ニッポン食堂遺産⑯「日本料理 海風亭」

富山県魚津市「日本料理 海風亭」の魚料理

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食材の宝庫富山県魚津で、日本料理のこれからを予見する割烹

富山の隣町魚津市にある「海風亭」も、ゲンゲの竜田揚げが名物

富山、と聞いて思い出すのは、立川志の輔師匠だ。
ぼくが全国を取材して歩いた番組「ニッポン百年食堂」では、志の輔師匠の弟弟子である立川志らく師匠がナレーション、いや、すでに芸として完成された「語り」を担当されていた。当番組が魅力的だったのは、ひとえに志らくさんに合わせた台本と語りのすばらしさにあった。番組中、志らくさんが、「伊藤さん」ではなく「あきらさん」と親しみを込めて呼んでくださったのも、志らくさんの発案だと聞いた。

兄弟子、立川志の輔師匠は、東京をはじめ全国各地での独演会を続けておられ、今や最も客を集める落語家の筆頭として名高い。
すばらしい技術や観客を引き込む所作とともに、新作・創作落語の面白さも群を抜く。ぼくは志の輔師匠の演目もほとんど聞いているが、落語のマクラ(本題に入る前のつかみの部分)には、ご出身である富山のネタが頻繁に登場する。新作の場面も富山近辺だったりすることが多い。交通の便が悪く、雪が多い時期にはアクセスも滞る。年始の独演会は故郷でやるもんじゃないと、愛のある突っ込みで会場を沸かせている。

そんな富山だったが、北陸新幹線が通り様相は一変。在来線でも飛行機でも不便だった富山が一気に身近になると、人は様々なことに気づき始めた。
まず、志の輔師匠が富山県民の半分はホタルイカだと笑いを取るように、海の幸があまりにも豊富だ。富山湾はとても深く、しかも間近に山が迫っているので山からの栄養分を含んだ雪解け水が大量に海に流れ込む。ゆえ、湾の水が常に循環し漁場に最高だと聞いた。

おまけに、深い湾の特性を利用し天然の生け簀とまでいわれる定置網漁で、安定したブリの供給を実現したのだ。そんな素晴らしい環境ながら、どうしても小京都金沢の知名度に埋もれ過去の不便さも相まって、長く金沢のバックアップに回っていたのである。しかし実は金沢で食べられる良質食材の多くは富山が源。富山に行けば同様の品を金沢より安価で気軽に食べられることに、食通は気づいたのである。

富山に行けば同様の品を金沢より安価で気軽に食べられることに、食通は気づいたのである。
ゲンゲは幻魚とも書き、それこそ幻の深海魚として金沢の居酒屋等で珍重され何度か食した。

ゲンゲもそのひとつ。ゲンゲは幻魚とも書き、それこそ幻の深海魚として金沢の居酒屋等で珍重され何度か食した。昔は「下の下」だったからゲンゲとする雑魚説もあるが、金沢ブランドがそれを名物に押し上げたのかもしれない。でも、ゲンゲは深海富山湾の深海でこそ多く獲れ、富山湾近くの水族館でもその生態を間近に見ることができるのだ。

今回訪れた、富山の隣町魚津市にある「海風亭」

今回訪れた、富山の隣町魚津市にある「海風亭」も、ゲンゲの竜田揚げが名物とされ、当初はそれを目当てに暖簾をくぐった。ゲンゲの竜田揚げは、あるグルメ漫画で紹介されたとの前情報だった。
おそらくは、ゲンゲを知らなかったであろう原作者に取り上げられた客寄せであり、実は四代続く実績と大変な底力、そして発信力を持つ日本料理店であることが分かってきた。

ゲンゲの竜田揚げ

ゲンゲの竜田揚げは、さすがに地場の歴史を感じ、しかもゲンゲの処理方法も金沢で体験したものと異なる。それゆえ、ますます他のメニューが試したくなってきた。といいつつ、料理のメニューより先に目に入ったのが「勝駒」。富山の地酒でお気に入り。というより日本酒として大好きな一本だがレアでなかなかお目にかかれない。もちろん地元ではあるもののサラッと置いてある「冴え」に脱帽し、本来の取材趣旨とはずれつつ「勝駒」と富山湾で獲れた新鮮な刺身をリクエスト。やたらと楽しくなってきた。もう小宴会モードである。

板場を仕切る渋く端正な三代目ご主人に続いて、美男美女の四代目夫婦も登場。

板場を仕切る渋く端正な四代目ご主人に続いて、美男美女五代目夫婦も登場。金沢で修業後「海風亭」に戻ったという長身男前五代目とのコントラストは、ビジュアル的にも隙がない。

五代目はさすがに現代の男だ。コラボや発信という言葉が似合い、それをサラリと自分のものにする。一方、心意気は地元を愛する昔気質な板前。その両輪が機能しだすと、一気に魚津の食文化が全国区となって行く状況に目を見張る。
近隣の若手と組んで地元の名物料理を作り、ウェブや通販で地元の食や工芸を広める。「海風亭」の根源に関わる仕入れや料理の技量については、四代目からきっちりと受け継ぐ。

「海風亭」で食事をするためだけに、魚津に出かける価値がある

東京から、いや全国各地から、時間を作って「海風亭」で食事をするためだけに、魚津に出かける価値がある。
「海風亭」は魚津駅前でホテル経営もされている。フランスでいう「オーベルジュ」(宿泊施設付きレストラン)としても、十二分に富山湾を楽しめそうだ。

SHOP INFORMATION

▶ 店名 日本料理 海風亭
▶ 住所 富山県魚津市釈迦堂1-13-5
▶ 営業時間
ランチ 11:30~14:00
夜 17:00~21:00

▶ 定休日 日曜日
▶ TEL 0765-22-7303

伊藤 章良

食随筆家

料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。その普遍的な内容から、シリーズ一作目が「東京巷蔵好店」として中国語に翻訳され中華圏でも販売。
2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

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