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刃物の名産地「関」の技術とアイデア。ユニバーサルデザイン&ネイルにもやさしい「みんなのはさみ」

2023/09/15

岐阜県関市は、刃物産地として鎌倉時代からの歴史をもつ町。ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと共に世界三大刃物産地にも名を連ねています。現在もすぐれた刃物製品がそろうなか、今回編集長アッキーが注目したのは、年齢や体格、障害の有無に関わらず、誰もが使いやすいようにと考えられたユニバーサルデザインのはさみ。開発した日本利器工業株式会社 代表取締役社長の亀井高利氏に、刃物づくりや開発の経緯について取材陣がうかがいました。

日本利器工業株式会社 代表取締役社長の亀井高利氏
日本利器工業株式会社 代表取締役社長の亀井高利氏

―刃物の町関市のなかでも、最も古い刃物企業とうかがいました。

亀井 1867年(慶応3年)に創業し、私は4代目です。関はもともと日本刀の産地で、初代は刀剣の鞘を作る鞘師でした。明治以降、ポケットナイフを中心に刃物の製造卸を行うようになりました。その後、ドイツ人が経営していたカミソリ工場の製造設備を譲り受けることになって、カミソリの製造も始めたのですが、カミソリ屋としては日本で一番古いです。そこから全国でカミソリが製造されるようになりました。関は刃物の町ですが、現在関でカミソリを作っているのは4社しかないんです。

―パイオニアであり、貴重な存在ですね。

亀井 第二次世界大戦の直前には、資生堂ブランドのカミソリを作るようになりました。戦争が始まり、軍刀、海軍用のカミソリや飛行機の部品を作る時代を経て、戦後は先代である父がカミソリやハサミ作りに専念し、新しい技術を取り入れようとアメリカやドイツに学びに行くこともありました。

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1957年にステンレススチール製カミソリの生産に成功。
この年から資生堂ポアンカミソリの刃として発売されました。

―資生堂のカミソリといえば、女性をはじめ多くの方におなじみですね。

亀井 1956年には資生堂ブランドの男性用カミソリも製造を始めました。これは1920年代に登場したステンレススチールが錆びにくいということで、先代が日本金属と日立金属さんと協力してステンレスを使ったカミソリの開発に取り組み作り上げた、世界で初めてのステンレスカミソリです。現在カミソリの素材はすべてステンレススチール。実は世界初と思われていた英国の企業に問い合わせたところ、英国の企業が発売したのは1964年で、1956年に発売した弊社が世界初であったということがわかり驚きました。

―先代の作られたものが世界初だったのですね。ステンレスカミソリはなぜそれまでなかったのでしょう?

亀井 素材の製造も加工も難しかったんです。錆びにくいというのがステンレスの特徴ですが、鍋などニッケルが多いものではなく、刃物はカーボン量が多く錆びることもあるので、焼きを入れるなど手間がかかるんです。現在当社は、女性用に特化したカミソリを作っていますが、ものを切るはさみや包丁と違って、人間を切るものですから、いいものを作らなければ痛いとか血が出るとかということになります。その上衛生用品なので試し切りもできませんので、品質管理には気をつけてきましたし、資生堂からの厳しい指導を受けてカミソリ屋として鍛えられてきたと思います。刃物にはさまざまな商品がありますが、カミソリはミクロン単位の精度が必要で、繊細な仕事が要求されるものです。

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ユニバーサルデザインの「みんなのはさみ mimi」。
手前は携帯できる「みんなのはさみ mimi ミニ」。

―そのような歩みのなかで「みんなのはさみ mimi」の開発に取り組まれた経緯は?

亀井 20年ほど前、金沢美術工芸大学の荒井利春先生から、障害がある人もない人もみんなが使えるユニバーサルデザインのはさみを作ってもらえないかと、関市の組合にお話がありました。荒井先生はすでにスプーンやフォークも作っておられて、高齢者や筋ジストロフィーの方をはじめ握力のない方にも使えるはさみをとお考えでした。その思いに応える商品を作りたいと思いましたし、先生も当社を信頼してくださって開発が始まったんです。「みんなのはさみ」は特殊なものですが、何らかの形で社会に貢献できればと、私どもとしても作ってみたかった商品です。この緑の部分は劣化しにくい特殊プラスチックを用いていて弾力性があり、手のひらで押してものを切るんです。

―一般のはさみだと握ったり切って戻したりするのが難しい方もおられますからね。

亀井 そう、押すだけなんです。幅が広いのでテーブルに置いて押す。自分の胸あたりをテーブル代わりにしてそこに置いて押すということもできます。今はラーメンでもお菓子でも、何を食べるにも袋に入っていて、中にもまた袋ですから、開封しないと何も食べられないんです。握力がなくても、身の回りのことはできるだけ自分でしたいとおっしゃる方が多いですから、道具として手助けができればと考えています。また、ユニバーサル商品はすべての人に使いやすいということであって、障害のある方専用というわけではありません。2005年にグッドデザイン賞を受賞しましたが、たくさん売れるものではありません。ただ、商売になりませんがこういう世の中の為になる商品があってもいいのではないかと考えて製造を続けています。

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机に置いてプラスチック部分を押せば羽先で袋が切れ、
弾力により元に戻ります。持ち手の一番上に手を置いてもOK。

―お子さんや手の手術をされた方にもニーズがありそうですね。その後出されたミニサイズは、女性に人気とか。

亀井 「みんなのはさみ mimi ミニ」です。これはお出かけ用としてバッグに入れておいていただきたいはさみです。洋服から出た糸を切るとか、何かとはさみは必要ですし、ペットボトルを開けたり缶のプルトップを引いたりすることもできるので、特にネイルをされている女性に喜んでいただいています。また、お弁当の調味料の小さなパウチが切れない時にも便利です。

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日常の暮らしに便利な機能が付いた「みんなのはさみ mimi ミニ」。
色はピンク、ブルー、グリーンの3色。
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ペットボトルのキャップを取るのに便利。
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手紙や食品の袋を開ける時にさっと取り出して使いやすい。
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爪や指先の弱い人、ネイルをしている人など、プルトップが苦手な人も
これさえあれば缶ドリンクもすぐに飲めます。

―今はどのようなものを開発中ですか?

亀井 プラスチックを使わないオール金属のものや、生分解性樹脂や紙を使ったものなど環境に配慮した商品も考えているところです。SDGsについて、ヒートアップするのではなく、企業の中でできることを考えていきたいですね。誰もしていないことをするという意味では、これまでプラスチックハンドルのはさみやガード付きカミソリも当社が日本で初めて開発しているんです。

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お出かけの際には、「みんなのはさみ mimi ミニ」をポーチに入れてバッグの中に。
はさみが役立つ場面は想像以上に多いはずです。

―常に時代の先端を行かれるのですね。

亀井 人の真似をしたくない、オリジナルを作りたいんです。コピーは楽ですが、独創的なもののほうがいい。プライドかもしれませんがパイオニアでありたいですね。一番大きくなるのではなく、誰もしていないことをやりたいんです。

―今後の展望をお聞かせください。

亀井 精神としては「本物」を作っていきたいですね。お話ししたように、関のカミソリも4社だけになりましたが、これからも変わらずによいものを作りたいと思います。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

みんなのはさみ mimi

「みんなのはさみ mimi」
価格:¥3,300(税込)
店名:日本利器工業
電話:0575-22-3311(9:00~12:00、13:00~17:00 土日・祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:みんなのはさみ mimi
オンラインショップ:https://www.nippon-riki.co.jp/blank-10

みんなのはさみ mini ミニ

「みんなのはさみ mini ミニ」
価格:¥1,040(税込)
店名:日本利器工業
電話:0575-22-3311(9:00~12:00、13:00~17:00 土日・祝日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:みんなのはさみ mini ミニ
オンラインショップ:https://www.nippon-riki.co.jp/blank-10

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
亀井高利(日本利器工業株式会社 代表取締役社長)

1948年生まれ。成蹊大学経済学部卒業後2年間米国留学。帰国後日本利器工業株式会社に入社。社長室長として先代社長に同行し米国・ヨーロッパを視察。特にドイツゾーリンゲンへは30回以上訪れている。岐阜県刃物連合会副会長、関金属工業組合理事長を務める。

<文・撮影/大喜多明子 MC/石井みなみ 画像協力/日本利器工業>

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