「名古屋メシ」なる言葉が生まれる前からの定番商品。昆布専門の老舗だからこそ生まれた、滋味深い味わいで人気の名古屋みやげです。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社石昆 代表取締役社長の石川哲司氏に、取材陣が伺いました。
家庭の常備菜にも最適。昆布のうまみが効いた名古屋土産「うみぁーっ手羽」
2023/12/25
株式会社石昆 代表取締役社長の石川哲司氏
―創業からの歩みをお聞かせください。
石川 1918年の創業です。当時は、東海道桑名宿で雑貨屋を営んでいたようです。その後一家は離散。2代目が京都で昆布の加工を習得し、1935年に名古屋で店を出したのが昆布屋としての始まりとなりました。
1951年に「石川昆布有限会社」を設立。
第二次世界大戦中は昆布も物価統制の対象となり、2代目が愛知県昆布卸商業協同組合、共同加工工場工場長とり、北海道根室、歯舞、千島列島、国後島から昆布の移入を行い、歯舞諸島の志発(しぼつ)島に工場を持つまでになったそうです。
最初はおぼろ昆布や出汁昆布など、乾物の販売が主でしたが、次第に佃煮や昆布巻きなどの惣菜の製造販売を始めました。家庭で作って食卓に出すものだった昆布巻きを、真空パックにして販売を始めたのはうちが最初だと思います。それを贈答用に販売を始めたところ人気となり、百貨店を中心に、全国の直営店で販売を行うようになりました。
本店としては、戦焼や区画整理などで何度か移転をし、現在は名古屋駅に直結するファッション・オフィスビルの地下に旗艦店があります。
昆布の佃煮や昆布巻きで知られる石昆。
―名古屋土産を作られるようになったのは?
石川 周知のとおり百貨店は、1990年代をピークに、数も売り上げも減少の一途をたどり、うちも直営店の縮小を余儀なくされました。ちょうど時を同じくして、土産品事業に参入することになったんですね。そのきっかけになったのが、「うみぁーっ手羽」です。
―誕生秘話を教えてください。
石川 これ実は、私の母が家庭で出していた料理がもとになっています。まだ、「名古屋メシ」という言葉もなく、手羽先は名古屋名物でもない時代。3代目である父は、仕事で付き合いのある方を自宅に連れて来ることがたびたびありました。急なことも多くておもてなしに困った母は、手羽先肉を煮込んで冷凍するようになりました。
それをとても気に入ってくれた方が、後にサービスエリアの支配人になられたんです。お土産品として出してくれないかと打診があり、商品化への挑戦が始まりました。
おもてなし料理がきっかけに商品化へ。
―完成までの道のりは?
石川 家庭のキッチンで作る母の味を、工場で大量に再現するのはなかなか難しかったようです。母は試食をしては修正指示を繰り返しましたが、しびれを切らした父が一度発売に踏み切ってしまいました。やはり、売れ行きは芳しくなく、母の反対もあり、また一から作り直しになりました。
決め手になったのは、本業である昆布でした。昆布巻きを作る際に乾燥昆布を戻しますが、その水を使って手羽先肉を炊いたところ、それはもう、母の味を超えるほどおいしく仕上がったのです。それまでは毎日何百キロもの昆布を戻した水を、捨ててしまっていたんですね。昆布屋だからこそできた商品といえるかもしれません。
―リニューアル後の売れ行きは?
石川 発売後しばらくは厳しい状況が続いたようですが、パーキングエリアや駅構内の売店など、少しずつ売り場を増やしていきました。大きく飛躍したのは2005年。「愛・地球博(2005年日本国際博覧会)」の会場で、細々と土産品として並べていたのが、爆発的に売れたのです。中部国際空港の開港も重なり、そこから一気に名古屋土産としての知名度が上がり、現在に至ります。
甘辛のしょうゆ味、ご当地八丁みそ味、一味をきかせたピリ辛味と味のバリエーションを広げ、名古屋コーチンや赤鶏を使ったものもラインナップ。真空パックで常温長期保存ができ、湯せんや電子レンジで温めるだけと手軽なので、急な来客時やもう一品足りないときなどに重宝です。
親子丼やサラダのトッピングなどアレンジの幅も広い。
また、名古屋と言えばの鰻。土産物商品として、愛知県三河一色産の鰻を使った蒲焼き、まぶし飯、うなぎめし、うなぎ茶漬けなども人気です。
名古屋メシの1つ、ひつまぶしを手軽に楽しめる「うなぎめし」は石昆土産で人気No.1。
―商品展開へのこだわりは?
石川 昆布の商品も、土産商品も、ギフトという意味ではお客様の想いは同じだと思っています。大切な方への贈り物ですよね。手軽でありながらも本格的なものを丁寧に作っています。
SDGsというワードが出る前から、その考え方に基づいた商品開発をしているとも言えるかな。昆布巻きを作る際に捨てていた戻し水をうみぁーっ手羽に使い、さらに「名古屋コーチンのうみぁーっ手羽」の煮汁を使って「名古屋コーチン五目飯」を作るというような。これは、白いごはんに混ぜるだけと手軽ですが、昆布と名古屋コーチンの旨味をたっぷり感じる本格派です。
―少し方向性の違う商品もあるとか?
石川 うちには商品開発部というものがなく、基本的に私1人で担当しています。入社以来、昆布の新商品を作っていないことに気が付いて、改めて取り組んで完成したのが「こぶてん」というスナック菓子。昆布を天ぷら風に揚げたもので、サクサク食感がやみつきになると非常に好評いただいています。
こぶてん完成を機に作った菓子部門は、また新しいベクトルを生みました。というのも、これまで、うちの商品はデパ地下などの直営店のみで販売していましたが、こぶてんはコンビニやドラッグストアなどに卸します。そういった新しい販売チャネルに向けた商品開発も進んでいます。
さらには、名古屋メシで知られる有名飲食店とコラボしたうみぁーっ手羽やせんべいなんかも、どんどん売り上げを伸ばしているんですよ。
―今後の展望をお聞かせください。
石川 昆布はここ何年も、獲れる量が激減しています。漁師の高齢化や後継者問題も深刻です。昆布が獲れる国は限られていますが、韓国や中国からも、諸事情があってなかなか入ってきません。しかしあまり表立って報道されませんよね? それって、消費量も減っているからなんです。毎日昆布から出汁を取る人も減っているし、手軽なだしパックには昆布が入っていないことが多い。
しかし、実のところ、昆布はウニの餌だったり、地球温暖化防止に一役買っていたりするので、昆布が育たなければ海の生態系にも影響が出ます。何より、日本の食文化に根付いた伝統食材ですよね。もっと気楽に手軽に手にしてほしいと考えています。
名古屋駅直結の旗艦店は、飲食店も兼ねています。どんなものを出そうかとなったとき、ストレートにおでん屋でもよかったのですが、きしめんの店にしました。メニューにきしめん単品はなくて、混ぜご飯や昆布巻きなどがセットになっています。昆布出汁を味わいながら、名古屋名物を楽しめて、昆布惣菜との出会いの場にもなる。さらにいえば、デパートを利用しない、石昆を知らない方々にもリーチできる店。おかげ様で、女性客や若い層に多く来店いただいています。
小学校で出汁の取り方実習をしたり、味比べをしたりというような啓もう活動もしています。昆布の旨味や日本食の魅力などを改めて皆さんに知っていただき、昆布の産地を助けることにもつなげていきたいと思っています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「うみぁーっ手羽 4本袋入り」(しょうゆ味・八丁味噌味・ピリ辛味)
価格:各¥778(税込)
店名:味の司 石昆 公式オンラインショップ
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:http://www.ishikon.com/item/teba4
オンラインショップ:http://www.ishikon.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
石川哲司(株式会社石昆 代表取締役社長)
名城大学附属高等学校、名古屋芸術大学デザイン学部卒業。大阪にてフードコーディネーターの専門学校および調理の専門学校にて修学後、2009年10月石昆に取締役として入社。その後、専務取締役を経て 2013年7月代表取締役専務に、2015年12月に代表取締役社長に就任。
<取材・文/植松由紀子 画像協力/石昆>