静岡県の伊豆半島南東部に位置する下田は、白く美しい砂浜をもつ海岸線と豊かな自然が広がる温泉地。豊富な海産グルメを求め、たくさんの人が訪れる観光スポットとして知られています。その下田の漁港に揚がる魚の8割を占めるのが、高級魚といわれる金目鯛です。水揚げ量は日本一を誇り、おいしい金目料理を目当てに下田まで足繫く通う人もいるほど。今回、アッキーこと坂口明子編集長が目をつけたのは、その金目鯛のなかでも最高ランクの「地金目」が自宅で手軽に食べられる料理セットです。下田から新鮮な金目鯛を届けてくれる渡辺水産を、スタッフが取材。30年ほど前まで地元以外にほとんど出回ることもなかったという金目鯛が、ブランド魚として日本中で注目を浴びるまでとなった裏には、金目一筋にこだわり抜いた魚屋の企業努力がありました。
日本一の金目鯛をしゃぶしゃぶ・刺身・干物で味わい尽くす!伊豆下田の「金目鯛三大料理セット」
2024/03/22
有限会社渡辺水産 代表取締役社長の渡邉一彦氏
―まず、希少だという「地金目」について教えていただけますか。
渡邉 下田では「地金目」「島金目」「沖金目」と、3種類の金目鯛が水揚げされるのですが、そのなかで最高ランクに位置するのが「地金目」です。年間1,000~2,000トンと日本一の漁獲量を誇る下田の金目鯛のなかでも10%程度しか取引きがなく、抜群の鮮度と圧倒的な脂乗り。市場でも高値で取引きされる間違いなく最高級の魚です。
赤い絨毯を敷き詰めたように金目が並ぶ、下田独特の市場の風景。
―質他の2種とどう違うのですか。
渡邉 分かりやすく旅行に例えてお話ししますと、「地金目」は「日帰り旅行」です。伊豆近海の漁場に小型の船で出かけ、漁をしてその日のうちに港に帰ってくるので水分比率が高く、鮮度がとてもいいのです。次に「島金目」は「一泊二日の旅行」。約2~3日かけて漁を行い、一度の航海で300~500キロの金目鯛を水揚げして帰ってきます。どちらもエサとなる魚介類やオキアミが豊富な近海で獲れたものですから、脂がたっぷり乗って格別においしいのが特徴です。もう1種の「沖金目」は、例えていえば「海外旅行」。下田から少し離れた沖合まで大型船で行き、約1週間かけて一度に3~5トンもの魚を水揚げし、帰港します。下田で揚がる魚の約8割が金目鯛といわれるのですが、そのほとんどはこの「沖金目」になります。
下田は伊豆近海~半島沖の漁場が近い恵まれた土地にあり、海産物が豊富。
―新鮮であればあるほど、高級なのですね。
渡邉 もともと金目鯛は通称「金目(きんめ)」と呼ばれ、白身で脂肪分が多く、刺身にしても煮魚にしても、どんな調理法でもおいしいのが魅力の魚です。しかし、大量に獲れすぎるあまりほとんど注目されず、1970年代頃までは市場に流通しても余り、高値で取引されず地元の一部の人にしか知られていない存在でした。名前に鯛とついていますが鯛の仲間ではなく、水深300~500メートルに生息する深海魚なので、船まで釣り上げるだけでも手間や時間がかかります。さらに船上での管理や輸送手段、加工技術など、鮮度をいかにキープするかが課題だったのです。
新鮮な金目は、目が澄んで金色に光り、魚体にハリがあって金色に輝くのだそう。
―その金目鯛を、どうしてメインで扱うようになられたのですか。
渡邉 わが社は大正9年に曽祖父が下田の鉱山があった温泉場で天稟棒を担いで魚屋を始めたのがルーツなのですが、3代目にあたる父の代では、伊豆急行が開通したこともあり、温泉旅館や大型のホテル等がオープンしたのを機に魚の卸売業がメインの商売となりました。ところが1970年代に伊豆半島沖の地震や伊豆大島近海地震など自然災害が立て続けに起こり、観光業が大打撃を受けました。そんななか、私は幼い頃から手伝わされた魚屋を継ぐのが嫌で嫌で(笑)。当時は公務員になって地域貢献したい、と考えていたんです。それでも苦境にある家族のことを思い、修行を経て入社して頑張っていた矢先、1991年にバブルが崩壊。ホテルや旅館との取引きが激減してしまいました。観光業だけに依存していてはダメだ、という危機感が伊豆全体に漂っているような気がしました。
―それがなぜ金目鯛に繋がるのでしょうか。
渡邉 魚屋としてどう地元に貢献できるか、考えたときに、あまりにもたくさん獲れすぎて逆に大切にされていない金目鯛に目を向けてみたんです。そうしたら、観光地でありながらみやげ物屋に金目鯛の加工品ひとつ置いていない。豊富な海の幸を売りにしているはずが、ホテルや旅館の食事に出るだけで、その先の販売にまったく繋がっていないことに気づきました。当時、赤い魚といえば甘鯛やキンキが高級魚として知られていましたので、地元の赤い魚、金目鯛をアピールしてみようじゃないかとなったのです。
真っ赤な魚体と大きな目が特徴的な深海魚、金目鯛に着目。
―具体的にはどのような活動をされたのですか。
渡邉 とにもかくにも金目鯛の価値を知ることが第一でした。我々自身が価値を理解し、お客様に伝える、そのためにできることをいろいろとやったのです。なかでも水揚げ高が日本一、この日本一というのは富士山でもなんでもブランド力としては強いですから、アピールポイントになります。さらに厳しい目で選別した魚の品質の統一、鮮度を落とさないための温度管理から輸送手段の確保、加工技術に至るまで、価値の向上に徹底してこだわりました。
―ここまでブランド化できたのはなぜだと思いますか。
渡邉 その頃、1998~2000年くらいでしょうか。静岡県による伊豆観光再生事業「伊豆新世紀創造祭」がスタートし、地域が一体となって観光地の再生を図り、観光サービスを向上させていこうという機運が高まっていました。そこで、下田市金目鯛普及協議会を立ち上げ、金目鯛を下田の推奨海産物として取り上げてもらったり、行政と組んで料理コンテストなどのイベントを開催したりして、徹底的にアピールをし続けました。専務になっても、社長になっても、ずっと金目鯛のPR一筋です。漁協の方々や全国のデパートなどと繋ぐバイヤーさん、商品開発にかかわる人など、たくさんの恩人との出会いもありました。今でこそ高級魚として認知されていますが、当時全国に先駆け、日本で一番大切に扱ったことで、「下田の金目鯛」というひとつのブランドとして知られるようになったのだと思います。そういう意味でも日本一なんです。
―今回の三大料理セットは、どのようなセットですか。
渡邉 下田のホテルや旅館で饗される地元ならではの金目料理の味を、できるだけそれに近い形でご家庭でも楽しんでいただきたい、という思いでつくったセットです。下田港近くに本社を構えるからこそ実現できる、鮮度レベルで極上の地金目にこだわりました。しゃぶしゃぶ、刺身用の湯引き、一夜干し、すべて新鮮な状態をキープできるぎりぎりのところまで下ごしらえずみですので、最高級の地金目が、もっともおいしく贅沢に食べていただけると思います。
―一番のおすすめはどれでしょう
渡邉 私が個人的に一番好きなのは、しゃぶしゃぶです。水揚げされたばかりの新鮮な地金目のおいしさを満喫するなら、まずは軽く湯にくぐらせてしゃぶしゃぶし、うま味と甘みを感じてください。おいしいダシがとれるアラ(頭と中骨)もついていますので、昆布とアラでだしをとり、ポン酢で召し上がるのがおすすめです。牛しゃぶにヒントを得た食べ方ですが、牛肉のように機械でスライスできないので、職人が包丁を使って一枚一枚手切りしたものをお届けします。
骨の太さや身の厚みなど、1匹1匹の状態に合わせて包丁の角度を調整する職人の技術が光ります。
―しゃぶしゃぶ鍋にするということですね。
渡邉 金目のしゃぶしゃぶ鍋は下田市の推奨料理にもなっています。好みでキノコや野菜を加えても合うので、わが家では、大根をピーラーで細長くひらひらに切ったものを入れて、しゃぶしゃぶした金目で巻いて食べたりします。白髪ネギや水菜、芯を細く切った白菜でもおいしいですし、締めに雑炊もいいですよ。アラはもちろんアラ汁に使ってください。
そのまま食卓に並べたいしゃぶしゃぶのセットは、豪華な頭(かしら)つき。
―お刺身はサクで届くんですね。
渡邉 ベテランの目利きが厳選した地金目を、おろした身の皮目に熱湯をかけて湯引きすることで、しっとりしたうま味だけキュッと閉じ込めてあります。湯引き後すぐ氷水で締め、鮮度そのまま真空パックにし急速冷凍して送りますので、ご家庭では解凍後、お刺し身に切って食べるだけ。鮮やかな朱色は目にも美しく、皮と身のあいだの上品なうま味や脂のおいしさがしっかり堪能できます。もしバーナーをお持ちなら、軽く塩をふって切ってから皮目をサッとあぶると、またひと味違う香ばしさをお楽しみいただけるはずです。
骨は除去してあるので、好みの厚さに切って皮ごと食べます。
―一夜干しはめちゃめちゃ大きいです!
渡邉 ご家庭の魚焼きグリルにぎりぎり入るかどうかくらいのビックサイズですね。普通、干物といえばおひとり様一つのイメージですが、こちらは家族みんなで食べていただける、食卓の主役になれる大きさ。皮をパリパリになるまで焼けば、頭から皮までぜんぶ召し上がることができます。もちろん炭火で焼くのがベストですが、ガスコンロでは焼き網を使って焼いてみてください。まず皮目から強火でしっかり焼き、ひっくり返したら火を弱めて途中アルミ箔をかぶせると、身がふわっとした料亭の干物みたいな焼き上がりになります。
しっかり焼いて頭から皮まで食べれば、ゴミもほとんど出ません。
―地元ならではの珍しい金目鯛の食べ方はありますか?
渡邉 肝料理、でしょうか。金目の肝は、一匹からほんのわずかしかとれず非常に貴重なのですが、商品化が難しいんです。ですからこれだけは下田まで来て食べていただくしかなくて…。わが社は下田の市場近くに回転寿司屋を営んでいて、そこで提供している地金目の肝軍艦は絶品です。
―それはぜひ伺って食べてみたいですね!
渡邉 はい、ぜひ(笑)。金目鯛のお取り寄せをきっかけに、下田を訪れたい、と思っていただいたり、逆に下田の旅館や市場で金目鯛を食べたことで、自宅でも取り寄せてみたい、と思っていただいたり…。そうやって下田の町全体が盛り上がってくれたらこんなに嬉しいことはないです。
―家庭ではどんなシーンで食べていただきたいですか。
渡邉 わが社のキャッチフレーズは「めで鯛、たべ鯛、きんめ鯛」です。ですから、ぜひご家族が集まるおめでたい節目節目に使ってください。じつは金目鯛の水揚げ量自体は、残念ながら年々減ってしまっているんです。それによってさらに高級化が進んでいるのも事実。このセットなら、アラ汁に使えるお頭(かぶと)もついていますし、真っ赤な魚体や金色に光る目が、おめでたい席にぴったりだと思いますよ。
―水揚げ量の減少…心配ですね。
渡邉 特に地金目にこだわった商品は、水揚げや市場でのセリの状況によってはお客様にお待ちいただくことも少なくありません。地球温暖化の影響で、漁獲量が激減してしまっているのです。これは伊豆下田だけでなく、海の資源保護の観点からも後世に繋がる大きな課題です。わが社は未来の5代目が、非常に積極的にグローバルな視点で水産業にかかわってくれていますので、今後しっかり取り組んでもらえればと思っています。下田の金目を気に入ってリピートしてくださるお客様を増やし、ご要望にこたえ続けることが、大切な資源を守り抜くことに繋がると信じています。
次世代を担う5代目への期待がかかる、息子の渡邉大貴氏
―日本一の金目鯛を全国の食卓に届けたいという熱い思いが伝わる取材でした。本日はありがとうございました!
「【冷凍】金目鯛三大料理セット」(金目鯛のしゃぶしゃぶ×1《1~2人前》、地金目鯛の湯引き(刺身用)×1《1~2人前》、金目鯛の一夜干し×1)
価格:¥8,100(税込)
店名:渡辺水産
電話:0558-22-1169(9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://watanabe-suisan.shop-pro.jp/?pid=152313119
オンラインショップ:https://watanabe-suisan.shop-pro.jp/
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<Guest’s profile>
渡邉一彦(有限会社渡辺水産 代表取締役)
1962年静岡県生まれ。1985年羽野水産に入社し、2年の修業期間を経て1987年に渡辺水産入社。2009年代表取締役に就任。2023年5月に下田市観光協会会長に就任し、下田市のまちづくり活動にも注力している。
<文/亀田由美子 MC/白水斗馬 画像協力/渡辺水産>