お茶やビール、お酒にも合い、世代を超えてみんなで楽しめるのがあられ、おかき。今回アッキーこと坂口明子編集長が注目したのは、シンプルながら一度口にするとまた食べたくなると評判の「おかき屋 辰心」。製造元である竹新製菓株式会社、代表取締役社長の新美舞氏に、商品づくりや会社を受け継いだ思いなど、お話をうかがいました。
袋を開けたとたん広がる香ばしい香り。国産のもち米から丁寧に作った逸品「あられ」「おかき」
2023/09/01
竹新製菓株式会社 代表取締役社長の新美 舞氏
―創業は終戦翌年の1946年。おじいさまがお始めになったのですね。
新美 アイスキャンディの製造から始め、その後お米や海苔、たまり醤油などが地元でとれるので米菓の製造をしはじめたと聞いております。その後、初代社長である祖父が急逝し、祖父の弟、つぎに父が社長を務めて、2018年に私が会社を引き継ぎました。
―30代前半で社長に。若くして会社を継がれましたが、以前からそのおつもりで?
新美 いえ、学生の頃からお店の手伝いはしていましたが、会社に入ることは考えていませんでした。古い体質の会社というのか、役員に女性はいませんでした。兄もおりましたし跡継ぎになるなんて想像もしていませんでした。もともと自由気ままに海外で暮らしたいなと思っていて、いろんなところに出かけ、いろんな人に出会うのが好きでした。大学を卒業し少し工場を手伝っていた時に、中国の技能研修生を担当したのですが、彼女らに自己紹介すらできない事が心に残り、中国語を話したいと中国に留学したこともあるんです。そこから学ぶことが大好きになりました。
―すぐに入社されたわけではないんですね。
新美 帰国後は中国語を生かしたく空港の免税店で働いたり、コンベンションビューローで観光誘致の仕事をしたり、営業事務や会計事務などいろいろな職を転々としていました。そんな日々を送っている時、父に話があると言われて……。それまで自由に過ごしていましたが、家族経営のような会社なので特に抵抗もなく、またあられで育ててもらったという思いもあって、2015年に入社しました。今思えば軽はずみに「いいよ」と言ってしまった気もします(笑)
自慢のあられを詰め合わせた「麗香」は、手土産や贈答として人気。
―入社3年で社長就任と、たいへんなスピード感ですがご苦労も多かったのでは?
新美 父はなんでもできる人で「俺の言うことを聞け」タイプですが、私も自分の意見をしっかり言いながら学んでいきました。父が退いてからもきちんと経営していけるように、副社長をはじめ周囲の信頼できる方々に協力していただきました。入社前に、父に「何歳まで生きる?」と尋ねて、最後の5年は仲良くしたいから、元気なうちにしっかり仕込んでもらいバトンタッチしようとふたりで決めました。それで早い時期に私が社長になり、父は現在相談役を務めています。早くに社長に就任して焦ることはたくさんありましたが、一番焦ったのは跡継ぎのこと。けっきょく就任してすぐ結婚も出産もしてしまったんですよ。これまた古い考えですよね(笑)。今じゃちゃっかり3児のママ社長です。
―お父様の代から大事にされていることは?
新美 経営に関しては会社をつぶさない事。従業員は家族という事です。米菓に関しては竹新のあられは、国内産の丸粒のもち米から生地を作っているためもち米の風味をしっかりと感じることができます。父からの受け売りではありませんが、もともと米はお餅やご飯として食べるのが一番おいしい。それを加工するのだから、お米に失礼にならないように気をつけて製造しています。
しっかりとした生地、広がる餅の香り。噛めば素材の良さが感じられます。
―若い女性が社長になられて、会社に変化は?
新美 これまで社長は敏腕で、そのため独裁的な部分もあったと思います。社内は仲は悪くないけれど、叱られるから意見を言わないという空気もありました。私が就任してからは、みんなが協力してくれるようになりました。なにもわからない小娘が社長なのですから、協力せざるを得なかったんでしょうね。私は「聞かぬは一生の恥」と言わんばかりに、社員・パート関係なくなんでもわからないことは質問します。そのうち自主的に意見を言ってくれたり教えてくれたりするようになりました。私に教えることで各自再確認もでき風通しもよくなったと思います。
―新商品の開発もされたのですか?
新美 以前は社長が独断で商品開発を行っていましたが、今は女性社員を交えて開発会議をするようになりました。ただ、2020年のコロナの拡大で展示会がなくなり、現在も開発そのものはあまり多くないです。パクチーあられやチョコを染み込ませたあられなどを作りましたが、個性的すぎたのか、爆発的に売れることはありませんでした。相談役には怒られましたね(笑)。それでも今後もチャレンジし続けますよ!!!
―これまでの商品で以前からのお気に入りは?
新美 きなこ揚げです。もう終売しましたが(泣)。うちは卸し9割、小売1割で、工場の規模としては小売のためだけに製造するというのは難しく、良い商品でも卸しで売れないものは製造が難しいです。今販売しているもので、竹新ならではの逸品のひとつが「ふくれ焼餅醬油おこげ味」。できあがってからもう一度火にかけた商品で、焦げた醬油の香りがたまんないです。地元のテレビ番組でも取り上げられて、ネット通販では常に売れ筋です。ただ、これは、流通に出すととにかく割れるので現在は直売店とネット販売のみです。また、流通に出せる素晴らしい商品というのは、すぐに真似をされるという悩みもあり、難しいですね。米菓というのは米を焼くか揚げるかですから、新しいアイデアはすぐに真似されますし、真似できます。でも、真似しようとしてもどこにもできないのが、このふくれ焼餅やふくれ焼餅醬油おこげ味ですね。
手間ひまかけて作り上げた「ふくれ焼餅」は、割れやすくデリケート。
おこげの香ばしさが特徴の「ふくれ焼餅醤油おこげ味」。
「まずは香りを楽しんで」と新美社長。ネット通販では「ふくれ焼餅」と人気を競う品。
―ほかに難しいとお感じのことは?
新美 竹新のあられは食べたら美味しけどデザインがね・・・とよく言われます。パッケージのデザインが昔から変わらないので変更を思案中ですが、これまでのお客様が買おうとされた時に見つけられないことが心配です。お客様の年齢層が高いので、小売店では置く場所を変えただけでも探しきれないこともあり、もどかしいです。入社して初めて他社商品と食べ比べた時、うちの商品は本当においしいと気づいたのですが、それを若い方々にどう伝えてゆくか、すぐにパッケージを変えてアピールするわけにはいきませんが、しっかり考えてゆきたいですね。
―時代による食や嗜好の変化もあります。
新美 この先10年、20年で鏡餅を飾る文化もなくなるかもしれません。お餅を喉に詰まらせる事故は多発しており今後お餅は喉に詰まるからと食べなくなって、そうなるとあられもなくなっていくのではないかと危機感を持っています。私の一番の目標というのか任務は、会社をなくさないこと。そして米菓を日本に残すことだと思います。米菓という日本の伝統的なものがなくなるのは悲しいです。ポテトチップスやとうもろこしの粉のスナックではなく、あられやおせんべいをいかに残していくかは重要な課題です。自分自身が子どもを持ってから、食育も勉強するようになり、子どもにはお米を食べてほしいと強く思うようになりました。日本でとれる主食ですからね。あられやおせんべいは安心して幼児から食べられますし、親・子・孫が一緒に食べられる大切なお菓子だと思います。
餅米の風味がおいしい「餅がき」は、シンプルな塩味。
男性社員の人気ナンバーワン「餅がき」。
詰め合わせの「麗香」にも入る定番。
―そんなあられの袋を開けた瞬間、香りがふわっと広がり、幸福感を感じます。
新美 竹新ではその時々にとれる国産の良質のもち米を使って製造しています。あられの製法はいろいろありますが、粉ではなく丸粒のもち米から作るので風味が豊かなんです。そのなかで、製造現場でつまみに来る人もいるのが、男性の人気ナンバーワン、シンプルな塩味でふわっとした食感の「餅がき」です。やわらかい餅のまま切る水切りという製法で製造しておりどこでもできる製法ではありません。また最高級「にしき巻」は、地元で入札した上質な海苔を1つ1つ手作業で巻く手間ひまかけた商品です。
―あられを詰め合わせた「麗香」も直売限定の単品商品も魅力があります。これからのビジョンをお聞かせください。
新美 とにかく竹新のあられを多くの方々に食べてもらいたいです。手を抜くことなくしっかりとしたおいしいものを作り続け、竹新ならではの商品を全国に届けてファンをしっかり作っていきたいですね。さらに自信のある商品をネットと小売、直売でも広げていきたいです。また事業再構築補助金の支援を受けて、米粉と小麦粉を混ぜた麺を現在開発中です。主食として食べるものづくりに挑戦しながら、日本の食文化を残していくことも使命と思っています。私は3人の子育てをしておりますが、将来子供たちが自分から竹新の仕事をしたいと言ってくれるような会社を作っていきたいと思っています。
―挑戦は続きますね。貴重なお話をありがとうございました。
「麗香」(N麗香-15)
価格:¥1,620(税込)
店名:おかき屋 辰心
電話:0562-56-0280(9:00~17:00年中無休)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:http://www.tatushin.co.jp/item/G-7/
オンラインショップ:http://www.tatushin.co.jp
「ふくれ焼餅醬油おこげ味」(200g)
価格:¥518(税込)
店名:おかき屋 辰心
電話:0562-56-0280(9:00~17:00年中無休)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:http://www.tatushin.co.jp/item/MO-21/
オンラインショップ:http://www.tatushin.co.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s Profile>
新美舞(竹新製菓株式会社 代表取締役社長)
1984年愛知県生まれ。営業事務や会計事務、販売などさまざまな仕事を経験しながら、特に定職には就かず自由に生きているところ、父に「召喚」され2015年に竹新製菓株式会社入社。2018年、同社代表取締役社長に就任。子育てをきっかけに食育にも注力している。
<文・撮影/大喜多明子 MC/吉田茉代 画像協力/竹新製菓>