博多の伝統柄を手のひらサイズで楽しめる「伊達がま口」

2025/05/30

福岡県の博多織と言えば、江戸時代より愛されてきた絹織物。1976年には国の伝統工芸品にも指定された日本の宝です。特に着物の帯としての評価は高く、着物ファンを中心に求められてきましたが、近年はさまざまなものにもアレンジされ、注目を集めています。今回、編集長アッキーこと坂口明子が気になったのは、コロンとしたフォルムが可愛いらしい「伊達がま口」。ポップな色と博多織の組み合わせが新鮮なアイテムです。作り手のこだわりについて、製造元である西村織物株式会社 代表取締役社長の西村聡一郎氏に取材陣がお話を伺いました。

西村織物株式会社 代表取締役社長の西村聡一郎氏

―西村社長は6代目とのこと。まずは御社の沿革について伺えますか。

西村 今から約400年前になりますが、祖先が長崎から博多に出てきて絹糸の商売を始めました。中国で仕入れた絹糸を長崎から博多に運び、卸したのです。しかし江戸末期になると幕府が輸入を禁止したため、祖先はお得意先であった織屋さんで修行させていただき、自ら織屋を始めました。

―西村社長は学校卒業後、一般企業に就職なさっています。会社を継ぐことはいつ頃考えられたのですか?

西村 実家が工場の隣にあり、小学生の頃から手伝いをしたり、敷地内で遊んだりしていましたが、後を継ぐことは特に考えていませんでした。弊社に入社したきっかけは父が体調を崩したことです。私が社会人5年目、26、27歳の頃でした。

今考えると無謀なのですが、入社後、約半年で社長に就任しました。ところが私は大企業で働いていたので、中小企業かつ非常に専門性の高い弊社についての理解が足りず、非常に苦労しました。大企業はルールの世界、一方弊社は、経験と勘の世界です。社員とのコミュニケーションにも苦戦し、「これではいけない」と考えていた時、博多織の学校の理事長から「博多織を学んでみないか」と声をかけていただき、一度社長を辞めて学生になりました。

3年間で50本ほど帯を織り、再び弊社に入社したのですが、この時はさすがにすぐ「社長をやる」とは言えず、37歳で社長に就任しました。そこからは、何事にも一生懸命に向き合い、コロナ禍も皆で乗り越えることができました。今が一番、仕事が面白いと感じられているかもしれません。

―さまざまなご苦労があり、今があるのですね。

西村 閉鎖的な業界にいきなり20代の若者が入ってきて、何かをやろうとするとそれは戸惑いますよね。私も社員の皆さんも、お互いに「何を言っているのか分からない」という状態だったと思います。しかしそれから20年が経ち、私も47歳になり、今では20代の社員、70代の社員、それぞれの話がわかるようになりました。

―西村社長は今、ご自身が博多織を学ばれた学校の理事長も務められているとか。

西村 そうですね。昨年ご縁をいただき、務めさせていただいています。

―それでは、今回ご紹介いただく商品「伊達がま口」について聞かせてください。

西村 こちらは横幅が2寸6分、約10センチサイズの小さながま口です。父の代から作っている商品で、鈴のチャームがポイントとして付いています。かつては小銭入れとして誕生したものですが、最近は小銭を使う機会が減っているようですので、小物入れとして愛用されている方も多いようです。

バッグの中でチリンチリンと音がするのも可愛らしい「伊達がま口」。写真は「水玉 ホワイト」。

―「伊達がま口」の「伊達」にはどのような意味があるのですか?

西村 長襦袢の上から結ぶ帯のようなものを「伊達締め」と言います。博多織の主要な品目で、弊社でも戦後、祖父がこの伊達締めづくりを大切にしてきました。つまり、ここに企業のノウハウが詰まっており、それを活かした商品ということです。

―伊達締めは、非常にカラフルなものなのですね。

西村 長襦袢は着物の下に着るものなので外からは見えません。なので、伊達締めも本来であれば落ち着いた色のものが多いのですが、小物にする際にはきれいな色の方が好まれるだろうということで、通常の伊達締めには使わないような色・柄を採用しています。柄は、博多帯の伝統柄である博多献上柄や水玉など、約20種類を展開しています。

鮮やかな黄色と桃色のバイカラー。「献上柄 黄/桃」。

三角形の連続する様子を魚や蛇の鱗に見立てた「鱗柄」。三角には魔よけや厄除けの意味もあるそう。

―六角形の金具も珍しいですね。

西村 こちらは職人さんの手作りです。ちょっと珍しい形で、作っていただけるところを必死で探しました。今は東京で加工していただいています。

パチンと開け閉めするのが楽しみになる六角形の金具。

―ギフトボックスも素敵で、贈り物にも喜ばれそうです。

西村 そうですね。個人への贈り物に加えて、転勤される社員様への贈り物にと、企業様からご注文いただくことも多いです。

真っ白なギフトボックスからカラフルながま口が現れ、贈られる方の笑顔が浮かぶ。

―御社のオンラインショップを拝見しますと、「ObitO(オビト)」という気になるブランドもありました。

西村 「ObitO」は、コロナ禍で受注が減った時、弊社の若手社員がアップサイクルブランドに挑戦してみたい、ということで始めたブランドです。そもそも織物は、少し余分に設計するものなので生地や糸が余るのですが、それらを使って自分たちが欲しいバッグを作りたいとのことでした。バッグからスタートしたのですが、その後、織物の糸をニットにできるという企業様とコラボしたことがきっかけで、今ではストールやネックウォーマーなども展開し、ご好評をいただいています。そもそも素材がシルクなので肌にも優しく、手触りも抜群です。私も毎日愛用していますが、販売する際もお客様に一度触っていただくと、皆さん「おおっ!」と驚かれて、購入につながっています。

しなやかで、美しい光沢をまとった「ObitO」のストール。¥27,500(税込)。

―コラボレーションと言えば、世界的フローリストであるニコライ・バーグマン氏とも一緒に作品を作っておられましたね。

西村 ニコライ・バーグマン氏と言えばフラワーボックスです。そのボックスに「佐賀錦」という、薄くて装飾性の高い生地を貼ったものを作りたいということで、弊社が生地を特別に制作させていただきました。

―今後もこのようなコラボレーションを考えておられますか?

西村 そうですね。ニコライ氏とのコラボレーションでも、織物は生活をより豊かに、美しくするために活用できる、ということを体感できましたので、積極的に進めていきたいと思っています。ちなみに2023年に福岡市にオープンしたラグジュアリーホテル、ザ・リッツ・カールトン福岡様にも、弊社の生地を取り入れていただいています。スイートルームのヘッドボードや内装、アートワークなど、様々なところに使っていただいており、その関係で最近は、アートや建材関係からの注文も増えています。

2024年の5月には、弊社工場の一角に直営店「ORIBA(オリバ)」をオープンしました。着物や帯と共に、「伊達がま口」ほか様々な商品を見ていただけるので、こちらにもぜひ足を運んでいただきたいです。やや郊外にあるため、オープンするまでは「週にお1人でも足を運んでいただけたら」くらいに考えていたのですが、オープンしてみると、ザ・リッツ・カールトン福岡様に宿泊された方や、九州ツアーに参加されている方など、多くの方にお立ち寄りいただいています。来店する際はぜひ事前にご連絡の上、お越しください。前日までにご連絡いただけますと、工場見学もご案内させていただきます。

工場の一角にオープンした直営店「ORIBA(オリバ)」。

店内からは工場の様子を見ることができる。設計を手掛けたのは、西村社長の友人であり、隈研吾事務所にて10年間研鑽を積んだ神谷修平氏。

―今後の展望についても聞かせてください。

西村 職人も高齢化が進んでいるので、まずは織物の技術を次の世代にきちっと継承していくことを第一に考えています。その上で、例えばアートや建築など、織物の可能性をさらに広げる分野での活動も進めていきたいです。これからも、伝統と革新を掛け合わせながら博多織の魅力をお伝えし、幅広い方々に愛用していただけるものを生み出していきたいと思っています。

―貴重なお話をありがとうございました。

「伊達がま口」(縦約5㎝×横約8.5㎝)※全19種類
価格:¥4,400(税込)
店名:西村織物株式会社 ONLINE SHOP
電話:092-922-7128(10:00~17:00 日曜、祝日、第2・第4土曜日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://nishimura-orimono.jp/onlineshop/183586435
オンラインショップ:https://nishimura-orimono.jp

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>

西村聡一郎(西村織物株式会社 代表取締役社長)
1977年福岡県生まれ。2000年に三菱重工業株式会社に入社。2005年に西村織物株式会社に入社し、2009年からの博多織デベロップメントカレッジでの修業期間を経て、2016年に西村織物株式会社6代目に就任。2024年に博多織デベロップメントカレッジ理事長に就任。伝統に培われた技術を最大限に生かし、織物の可能性を広げている。

<文/鹿田吏子 MC/田中香花 画像協力/西村織物>

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