アッキーこと坂口明子編集長が今回、イチ推しするのは石川県能登地方の工房が作るジェラート。豊かな自然の中で搾乳された生乳を素に、香り高いフレーバーを加えたアートとも呼べる極上の味が人気です。このジェラートの魅力の理由を、世界的なジェラートコンテストの受賞者でもある株式会社マルガーの代表取締役 柴野大造氏に取材スタッフがうかがいました。
奥能登から発信する、世界コンテストを受賞した絶品ジェラート
2023/09/19
株式会社マルガーの代表取締役 柴野大造氏
―もともとは酪農家だったとか。
柴野 そうです。父が30年余り牧場を経営していましたので私も酪農を継ごうと東京農業大学に進学し、帰郷して就農しました。そのときは自分がジェラート職人になるとはまったく考えていませんでしたね。
しかし、酪農を始めてみると、酪農家を取り巻く環境がなかなかに厳しいものがあるとわかりました。今も状況は変わらないと思いますが、輸入飼料の高騰であったりとか生産調整の波であったりとか、設備投資回収が困難だったりとかです。
またその頃、北海道を中心に酪農家自身がソフトクリームなど生乳を加工して販売するという6次産業化の波がありました。そこで僕らも自家生乳を使って何かを作りたいと思いました。消費者の顔が見える場所で酪農家の思いを届けられたらいいと思ったのです。乳製品の中でまだ地元では誰も手掛けていなくて、幅広い年代の方に楽しんでいただける乳加工品は何かを考え、ジェラートを作ろうと思ったのが始まりです。
もちろん、製菓学校などを出たわけではないので独学です。イタリアからレシピ本を取り寄せて、見よう見まねでつくっては満足がいかずまた試作する……の繰り返しでした。
マルガーの原点ともいうべき「マルガージェラート能登本店」。
―「マルガージェラート能登本店」の開店は?
柴野 ジェラート製造がなんとか形になった1999年に開店しました。牧場しかやってこなかったので商売のことは何もわからずに始めたので大変でした。まず店は幹線道路沿いになく、道路に背を向けて建ってます(笑)。田んぼのわかりにくい場所にポツンとあるので、ナビを入れなかったり看板を見落とした車は大抵通り過ぎます(笑)。
ただ、次第にそれがおもしろいという声があがるようになりました。「なぜか道路に背を向けて建っている古めかしい雰囲気のジェラートショップ。でも味は絶品」などとメディアに取り上げられ、行きにくさも含めて楽しんでいただくようになったのです。
今は私の妹夫婦に経営してもらっています。辺鄙な場所に県外ナンバーも含めてたくさんの車が来て、ジェラートを買いにきてくださるお客様でにぎわっている不思議な光景です。この店は私たちのルーツとして、今後も存続させていくつもりです。
―イタリアのコンテストに出場したのは?
柴野 自分のジェラートがどこまで通用するのかを知りたくて本場イタリアのコンテストにエントリーしましたが、最初の7年は箸にも棒にもひっかかりませんでした。
そこで、ジェラートを使ったパフォーマンスを考えました。音楽に合わせてジェラートのベースになる液体を液体窒素で急激に冷やして空気を含ませてジェラートをつくり、お客様に配る。それを“ジェラートイリュージョン”と題して日本全国ツアーを行い技を磨きました。それを本場のイタリアで披露したんですね。
すると会場で、ある老人が「君、なかなかおもしろいね」と声をかけてくれました。彼の工房に招かれたので、日本に帰る飛行機をキャンセルして行きました。すると、彼は「ジェラート製造は化学である」と言うのです。「空気と水分と固形分の最適な割合は何%と決まっている。砂糖も素材に合わせて変えるなど、理論的にレシピを構築していかないといけない。君は組成理論を勉強した方がいい」と言われました。その老人こそ、イタリアジェラート界の重鎮、ティト・ペンネストリ氏でした。僕は彼の理論に従ってみっちり勉強して2017年にイタリアのジェラートワールドツアーグランドファイナルで一般投票1位、世界総合4位、さらに同年パレルモで開催された世界最大のジェラートコンテスト「シャーベスフェスティバル」で総合優勝しました。アジア人で初の世界チャンピオンになったのです。
―柴野さんが理想とするジェラートとはどのようなものでしょう。
柴野 食べたときに、気持ちがグッと上がるようなジェラートですね。食べたら気持ちが前向きになって、体にもいい、そんな”魂の食品”を追求しています。
僕は“ジェラートは化学と感性の融合した味の小宇宙”という言い方をしています。
感覚だけで作るだけではだめですが、化学的に考えて作るだけでもお客様を感動させることはできません。組成を考えて作った上で、その職人でなくては生みだせない味であることが大切です。
「マルカルポーネとオレンジバニラ」は「日本ジェラートマエストロコンテスト」で優勝した。
―柴野さんのジェラートにはフレーバーやスパイスが使われています。
柴野 我々のジェラートの基本の素材は、搾りたてのおいしい生乳です。当社では能登の酪農家5戸の生乳を仕入れており、その中に親戚が営む柴野牧場の生乳も含まれています。それをその日のうちに低温殺菌してジェラートにしています。生乳は人間の体に必要な栄養素がバランスよく配合された完全栄養食品で、体にも心にもいい影響を与えると思います。
生乳を基本に、フルーツや花、ハーブやスパイスを加え、独自のジェラートを作っています。ジェラートを食べたときそれらのフレーバーが複雑に絡み合って鼻から抜けたとき、幸福感に満たされ、思わずと吐息が漏れてしまうほどエレガントな気持ちになっていただく……そんなことを大事にしていますね。
口中を爽やかな風が通り抜けるようなスッキリした味わいの
「パイン・リンゴ・セロリのソルベ」はイタリア世界大会優勝作品。
セロリをジェラートの素材にするという
固定概念を打ち破る発想が本場・イタリアで賞賛された。
濃厚なピスタチオの風味を贅沢に味わえる「グランピスタチオ」。
―今回、ご紹介いただく「MALGA 6個入りセット」もそれぞれに芸術的で奥の深い味わいです。
柴野 「パイン・リンゴ・セロリのソルベ」は世界大会の優勝作品です。食事の後、消化を促進させ胃をスッキリさせたいときに効果がある食品で構成しています。セロリはイタリア人でも好みが分かれるらしく、セロリを入れることは懇意にしているイタリア人マエストロが全員反対しましたが(笑)、「目的の無いジェラートには意味がない」との信念を貫き1年かけてレシピを作成しました。
「マスカルポーネとオレンジバニラ」も日本のコンテストで優勝しました。マルカルポーネチーズを入れた濃厚な味に、オレンジの柑橘の香りを背景に忍ばせているので、軽く感じられます。これは週末に自分へのご褒美として味わっていただいて癒しになることをテーマにしています。
「グランピスタチオ」も国際大会で入賞しています。ピスタチオのジェラートは「その店の味を知りたかったらピスタチオジェラートを食べろ」というぐらいイタリアンジェラートの定番中の定番です。当社ではピスタチオの工業製品ペーストを仕入れるのではなく豆から仕入れ、ローストする温度と時間にこだわって自家焙煎したものを使っています。
能登は古代から製塩が盛んな地方。
能登の塩を使った「能登の塩」。甘さとしょっぱさの加減が絶妙で、
奇しくも塩スイーツブームの先駆けとなった。
―能登の生乳100%のジェラートや塩のジェラートもありますね。
柴野 「能登プレミアムミルク」は能登の酪農家の限定生乳を100%使用したジェラートです。
「能登の塩」はジェラートを作り始めた時期のヒット作なので格別の思い入れがあります。地元の産物をジェラートにしようと試みた中で人気になりました。その後で塩キャラメルなど塩スイーツブームが起こったので、このジェラートはその先駆けになりました。これも地元で賞をいただいています。
「抹茶」は濃いめの抹茶を練り込んでいます。これは通販限定品でギフト用パックだけでしか味わえません。
生乳の味そのものが味わえる「能登プレミアムミルク」はじめ、
「能登の塩」、「抹茶」など地元の素材を取り入れている。
―数々の賞に彩られたジェラートですね。
柴野 ただ、僕は受賞した味を守り続けるというのは古い考え方だと思っています。受賞はひとつのきっかけに過ぎなくて、むしろスタート地点です。受賞を原点にして何回もレシピを変えています。世界一や日本一になったジェラートも原形は崩さないものの、よりおいしいものに進化させています。ある日、「これでいい」と思っても翌日にはまたレシピを変えたりしてますからね(笑)。
「マルガーラボ野々市」は工房、ショップ、
イートインスペースがあるジェラートのミュージアム。
―ジェラートを楽しみたい方へのメッセージはありますか。
柴野 今回紹介する「MALGA 6個入りセット」は我々の自信作としておすすめできるセットです。もし気に入っていただいたらぜひ、石川県能登に来ていただいて、自然豊かな能登の景色を見ながら、先ほど紹介した「マルガージェラート能登本店」や、昨年10月にオープンした「マルガーラボ野々市」などで作りたてのジェラートを楽しんでいただけたらと思います。本来、ジェラートはお店に行ってできたてを食べるもの。当店の作りたてジェラートは空気を最適バランスで含んだ滑らかな食感で口の中にフレーバーの余韻が残ります。必ず感動していただけて、幸福な時間をお約束できると自信を持って申し上げられます。
―柴野さんの夢は何ですか。
柴野 ジェラートをテーマにした自然科学研究所を作ることです。周囲には牧場、養蜂場、養鶏場、ハーブ園があり、そこでジェラートを化学的に研究したり、ジェラート職人を育てたりしたいですね。実はもう設計図もできているんですよ。最終的にはジェラートの組成理論を研究した学術専門書を出版したいですね。
―素敵な夢ですね。本日はありがとうございました。
「MALGA 6個入りセット」(パイン・リンゴ・セロリのソルベ/マルカルポーネとオレンジバニラ/グランピスタチオ/能登プレミアムミルク/能登の塩/抹茶・1個90ml)
価格:¥4,300(税込)(送料込)
店名:MALGA GELATO
電話:076-246-5580
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:MALGA 6個入りセット(送料込)| malgagelato’s STORE (stores.jp)
オンラインショップ:malgagelato’s STORE (stores.jp)
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
柴野大造(株式会社マルガー代表取締役)
1975年、石川県能登町生まれ。東京農業大学卒業後、家業の酪農に就農。1999年に地元能登町に「マルガージェラート能登本店」をオープン。2016年、アジア人初の世界ジェラート大使に就任。2017年、「Sherbeth Festival」で初優勝し、アジア人初の世界チャンピオンとなる。現在、洋菓子世界コンクールの日本代表監督を務めるほか(2021年総合優勝に導く)、国内ジェラートショップの店舗監修・プロ向け講習会なども行う。
<MC・文・撮影/今津朋子 画像協力/マルガージェラート>