愛媛県今治市「こきんや」の天ぷらうどん

愛媛県今治市「こきんや」の並天うどん

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讃岐に対抗できる独自のうどんを愛媛県今治で発見

讃岐に対抗できる独自のうどんを愛媛県今治で発見

四国四県は、ざっくりと東西南北違う方を向いている。
香川は瀬戸内海、徳島は大阪・和歌山、愛媛は九州、そして高知は太平洋。
したがって、四県が四国として相乗効果を発揮していこうというより、それぞれ四国以外の県や府と結びついて連携したい意図が見え隠れする。

もう30年以上前のこと。徳島市を訪れた際、各家々に建てられているテレビのアンテナがものすごく高く、すべて同じ方角を向いていることに驚いた。訊けば、徳島にはNHK以外に民放は一局しかなく、アンテナを高く立てると大阪の番組を観ることができるというのだ。県民性は常時視聴するテレビに影響されると聞く。徳島県の海岸沿いは、ほとんど大阪だったに違いない。

一方、今回訪れた愛媛県の今治市は、2017年以降、名誉かどうかは別としてニュースにならない日はないぐらい有名な場所となっている。
今治に到着後、最初に目にして驚いたのは、愛媛県の北の端で瀬戸内海に囲まれた立地ながら、ゆるキャラ「バリィさん」は、トリなのだ。ご当地のオリジナル焼鳥が有名なのだとか。確かに「ヤキトリ」の看板が町中でやけに多いことにも気づく。さっそく訪ねてみると、今治のバージョンは、串に刺さず鉄板で炒める。しかも取っ手付きのコテで圧着して熱し脂を出す、大阪でいう「くわ焼」スタイルの影響か。今治の民はせっかちなので、早くできあがる鉄板焼が普及したとの説明だが、焼きあがる時間は炭火とさほど変わらない気がした。味の濃い、ほとんど鶏の風味は感じられない、酒のツマミ系料理である。

あえて今治でうどんを選択。「こきんや」という

ビールとともに今治焼鳥ですっかりいい気分になったぼくが今回目指すのは、愛媛県今治市ながら、うどんの店。うどんといえば隣県が全国的に有名で、その名を語る巨大チェーンはすでに世界規模。にしても、あえて今治でうどんを選択。「こきんや」という。

入口には「手打ちよりうまい自家製麺の店」とある
今治には、一種の町おこし企画として今治ラーメンが普及しつつある

入口には「手打ちよりうまい自家製麺の店」とある。この言葉だけでも、讃岐への対抗意識バリバリで頼もしい。
今治には、一種の町おこし企画として今治ラーメンが普及しつつあるようで、「こきんや」の入口には、今治ラーメンのノボリも目立った。東京では蕎麦屋のラーメンがウマイとも聞く。今治はうどん店にラーメンなのだろうか。ゆるキャラ バリィさんはトリなのに、今治ラーメンは魚介のダシで海塩味。その辺の統一性のなさは、昨今の潔い愛媛県のイメージとは少し異なる印象だ。

もう一点面白いのは、小エビのかき揚げを天ぷらうどん並、エビ天を天ぷらうどん上として提供しているところ。並とか上、特上といわれて価格が上がっていても、結局どこが違うのか判断のつかないことが多いが、これなら納得、しかもお店の良心まで感じてしまう。

うどんを製麺機で作る際、麺の真ん中に筋を入れるとの説明があった
今治の人はせっかちなので少しでも早く茹で上がるように

うどんを製麺機で作る際、麺の真ん中に筋を入れるとの説明があった。今治の人はせっかちなので少しでも早く茹で上がるように。そしてダシとも絡みやすいのが狙い。といいつつ、注文を受けてから製麺するとの流れは頑なに変えない職人肌の心意気が「こきんや」の特徴である。

総じて、隣の讃岐よりも、大阪や博多のうどんにルーツを感じる逸品

うどんと対面すると、あまりにもうどんもダシも讃岐と違うことに膝を打った。
麺は讃岐ほどの腰や弾力はないが、もちもちして絶妙な食感。のどの通りもスムースだ。ダシと絡めて食べてほしいとの店主の意図どおり、まろやかながらもうま味や主張が十分にあり、一滴も残さず飲み干したくなるタイプ。総じて、隣の讃岐よりも、大阪や博多のうどんにルーツを感じる逸品。

今のご主人は別の仕事をしていたが、義父のたっての願いでうどんの稼業を継いだとうかがった

「こきんや」は、奥様の家系が代々この店を営んでいて今のご主人は別の仕事をしていたが、義父のたっての願いでうどんの稼業を継いだとうかがった。そこに見える決意は測り知れず、うどん全体の味にもピーンと生きている。手打ちよりうまい自家製麺という一行は正に偽りなくその通りで、看板にみなぎる自信にも恐れ入った。

SHOP INFORMATION

▶ 店名 こきんや
▶ 住所 愛媛県今治市末広町1丁目3−1
▶ 営業時間 11:30~18:30
▶ 定休日 月曜日
▶ TEL 089-822-2075

伊藤 章良

食随筆家

料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。その普遍的な内容から、シリーズ一作目が「東京巷蔵好店」として中国語に翻訳され中華圏でも販売。
2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

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