近年、クラフトビールに注目が集まっています。新しいブルワリーも全国に続々と登場し、お取り寄せ体制もばっちり。家にいながらにして旅気分が味わえると好評です。そんななか、「札幌の繁華街のど真ん中にビール工場がある」というウワサを聞きつけた、編集長アッキー。「ビールを街の中で? どうやって?」と頭の中が「?」でいっぱいのアッキーに代わって取材スタッフが、薄野地麦酒株式会社 工場長の森澤智氏にお話をうかがいました。
札幌・ススキノのど真ん中にブルワリー!?本場ドイツ仕込みの手仕事が旨さをつくる薄野地麦酒「すすきのビール」
2022/08/31
薄野地麦酒株式会社 工場長の森澤智氏
―工場は、ススキノの中心地にあるのですね。繁華街の真ん中でビールがつくれるなんて!
森澤 はい。繁華街に立つ小さな建物の中で製造しています。ビール工場というと、多くの方は大きなビール製造会社のようにタンクがいくつも並んでいる工場をイメージされるかと思いますが、弊社が製造している、いわゆる地ビールはまさに手仕事でつくりますから、生産量が限られます。設備も小規模なので、それほどスペースは必要ないんです。1999年の創業当初からずっと、この場所でビールをつくり続けています。1995年頃から日本での第1次地ビールブームが始まって、全国各地で地ビールが製造されるようになりました。ブームのピークは1999〜2000年頃。なかでも北海道には、次々に地ビール会社ができて、一時は33社あったんです。今では、半減してしまいましたが。
―工場長は、どのような経緯でビール製造に携わるようになったのですか?
森澤 もともとはビール製造とはまったく関係なく、ホテルマンでした。それが、異動でビール製造に携わることになったんです。最初は覚えることがやたらと多くて大変でした。それまで、私にとってビールは飲むもので、製造するものではなかったので(笑)何も知らないわけですから、苦労しました。全国20ヶ所の地ビール会社を回って研究し、ドイツ人のブラウマイスター(ビール醸造職人)の指導を受けて。でも、1度やり方をつかんだら面白くなって、はまりました。その後、2002年に薄野地麦酒株式会社に入社し、現在に至ります。
―薄野地麦酒ならではの特徴、こだわりについてお聞かせください。
森澤 まず、ビールの主原料となる麦芽は、おもにドイツで栽培・収穫された大麦麦芽を、ビールの種類によってそれぞれ適したものを使い分けています。ホップはおもにチェコ産ですが、一部は道内・上富良野産のものを使用。酵母はドイツのヴァイエンシテファン醸造所の下面酵母を使っています。何よりの特徴は、仕込み水に海洋深層水とマイナスイオン水を使っていることです。海洋深層水とは、水深200m以深の海水のことを指していいますが、弊社で使用しているのは日本海の水深約300m以深に存在する熊石海洋深層で、水温が低く安定していて多くの酸素が含まれ、ミネラル分が豊富。ですから、ミネラル分を添加する必要がなく、自然でマイルドな味わいのビールに仕上がっていると思います。
熊石海洋深層水は、北海道二海郡八雲町熊石地区の沖で取水され、
窒素・リン・ケイ素などの無機栄養塩類が豊富。
表層の海水にくらべて病原菌や細菌が非常に少なく清浄で、
太陽光が届かないので、低温で安定しているのだそうです。
森澤工場長によれば「酵母の活性がよくなる」とのこと。
ビールの種類によって麦芽を使い分け、
ビールの個性を打ち出していきます。
―工場の規模は大きくないとのことですが、何人のスタッフがビールの製造に当たっているのですか?
森澤 私を含めて2人です。というと驚かれるかもしれませんが、弊社に限らず地ビールをつくっているところはたいてい、2~3人です。規模の大きさ、それにともなう設備の問題、出荷量からすると、その人数で大丈夫なんです。
―でも、ビール製造にはいくつもの工程がありますよね。それをたった2人でとなると、やはり大変ではありませんか?
森澤 ビールの製造工程についてざっくり説明しますと、まずは麦芽を輸入して引き取り、それを粉砕し、水を混ぜて糖化させます。これを濾過し、ホップを加えて煮沸し、それをタンクに入れて発酵させ、熟成させて樽詰めをする。そこから瓶や缶に詰めて、製品としてのビールが完成します。そのうち、さすがに麦芽やホップを栽培するところまではやりませんが、でも全行程のうち7〜8割はこの場所で、2人で行っています。ビールのシーズン中は休む間もないほどで、大変といえば大変ですが、生産量からすると2人でやっていけます。それぞれ、ほとんどの工程に携わっているので大変といえば大変ですが、そのぶん「自分でつくっている」というやりがいと充実感があります。同じ原料で同じ作り方をしても、とくに酵母は生き物なので、その日の気温や湿度で発酵の様子が変わってきます。毎日、まさに何が起こるかわからない。でも、それがこの仕事のおもしろさでもあるんです。
―薄野地麦酒の看板商品はどちらでしょう?
森澤 現在、いちばん出荷量の多いのは「すすきのビール ピルスナー」です。ホップの苦味をきかせ、あっさりした味わいと軽くさやわかなのどごしが特徴のラガービールです。北海道といえばやはり、ジンギスカン。なので、味の設計としてはラムはじめ肉料理をイメージしています。とくにラムの脂には甘みあるので、あっさりすっきりした飲み口に仕上げています。北海道人は、気候がある程度暖かくなってくると「外で肉を焼く」という習慣があって、日曜日になると、あちこちからラムを焼く匂いが漂ってくるんですよ(笑)。
薄野地麦酒の”顔”、「すすきのビール」。
一般的なビール製造の過程で添加されている塩化カルシウムなども無添加。
こちらは缶入りタイプ(350ml)で、瓶入りタイプ(330ml)もあります。
裏面には札幌名物の時計台・テレビ塔・クラーク博士が!
爽快な飲み口とのどごしで、
ラムチョップのハーブ焼きとの相性もばっちり。
―ほかには、どのようなビールをつくられているのですか?
森澤 「ルスツラブビール」として6種類、「ピルスナー」と、ホップの香りとモルトの香ばしさが特徴の「メルツェン」、いわゆる黒ビールの「シュバルツ(ブラック)」、ドイツ系のエールビール「ヴァイツェン」、香りと苦味の強い「インディアペール」。そして、アロニアという果実を使った「アロニア」です。
ルスツへの愛がつまった「ルスツラブビール アロニア」350ml。
ほんのり赤みがかった色。甘みの中に渋みを感じます。
ひと口飲むごとにすーっと鼻を抜けていく
オレンジピールやコリアンダーの香りも◎。
味や香りを堪能するためにも、まずはビールだけで飲むのがオススメ。
―アロニアとは聞き慣れない名前です。なぜ、それでビールをつくろうと考えられたのでしょう。
森澤 アロニアはもともと北米産の果実で、北海道でも栽培されているのですが、目にいいといわれるポリフェノールがとても多く含まれているのだそうです。弊社の親会社が経営している留寿都のホテル敷地内でアロニアを栽培しているので、これを使ったらどのような感じのビールになるだろうと考え、人気が高まっているベルギー系のビールをお手本にしながらつくりました。いわゆるフルーツビールですが、アロニアはほかのベリー類にくらべるとやや渋みがあるので、それをやわらげるための工夫をしています。
アロニアは北米原産のバラ科の植物。
生でも食べられますが渋みが強いので、ジャムなどに加工したり、
アルコールに漬け込んで果実酒にすることが多いとか。
―手間をかけ、思いもたっぷり込められた「薄野地麦酒」。工場長としては、消費者にどのように飲んでもらいたいとお考えでしょう。
森澤 ピルスナーはさっぱりした味わいですが、そのほかのビールはそれぞれ個性の強い味わいです。「とりあえずビール」というより、比較的時間のとれる日にゆっくり味わって飲んでいただけたら、うれしいです。
―最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
森澤 創業した当初は3種類だけだったビールが、現在は6種類。これを安定して生産、出荷をできるように取り組んでいる最中です。なので、この取り組みを途切れさせないというのが目下の目標です。先にもお話ししましたが、ビールというのは品質にしても生産量にしても安定してつくるというのが、なかなかむずかしい。そのために、製造スケジュールを綿密に立て、生産量・出荷量をコントロールする。毎日、そうした地道な、細かい作業の積み重ねです。みなさんに「おいしい」と言っていただけるのが、私たち製造者にとって何よりの喜びです。飲んだ方の笑顔を思い浮かべながら、精進し続けたいと思っています。
―これからもぜひ、個性あふれるビールを作り続けてください。貴重なお話をありがとうございました!
「すすきのビール缶3本セット」(350ml✕3本)
価格:¥2,310(税込)
店名:薄野地麦酒
定休日:オンラインでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://susukino-jibeer.com/ススキノビール缶3本セット/
オンラインショップ:https://susukino-jibeer.com/category/item/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
森澤智(薄野地麦酒株式会社 工場長)
1958年北海道生まれ。前職はホテルマン。勤務先のホテルで地ビール事業を始めることになり、札幌で初めての地ビール工場工場長に就任。その後、2002年に薄野地麦酒株式会社に入社し、工場長に就任。
<文・撮影/鈴木裕子 MC/栗原里奈 画像協力/薄野地麦酒>