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バリエーション豊かな静岡茶を手軽に楽しめる「静岡浅間七社巡り」と環境にやさしい茶草場農法を応援する「千年静岡茶」

2022/11/18

趣向を凝らした土産商品が、発売後すぐに世界緑茶コンテストで金賞を受賞しました。生産者が大切に育てた茶葉を、個性際立つおいしいお茶に仕上げることに注力する静岡市の茶商に注目。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった成茶加納株式会社 代表取締役社長の加納昌彦氏に、取材陣が伺いました。

社長
成茶加納株式会社 代表取締役社長の加納昌彦氏

―創業からのあゆみをお聞かせください。

加納 1948年に祖父が創業しました。2代目である父が1987年に急逝し、急遽代表を継ぐことになったのは、私が30歳のときでした。後継者という立場で勉強を始めてわずか6年の若輩者、周囲に助言や手助けをいただき、勉強を重ねてここまでやってきたというような感じです。

祖父や父の代は、卸売が中心の茶問屋でした。生産者が丹精込めて作ってくれる茶葉を仕入れ、社内の職人が加工をして全国に卸す業務が中心です。私が入社したころ、時代はバブル景気真っただ中。作れば売れる、高値のものほど引っ張りだこという世相でしたから、大量に作って大量購入してくれる先に卸すようになりました。しかしバブルははじけて経済が冷え込むと、そういった先は仕入れを絞ってくる。卸売りの限界を感じ、作り手の顔が見える商品を作らねばと決意しました。現在は、オリジナル商品を開発して直販するように軸足を移しているところです。

―意図せず社長就任が早まり、ご苦労もあったのでは?

加納 周囲に助けられる中で、自分が良い茶葉を仕入れたからといってうまくいくとは限らないよと、アドバイスを受けたことを大切にしています。茶の流通を川に例えると、生産者である茶農家が上流、販売先や取引会社は下流となります。中間にいる我々は、一方だけを大切にするのではなく、上流に感謝し下流に信用してもらって初めて成り立つ仕事なんですね。上流にも下流にも、その先にいる消費者にも感謝の気持ちを忘れないようにと肝に銘じています。

―社長ご自身、製茶への興味はいつごろから?

加納 小学4年生の夏休みに、父の提案で静岡県牧之原市の茶農家を訪ね、押し花ならぬ押し葉集を自由研究にしました。生産者や生産現場に接したのは初めてで、一口に茶葉といってもいろいろな種類があることや、紅茶は葉の種類ではなく製法の違いでできることなどを知ることができて、とても楽しかったのを覚えています。

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17種類もの茶葉について特徴や違いを調べ、押し葉にした小学4年生の夏。

―茶葉や加工法による日本茶のバリエーションを楽しめるのが「静岡浅間七社巡り」ですね。

加納 静岡市で毎年、地域の資源を生かした静岡市を代表するお土産の創造を目指す「静岡おみやプロジェクト」が行われていますが、2018年度の募集テーマが静岡浅間神社でした。徒歩10分のところで生まれ育った私にとって、子どものころには境内でセミ取りをしたりした思い出深い場所。地元では親しみを込めて「おせんげんさん」と呼びます。お茶屋として、ほかにない土産品を作りたいと思いました。

浅間神社には七つのお社(やしろ)がありますから、それぞれに違うお茶を当てはめて、ご利益とも紐づけました。

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7つある神社名の頭の文字を大きくアイコンにしたパッケージ。

―すべて異なる茶葉が、ティーバッグとドリップタイプに分かれて入っていますね。

加納 現代では急須を持ってない人も増えていますし、オフィスで気軽に飲めることも大事かと、急須がなくてもおいしく飲めるお茶に限定しました。ティーバッグのほか、ドリップタイプも考案。茶葉の特徴に合わせて、香りや味が生かせるタイプとなっています。

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コーヒーに多いワンドリップタイプを茶に応用。葉の開く様子がよくわかる。

―すべてが全く異なる味わい、香り、色となっていて、日本茶バリエーションの広さに驚きました。

加納 七社それぞれのご神徳をイメージしてセレクトしました。茶樹は100年以上繁茂する長寿植物の代表選手なので、緑茶は延命長寿の神部(かんべ)神社、ノンカフェインの玄米は安産・子授けの浅間(あさま)神社、農・漁・商・工業の繁栄のご利益がある大歳御祖(おおとしみおや)神社には「五穀豊穣」を祈るお米とお茶のハーモニーを楽しむ玄米茶という具合です。もちろん、茶葉はすべて静岡県産です。

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右上から時計回りに神部神社(延命長寿、縁結び等)の緑茶、浅間神社(安産、子授け等)の玄米、
少彦名神社(病気平癒、身体健全等)の和紅茶、麓山神社(衣食住全般等)の香り緑茶。
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右下から時計回りに玉鉾神社(学業成就、合格祈願)の玉芽茶、
大歳御祖神社(諸産業の繁栄)の玄米茶、八千戈神社(開運、必勝)のくき茶。

―発売後すぐの2019年世界緑茶コンテストで金賞を受賞されましたね。

加納 アイデアとともに、わかりやすくおしゃれなパッケージのデザイン性や、新規性を評価いただいたのかな、と自負しています。麓山神社の香り緑茶は、中国茶にも似た甘い香りが出るようにと、静岡県の試験研究機関で開発された新しいお茶なんですよ。

―「千年静岡茶」も2021年の同じ賞を受賞されています。

加納 2013年に「静岡の茶草場(ちゃぐさば)農法」が世界農業遺産に認定されました。その農法の実践者である農家の茶葉を使ってすぐに製品化しました。しかし2014年当時、「茶草場農法」は国内ではほとんど知られていませんでした。環境保全をめざす農法を行えば味が良くなるのか? という問い合わせが入りましたが、茶草場農法のお茶が評価されるには時期尚早だったのでしょうね。そこで、ターゲットや訴求ポイント、販売先など、改めて練り直してリニューアルしました。

―茶草場農法とはどのような農法ですか?

加納 斜面に「茶」の文字が大きく見える粟が岳をシンボルとする掛川東山地区で、古くから実践されてきた伝統的な方法です。ススキやアシなど、茶園周辺の「茶草場」に自生する草を刈り取り、束ねて干して敷草にします。すると土壌の水分を保つ保水効果がぐっと上がって土壌や肥料の流失を防ぐのです。雑草が生えにくくなったり、草が分解されて土壌が良くなったりすることから、お茶の味や香りがよくなるとも言われています。近くにあるものを利用して試行錯誤し、価格が変動する化学肥料の使用を最小限に抑えるなど、お茶と共生する人たちなりの知恵だったのでしょうね。茶草場を守ることが草地を守り、そこに生息する動植物の住環境を守ることにつながっていました。

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茶草場の草を刈り取り干して畝間に敷く「茶草場農法」。
環境への配慮と茶葉のクオリティ向上を両立。

―商品化するにあたって工夫をされた点は?

加納 まずはパッケージですね。中身に対応し、環境にやさしい資材を採用しました。生産者の顔をイラストにしてメインビジュアルにすることで、農家さんへの感謝の気持ちを込めています。商品名は、「この先千年でも続けられる農法であってほしい」という想いを込めて「千年静岡茶」に。ティーバッグ素材も土にかえりやすい植物由来のものなんですよ。

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パッケージ裏面には茶園の解説やメッセージが記されている。

―セット内容はどのように決定を?

加納 浅蒸し茶、深蒸し茶、和紅茶の3種類をセットにしました。一般的にポピュラーなのは深蒸しですが、お茶に関心の深い人は浅蒸しを好むこともあるでしょうし、静岡茶の多様性を伝えられると考えました。というのも、浅蒸しは山間地で作るのが大半、対して台地では深蒸し用茶葉が作られているからです。茶草場農法を実践して紅茶用の茶葉を栽培する農家もいるので、選ぶ楽しさを考えて3種類にしました。それぞれ単品販売もしています。

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色も香りも味わいも3種3様。

―味わい方を教えてください。

加納 パッケージにそれぞれおすすめの湯量と温度、抽出時間を記してあります。和紅茶は、苦味や渋みがソフトであるのが特徴なので、ぜひストレートで味わっていただきたいですね。菓子を合わせるなら、浅蒸し茶には塩味のおせんべいやクッキー、深蒸し茶にはお饅頭やおはぎのような餡子系、和紅茶はチョコレート菓子が合うと思います。

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香り高くもすっきりとした味わいの浅蒸し茶。
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濃厚な羊羹にも負けない甘さと濃い旨みのある深蒸し茶。
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えぐ味がなく香り高い和紅茶。

―今後の展望をお聞かせください。

加納 「千年静岡茶」ではSDGsのGOAL11、12、15、17に貢献しています。SDGsという言葉が出る前から実践している農法ではありますが、これからも長く生産し続けられるために、購買を増やすことを目的にあえてSDGsを謳いました。我々のような小さなお茶屋に大々的な広告は打てませんが、広く周知したいと思っています。生産者が丹精込めて作る茶葉を、安心、安全、高品質な本当においしいお茶に仕上げることが産地茶商の使命。これからも皆様に喜ばれるお茶づくりを続けてまいります。

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紅茶づくりの1コマ。

―茶づくりの工程すべて、大きな愛情と強いこだわりを持って関わっていらっしゃることがよく伝わりました。素晴らしいお話をありがとうございました!

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「静岡浅間七社巡り」
価格:¥1,080(税込)
店名:叶茶屋公式Webサイト
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.kanohchaya.com/%E9%9D%99%E5%B2%A1%E6%B5%85%E9%96%93%E4%B8%83%E7%A4%BE%E5%B7%A1%E3%82%8A/
オンラインショップ:https://www.kanohchaya.com/%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%97/

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「千年静岡茶3種セット」(浅蒸し茶・紅茶・深蒸し茶 各3g×10個入り)
価格:¥3,024(税込)
店名:叶茶屋公式Webサイト
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://kanohchaya9.thebase.in/items/40476692
オンラインショップ:https://kanohchaya9.thebase.in/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
加納昌彦(成茶加納株式会社 代表取締役社長)

1957年静岡市の茶町界隈に生まれ育つ。1982年成茶加納株式会社に入社し、1988年同社代表取締役社長に就任。生産者が丹精込めて作った荒茶を個性的で美味しい茶(製品)に仕上げることが産地茶商の役割と考える。2000年に日本茶インストラクター(1期)に認定され、地域や職域での普及活動にも励む。2019年「静岡浅間七社巡り」、2021年「千年静岡茶」と、手がけた商品が世界緑茶コンテストで金賞を受賞。博士(農学)〈筑波大学〉

〈文・撮影/植松由紀子 MC/橋本小波 画像協力/成茶加納〉

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