA部門でアジア1位に輝いた。
「自信を持って自分たちのIPAと言える大きなきっかけになりました」(石田氏)。

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グラスに注いだ瞬間、爽やかで芳醇なホップの香りが広がる。
どことなくトロピカルな甘みとほろ苦さのバランスがよく、なんともいえない清涼感がある。
明るくハッピーな空気感があり、華やかな気分になれるビールだ

―今後のビジョンをお聞かせください。

石田 今年6月には横浜・天王町に新工場が始動しました。今までやりたくてもできなかったことができますし、在庫が切れたりしていたのも解消したいと思います。今まで通り、横浜、神奈川に力を入れつつ、東京はもちろん、海外にも進出したいと考えていて、台湾の「Food Taipei 2025」にも出展しました。10月には、シンガポールで開催される「Food Japan 2025」にも出展予定で、横浜のビールとして海外に出て行きたいと考えています。

加藤 新卒で入ったビール会社では、ビールや酒離れを実感していました。コロナもあって、お酒は今後どんどん飲まれる量は少なくなるのかもしれないと感じていました。そんな世間からの目の中、父はただ売るだけではなく、自分たちの思いを届けていきたいと、実際に挑戦し続けています。それを見て、かっこいいなと感じました。父と姉と、150年の歴史のある店を大切にしながら、地元横浜との絆を深め、記憶に残るビールを作っていきたいです。

私にとってお酒は、単に飲み物というのではなくて、人と人との間に笑顔や会話が生まれ、特別な時間を共有するための、温かい文化そのものです。緊張がほぐれてコミュニケーションが生まれたり、人と仲良くなったり、言いづらかったことも話せるようになったり、おいしいだけじゃないパワーがあります。いろんな形でアピールして、ビールを通じて人との繋がりが生まれて、もっとお酒を好きになってもらいたいと思っています。ファミリービジネスですが、面白い取り組み、もっと新しいこと、父のやってこなかったようなこと、いろいろなことに取り組んでいきたいと思います。

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醸造、小売、飲食店をブランドとして一貫して持っていることが大きな魅力。文化としてのビールを味わってみたい。

―家族の絆とファミリービジネスの可能性を感じました。貴重なお話をありがとうございました!

「IPA」(350ml)

「IPA」(350ml)
価格:¥720(税込)
店名:TDM 1874 Brewery(株式会社坂口屋)
電話:045-985-4955
月・火 11~20 / Bar 15~20(L.O. Food 19:00 Drink 19:30)
木・金 11~21 / Bar 15~21(L.O. Food 20:00 Drink 20:30)
土 11~21 / Bar 12~21(L.O. Food 20:00 Drink 20:30)
日・祝 11~20 / Bar 12~20(L.O. Food 19:00 Drink 19:30)
【水曜定休】
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://tdm1874brewery.com/products/60013
オンラインショップ:https://tdm1874brewery.com/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>

石田美寿々(TDM 1874 Brewery(株式会社坂口屋) 取締役)
1986年神奈川県生まれ。米国オレゴン州に5年間在住し、有名ワイナリーで勤務。休日にはポートランドの醸造所やホップ畑を巡り、現地の多様で個性豊かなクラフトビール文化に触れる。帰国後は「TDM 1874 Brewery」の運営に携わり、ビール粕を堆肥として再利用するなど、SDGsの観点から持続可能な醸造に取り組む。現在は地元農家と連携し、地域の農作物を活用したクラフトビールの開発にも力を注いでいる。

<文/尾崎真佐子 MC/田中香花 画像協力/TDM 1874 Brewery(坂口屋)>

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