大阪府大阪市「マツバヤ」のうどん

大阪府大阪市「マツバヤ」のうどん

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

世界最高峰のうどんは、やはり大阪にあった

大阪は暮らしたことのない人にとっては、ゴチャゴチャとした印象を受けるようだが、それはオオサカ的気質がもたらす幻想ではなかろうか

大阪は生まれ故郷だ。旅行者には迷路という梅田の地下街は庭だったし、どぎつい大阪弁も現地ではネイティブスピーカーになれる。
大阪は暮らしたことのない人にとっては、ゴチャゴチャとした印象を受けるようだが、それはオオサカ的気質がもたらす幻想ではなかろうか。東京と大阪の双方に暮らしてみて、大阪という街や人が、いかに物事を俯瞰で見て、先を考えて街づくりをして、必要なところに大胆に投資をするかを、知ることができた。

大阪都心の幹線道路は、南北が「筋」東西が「通」となって、ニューヨーク等、世界の大都市とも共通し判別しやすい。ニューヨークとの類似点をさらに上げると、エスカレーターを急ぐ人用には左側を空ける(東京の逆)。利き手でエスカレーターのベルトをつかむことで安全性が高まる。いいことではないが、平気で信号無視するところもニューヨーカーと類似している。

将来的に地下鉄が都市の幹線になると予測、地下鉄網がきちんと計画され分かりやすく、駅のホームも広くて大きい。しかも路線名が上を走る幹線道路と統一され、地下鉄に乗っても自分が今どこを走っているのか認識しやすい。東京のように、銀座線、丸の内線、日比谷線、千代田線、有楽町線と、すべてが徒歩10分以内の地名をつけられても混同するばかりだ。

私鉄もしかり。両都市を代表する阪急梅田駅と小田急新宿駅を比較しても、阪急梅田駅がいかに広くて利用客本意であるかが分かる。
特に驚くのは、近年大改装された阪急梅田駅から阪急百貨店を経由して地下鉄(おっと、今では大阪メトロというのだった)に至るプロムナード。おそらく大阪でももっとも地代の高い場所に相違ないが、そこには信じられない広大で歩きやすいスペースが、梅田駅を行きかう人たちのためだけに供給されている。東京では、おそらく未来永劫ありえない広さと快適さだ。銭勘定が先行するとみられている大阪感覚なら、ここに何十軒とお店を開くことができまっせ、と言いそうだが、トップクラス経営者の度量は、実は東京をも凌ぐのだ。

ぼくが大阪で暮らしていた30年以上前、いやそれよりもっともっと以前から、ここは「松葉家」というきつねうどん発祥の店として君臨

一般的なイメージと実際の姿は、注意深く見れば様々な点で違っていることが分かるが、例えば職人気質にも、それが当てはまる。
関西弁の印象から、口数が先行し笑いを生み快適なコミュニケーションを作るにふさわしいキャラクターで、寡黙で厳格な職人気質は生まれにくいと判断されがちだ。しかし食の世界でも、大阪にも職人気質で真面目で実直な料理人は多数存在し、今回取り上げる「うさみ亭マツバヤ」もそんな代表的一軒といえるのだ。

大阪のうどん屋としても「松葉家」が真っ先に名前が挙がる

ぼくが大阪で暮らしていた30年以上前、いやそれよりもっともっと以前から、ここは「松葉家」というきつねうどん発祥の店として君臨。大阪のうどん屋としても「松葉家」が真っ先に名前が挙がる。過去に何度も何度も足を運んできた。

「変えない」という使命感でうどんを作り続けてこられたご主人こそ、大阪が誇る職人気質であろう

取材に訪れる際「うさみ亭マツバヤ」と聞き、きっと暖簾分けか何かに違いないが、なぜ百年以上の歴史があるのか、と疑問が生じていた。実際訪れて話を伺ってみると、そこには暖簾分け以上の確執があった様子だが、それでもなお、ダシの極みや味の本質を変えることなく、というか「変えない」という使命感でうどんを作り続けてこられたご主人こそ、大阪が誇る職人気質であろう。

入店時とおいとまする際のご主人の表情の違いがうれしい

そういった方々は、たいてい取材嫌いである。自分が毎日毎日、自分自身で決めた厳格な段取りに基づいて仕事をし、それを一分もくずしたり変更したり、ましてや集中を邪魔されたくない。
取材陣は、彼らのセオリーを理解せず、ずかずかと押し入るから嫌がられるのだ。「うさみ亭マツバヤ」のご主人もそうだった。でも、ぼくが大阪弁が通じるヤツで、うどんが大好きで、子供のころから松葉家に通ってたことを分かっていただくうち、徐々に表情が柔らかくなった。テレビカメラはそれを如実にとらえていて、入店時とおいとまする際のご主人の表情の違いがうれしい。

讃岐とは大きく異なる「ザ・大阪うどん」がここだ
大阪の味を知りたいなら、お好み焼きよりタコ焼きより串カツより、まずは「うさみ亭マツバヤ」のきつねうどんからスタートしてみよう

うどんはもちろん昔も今も世界最高峰で、ここを凌ぐ大阪うどんには出会えない。わざわざ出かけて食べる価値がある。世間一般に、特に最近は讃岐うどんが関西風うどんの代表格かのごとく語られるが、讃岐とは大きく異なる「ザ・大阪うどん」がここだ。うどんは、口の中でむやみに暴れない程度の弾力を保ち、決して薄味ではない迫力あるダシとなじみ、最後には、それらが一体となってとろけるような幸福が訪れる。トッピングのネギやきつねと呼ばれる甘く煮込んだ油揚げとのバランスも計算されつくした完璧さだと思う。

大阪の味を知りたいなら、お好み焼きよりタコ焼きより串カツより、まずは「うさみ亭マツバヤ」のきつねうどんからスタートしてみよう。

SHOP INFORMATION

▶ 店名 うさみ亭マツバヤ
▶ 住所 大阪府大阪市中央区南船場3-8-1
▶ 営業時間
【月~木】
11:00~19:00
【金・土】
11:00~19:30

▶ 定休日 日曜・祝日
▶ TEL 06-6251-3339

伊藤 章良

食随筆家

料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。その普遍的な内容から、シリーズ一作目が「東京巷蔵好店」として中国語に翻訳され中華圏でも販売。
2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

食随筆家 伊藤章良のニッポン食堂遺産新着記事

おすすめ記事