今回編集長アッキーが注目したのは、ふりかけ。ふりかけは、毎日の食卓のほか、お弁当や旅先など外にも持ち出すことができ、いつでもどこでもご飯のお伴になります。ふりかけ作りの先駆者で、昔ながらの品を大切にしながら、独自技術で新商品開発にも積極的に挑んでいるのが、静岡県のニチフリ食品株式会社。ふりかけ作りの歩みや世代を超えて愛される魅力について、同社代表取締役社長の塩坂恵理子氏に、取材陣がお話をうかがいました。

―もとは研究所として始まったそうですね。

塩坂　もともとこのあたりは、かつお節や削り節の工業地帯で、水産高校で学んだ祖父が、削り節の副産物である削り粉を、何かに利用できないかということで研究所を設立しました。そこから祖父は開発者として、魚粉を中心としたふりかけ作りを始めたのです。創業は1940年、今年85年目です。

―社長は3代目ですね。以前から後を継ぐご予定で？

塩坂　私は二女でもありましたし、継げと言われたこともありませんでした。東京の大学の仏文科で文学を研究したり、美術館のアルバイトを経験して、アートマネジメントを勉強したりしていました。メディアアートを学んだことがきっかけで、お金の勉強もしようと卒業後は地元静岡の銀行に就職し、勤務していたところ、父に前触れもなく「いつ来る?」と会社に呼ばれて、2017年に入社することになったのです。

―そして5年後に社長就任？

塩坂　いずれ父が会長、私が社長になって2人でと話していたのですが、父が亡くなり、引き継ぎもあまりしていない状態で2022年に社長に就任しました。

創業者で祖父の塩坂国士さんが研究所を開いたのが始まり。

―コロナ禍もあり、大変なご苦労をなさったかと。

塩坂　コロナ禍の真っただ中ですべてが変わった時期です。当社は9割が家庭用商品で量販店に卸していますが、対面の商談ができなくなったり、得意なニッチな商品を入れてもらえず売上が下がったり、反対に備蓄品としてのニーズが上がったり、コントロールができない状態でした。さらに、交代したのが出産後すぐのことで、とにかく大変でした。

―ご出産後すぐに社長に？どれほどのプレッシャーだったか…、想像もつきません。

塩坂　社長の私は作れるわけでも売りに行けるわけでもなく、社員が頑張ってくれて。プレッシャーはありましたが、いろんなことが一気に来た分、何が変わっても不思議はない、変化はチャンス、と頭を切り替えることができたのかもしれません。決めないといけないことが一巡した今のほうが大変さを感じています。当時は目の前のことを、今は先を見通していかないといけませんから。

―現在手がけておられるのは何種類くらい？

塩坂　一般の商品が60数種、業務用などを合わせると230～250種類ほどです。

―オンラインショップでの販売はいつから？オンライン限定商品もあるのですか？

塩坂　2015年くらいからあったのですが、2020年頃にリニューアルしスマホ対応になりました。商品の種類は卸しをしているものと同じですが、今回の「原点セット」のみオンライン限定です。

オンライン限定の「原点セット」。

原点セットは、おかか、あじよせ、のりたまご、のりっ子の4種。

原点セットに入っている商品の昭和パッケージ。こちらも味がある。

―和菓子ですか？

塩坂　卵、削り粉を使ったふりかけは、戦後粗末なものととらえられるようになってしまったので、貴重品の卵を使って、ふりかけの地位を上げていきたいと思ったようです。開発の際には卵の口どけがなかなかうまくいかなかったそうですが、そんな時に差し入れにいただいた和菓子がヒントになって、うまく卵の顆粒ができたとか。和菓子の影響もあって、ちょっと甘めなのかなと思っています。ちなみに祖父も父も大の甘党でした。

卵の顆粒の技術はニチフリが開発。味はやや甘め、それが多くの人に愛される。

ふりかけの袋をビニールプールに入れ、フック穴を使って釣ってもらう
「ふりかけ釣り」も催され、地元で喜ばれている。

味の再現研究と技術の高さでコラボ商品や新商品も人気。

―それは楽しいですね。ロングセラー以外に、コラボ商品にも取り組んでおられます。

塩坂　コラボ先様の商品の再現性を高めるのに苦労することもありますが、開発は1年以内をメドに試行錯誤し頑張っています。いまは年に1度、コラボ商品に挑戦しています。

―経営する上で大切にされていることは？

塩坂　私の入社以前から社員のみんなは真面目すぎるくらい真面目で、質を落としたらダメだ、お客様を裏切っちゃいけないという思いが強いんです。私もそうありたいし、そんな社員の思いを裏切ってはいけないと常に考え、誠実にということを心がけています。

―今後の展望をお聞かせください。

塩坂　誠実さを大切に、経営理念にも「時代とともに生き」という言葉があるように、歴史と時代に合わせて変化していきたいと思います。当社には顆粒を作る技術など独自の技術があり、それを「ふりかけテック」と呼び、活かしていきたい。ふりかけメーカーからふりかけテックカンパニーへ。ふりかけが活躍する場はまだまだあると思いますので、お客さまの声を聞きながら、おみやげや贈答に向くふりかけ商品も出していきたいと思っています。

―ふりかけをもっと楽しみたくなりました。本日は貴重はお話をありがとうございました。

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

＜Guest’s profile＞

塩坂恵理子（ニチフリ食品株式会社 代表取締役社長）
1986年静岡県生まれ。大学では仏文学やアートマネジメントを学び、卒業後は銀行に就職。2017年ニチフリ食品入社。2022年に代表取締役社長に就任。

＜文／大喜多明子　MC／田中香花　画像協力／ニチフリ食品＞