今回、編集長アッキーが気になったのは、ご当地のクラフトビールです。商品を製造・販売している鎌倉ビール醸造株式会社・代表取締役社長の今村広太郎氏に商品の魅力を取材陣が伺いました。

鎌倉ビール醸造株式会社 代表取締役社長の今村広太郎氏

―まずは今村社長のご経歴からお聞かせください。

今村　私は鎌倉生まれ鎌倉育ちで、幼少期から鎌倉の寺社仏閣に囲まれた環境で過ごしていました。家は当時「今村酒店」という酒屋を営んでいて、地域の方々が集まって賑やかでした。子どもの頃は父と一緒に配達をしながら、品物を届けるだけじゃなくて、人と人が繋がる場を作っている、祖父や父の姿を見てきました。商売を通じて地域の人々の生活を支える家業の意義を自然と肌で感じていました。1997年に「クラフトビールを作りたい」という父の思いから鎌倉ビール醸造が設立され、以来、地元の方の乾杯酒に選ばれてきました。

高校時代は野球をするために東京で寮生活を経験し、家族と離れてみて地元鎌倉の貴重さを改めて感じました。私は次男だったので家業に入る選択肢は当初考えていませんでした。しかし大学時代にアルバイトとして家業を手伝う中で、地域に根差し、地元の人々に誇りを感じてもらえる仕事をしたいという思いが強くなったのです。鎌倉で唯一のビール醸造所だった家業を誇りに感じ、ここで自分の手で人々の心を潤す仕事をしようと決意をしました。

鎌倉武士シリーズ。

―経営者になられて苦労されたことはございますか？

今村　大学卒業後すぐに家業に入ったことが、自分としては遠回りだったと感じています。一般的には一度外部で経験を積んでから戻るケースも多いですが、私はそうではありませんでした。社会人としての経験が乏しい中で葛藤もあり、いろいろな失敗もしました。

―鎌倉ビールの特徴は何でしょうか？

今村　大手メーカーとはまず作っている量が全く違います。私たちが1年間かけて作る量を大手さんは1日もかからず作ってしまうと言われています。また、私たちは鎌倉という名を冠してビールを作っているわけですから、その土地の風土や料理、文化に合わせたビールづくりを心がけています。味わいの面では、大手さんのビールはガスが強めでスッキリとした飲み口のものが多いですが、私たちはモルトの甘みやホップの苦み、香り、後に残るコクといったところにポイントを置いて、多品種のビールを作っています。

「武士の宴」（IPA）。フルーティーな香りと奥深い苦みが特徴。

―創業当時と比べて製法や品質面で変わった点はありますか？

今村　創業当時の1997年は設備や原料、情報が今ほど充実していませんでした。現在は原料の質も良くなり、何より職人が育ってきました。唯一変わらないのは、創業当時の釜で今も作り続けていることです。私たちの強みは、キリンビールの醸造研究所の元所長に長年にわたり指導していただいていることです。90歳を超えても鎌倉ビールの辛口レビューをしてくれる師匠のような存在で、歴代の醸造担当を育ててくれました。

「武士の褒美」（ピルスナー）。フローラルな香りとやわらかな苦みのバランス。

―ご紹介する商品「武士シリーズ」について教えてください。

今村　「武士シリーズ」はコロナ禍に誕生しました。「武士の宴」はシリーズ第1弾で、多様なホップを使用したフルーティーな香りと奥深い苦みが特徴のIPAです。鎌倉の移り変わる自然の多様さをフルーティーな香りで、新旧の建物が建ち並ぶ町並みをキリッとした苦みで表現しています。

「武士の休息」はシリーズ第2弾で、リラックスした鎌倉武士の姿をデザインしました。ゆずの風味が加わった爽やかなベルジャンホワイトで、アルコール度数も低く設定し、軽やかな飲み口を追求しています。

「武士の褒美」はお風呂に入る武士をデザインした第3弾。ヨーロッパの伝統的なホップを使ったフローラルな香りのピルスナーで、お風呂上がりに飲んでほしいビールとして開発しました。

「武士の休息」（ベルジャンホワイト）。ゆずの風味が加わった爽やかな味わい。

―「ROUTE134（いちさんよん）」についても教えてください。

今村　「ROUTE134（いちさんよん）」は国道134号線にちなんだビールです。この道路は鎌倉から湘南エリアを通り、様々な地域を結んでいます。私たちはビールが人と人、人と町を繋ぐものだと考えているので、それをイメージして名付けました。地元の画家・横山寛多氏に描き下ろしていただいたデザインには、鎌倉を象徴する風景が描かれています。コロナ禍で苦しんでいた海の家を応援する気持ちも込めて発売し、今では湘南エリア全体で人気の商品となっています。

湘南の国道134号線にちなんだ夏向けのIPA。

―これらの商品はどこで購入できますか？

今村　鎌倉市内の酒屋さんやスーパー、コンビニで販売しています。また、インターネットでもお取り寄せいただけますので、全国どこからでもご注文いただけます。

―お客様の層はどのような方が多いのでしょうか？

今村　創業当初は30代半ばから50代の女性をメインターゲットにしていました。鎌倉の観光客は平日の昼間に女性のお客様が多かったというデータに基づいてのことです。しかし、25年以上経つ中で世の中の流れも変わり、クラフトビールの認知度も上がってきました。現在では男女比はほぼ半々で、私が社長になってからは若い層向けの「ROUTE134」などの企画も始め、お客様の層も広がってきています。

―今後のビジョンについてお聞かせください。

今村　私たちが目指しているのは、鎌倉に住んでいる人が誇りに思うビールになることと、鎌倉に思いを寄せる人々にとってのウェルカムドリンクとして上質なひとときを演出することです。ビールという飲み物は単なる消費にとどまらず、人とひと、ひととまちをつなぐコミュニケーションツールだと考えています。地元の方が遠方から友人を鎌倉に招く時に「まずは鎌倉ビールで乾杯」と言ってもらえるような存在でありたい。

そして観光客の方には、旅の思い出をより豊かにするきっかけになってほしいと思っています。私は毎月1回、必ず先祖の墓参りに行っています。自分がこの立場になって、先祖の人たちがバトンを繋いできてくれたんだなと実感するようになってから、より大切にしなければと思うようになりました。ビールづくりも同様に、伝統を守りながら次の世代へとつなげていく意識を持っています。

―貴重なお話をありがとうございました。

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

＜Guest’s profile＞

今村広太郎（鎌倉ビール醸造株式会社 代表取締役社長）
1986年神奈川県鎌倉市生まれ。関東学院大学法学部卒業。100年の歴史を持つ今村酒店（実家）が創業した「鎌倉ビール醸造株式会社」に入社。事業運営に携わり、経営基盤の強化に取り組む。2023年、同社代表取締役社長に就任。組織体制の強化や財務健全化を進めながら、地域社会とのつながりを重視し、鎌倉ビールを世界から「愛されるブランド」へと成長させることに注力している。鎌倉青年会議所や消防団に所属し、地域貢献にも積極的に関わる。

＜文／垣内栄　MC／藤井ちあき　画像協力／鎌倉ビール＞