
薄い外皮と粒あんのバランスが絶妙な明治生まれの倉敷名物。ネーミングも愛らしい銘菓「むらすゞめ」
2025/05/22
岡山県倉敷市は、明治以来の繊維のまちであり、倉敷美観地区や瀬戸大橋など名所が多い観光地としても知られています。今回、編集長アッキーが気になったのは、お茶席にも用いられている倉敷を代表する銘菓「むらすゞめ」。このお菓子を製造販売する株式会社橘香(きっこう)堂は、地元でいち早く和菓子の技術を取り入れた洋菓子を作るなど、時代に合わせた菓子作りに努める老舗の菓子処です。5代目で代表取締役社長の吉本昌弘氏に、商品の特長や開発のエピソード、こだわり、今後の展望などを取材陣が伺いました。

株式会社橘香堂 代表取締役社長の吉本昌弘氏
―ご創業は何年になりますか。
吉本 初代が「むらすゞめ」を作っておまんじゅう屋さんとして創業したのが、148年前の明治10(1877)年になります。
―創業当時のエピソードを教えていただけますか。
吉本 当初、倉敷には銘菓というものがありませんでした。そこで、初代がいろいろ試行錯誤するなかで、今のかたちの「むらすゞめ」というお菓子を作り上げました。そして郷土の先覚者だった林孚一翁(はやしふいちおう)に、これを倉敷名物として売りたいということで相談し、橘香堂という社名と「むらすゞめ」という商品名を考えていただきました。この方は林源十郎商店という有名な薬屋さんで、非常に博識な方でしたので相談したのだと思います。

菓子の祖とされる橘の香りから店名をとり、和菓子屋として創業した「橘香堂」。
厳選した素材を用い、手作りによるさまざまな和菓子や洋菓子を提供している。
全国向けの通信販売は、吉本社長が2014年から開設した同店オンラインショップのほか、
天満屋やジェイアールサービスネット岡山のネットショップでも扱っている。
―今回ご紹介する「むらすゞめ」というお菓子は、歴史が長い商品なのですね。その製法や素材のこだわりは。
吉本 弊社はずっと時代に合った味を追い求めていまして、素材としては常に北海道産の小豆を使っているのですが、昨年、北海道産の品質がすごく落ちたんです。そこで思い切って昨年だけ品質に優れたカナダで作っているエリモ種を使い、今年から北海道産に戻しました。
―その時その時に合わせて、一番おいしいものを使っていらっしゃる。
吉本 そうですね。でもこれも何十年に一回しかないようなことだと思うので、基本は北海道産です。
―「むらすゞめ」の外皮は、クレープのような薄さで、形も特徴的ですね。
吉本 外の皮をあの形にしたのは初代の考案です。実は焼きたては丸い生地の端の部分がクッキーみたいにパリパリに硬くなっているんです。それであんこを包んで番重の中で寝かせていくと、あんこの水分が生地にしっかり回ってしっとりしておいしくなる、というのが特徴ですね。
実は、これまでずっと全部職人の手で「むらすゞめ」を作っていたのですが、コロナ禍の影響で売り上げが激減してしまいコスト削減のため、やむなく皮だけ焼く機械を導入して、あんこを包むのは人の手で行うという半自動化のかたちに変えました。でもやっぱり手で焼いたほうがおいしいので、今はその機械も使いつつ、手で焼いたものも提供しています。
―そうなんですね。作り方は、使う小豆などによって少しずつ変えたりされているのですか。
吉本 そうですね。小豆が変わると、水に浸ける時間や炊く時間などいろいろ変わってくるので、その年の小豆を見ながら調節しています。特に昨年使用したカナダ産小豆は炊くとさらさら感が強かったので、それをもう少しねっとりとした感じに寄せるとか、炊き方についてはいろいろ考えました。

同店の初代・吉本代吉氏が、豊作祈願の踊りでかぶる編み笠の形と、稲穂の黄金色から着想した創業以来の銘菓「むらすゞめ」。
和菓子に小麦粉と卵を用いるという、当時としては画期的な商品だった。
新鮮な卵と特別にブレンドされた小麦粉を使い、薄く焼いた外皮の中には、北海道産小豆を炊き上げた粒あんがたっぷり。
なめらかな中に小豆の存在感あるあんこは、上品な甘さで、しっとりとした生地と絶妙にマッチし、幅広い層から愛されている。
実りの秋を表現したお菓子として、茶道五流派の10月のお菓子にも指定されている。
―和菓子も洋菓子も幅広く展開されていますが、商品開発は吉本社長がやってらっしゃるのですか。
吉本 それもありますし、現場から上がってきたもので、「おお、いいね。でも、もっとこうしたほうがいいよね」というのを商品会議で繰り返しながら改良を重ねていき、優れたものが新商品として店頭に並んでいます。

選りすぐりの大粒の栗が丸ごと1個入った「むらすゞめ」に次ぐ人気の「栗まん」も、おすすめの品。
旨みのあるやわらかな栗ときめ細かな白あん、しっとりとした外皮のハーモニーが楽しめる。
―オンラインショップと実店舗をお持ちですが、実店舗は現在何店舗展開されていますか。
吉本 倉敷の本店を含めて6店舗です。今年2月12日に岡山駅のさんすて岡山南館2階に出店しまして、そこでは「むらすゞめ」の実演販売を行っており、焼きたてが食べられるのでご好評いただいております。実演ブースは美観地区店にもあるのですが、こうしたスタイルは独立店舗では初ですね。やはり焼きたてが一番おいしいと思っていますので、ぜひ一度味わっていただきたいですね。



2月にオープンした「さんすて岡山店」では、実演ブースを併設し、焼きたての「むらすゞめ」を買うことができる。
実は1965年頃まで倉敷駅横に隣接していた旧店舗で焼きたてを販売していたことがあり、
このようにできたてを提供することは念願だったと吉本社長。
2週間日持ちするお土産用と違って2日しか持たないが、生菓子本来のおいしさを現地で味わってほしいという。
―ありがとうございます。では、今後の展望を教えて下さい。
吉本 高度成長期の時代にお土産用に特化した商品作りを行ってきたなかで、地元消費が少なくなっていることがコロナ禍で浮き彫りになりました。やはり地元の方に愛されるように、これからは地元で普段使いされるような菓子作り、お菓子屋さんを目指していけたらと思い、そういった舵の切り方を少しずつしているところです。
―実店舗での実演もその現れになりますか。
吉本 そうですね。
―本日は貴重なお話をありがとうございました!

「むらすゞめ」(4ヶ入/8ヶ入/12ヶ入/16ヶ入/24ヶ入/個装10ヶ入)
価格:¥680/¥1,360/¥2,000/¥2,700/¥3,900/¥2,000(各税込)
店名:株式会社橘香堂
電話:086-422-5585
商品URL:https://kikkodo.com/?pid=15065521
オンラインショップ:https://kikkodo.com/

「栗まん」(1ヶ/4ヶ入/8ヶ入/12ヶ入/16ヶ入)
価格:¥200/¥920/¥1,800/¥2,600/¥3,400(各税込)
店名:株式会社橘香堂
電話:086-422-5585
商品URL:https://kikkodo.com/?pid=15065564
オンラインショップ:https://kikkodo.com/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
吉本昌弘(株式会社橘香堂 代表取締役社長)
岡山県倉敷市生まれ。東京の飲食店数軒で勤務し、アジア料理、フレンチ、イタリアンなどの調理を経験。調理師専門学校教員を務めた後、倉敷に戻り実家である株式会社橘香堂に入社。家業を継承し、5代目となる。
<文/山本真由美 MC/田中香花 画像協力/橘香堂>