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鳴門海峡で揉まれた生わかめの、つるつるの食感。 井上商店が60年かけて開発に成功した「わかめ麺」

2022/07/25

暑い日のお昼に食べたくなるものといえば、冷たい麺!
今回、アッキーが気になったのは、淡路島で100年以上前から麺類などの製造販売を営んでいる、井上商店の「わかめ麺」です。つるっつる、もちもちでわかめの風味たっぷりの麺づくりの秘密を、代表取締役社長の井上賀夫氏に、取材陣がお聞きしました。

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有限会社井上商店 代表取締役社長 井上賀夫氏

―創業は明治34年(1901年)だそうですね。

井上 淡路島において、私の曽祖父である井上長平が創業しました。様々な仕事をして蓄財したようです。兵庫県三原郡にある廣田八幡神社参道口の、当時の国道端両角に店を構えたことで、「角長」と呼ばれたので、屋号を「長¬」としました。祖父は戦前、秋の彼岸から春の彼岸まではうどん屋、春から秋はアイスキャンデー屋と、二毛作をしていました。しかし戦後はアイスキャンデー屋も競争が激しくなってきたので、アメリカの払い下げを使ってソフトクリーム屋を始めたところ、大ヒットしたのです。あまりに売れすぎてお金を数える時間がなく、一斗缶にどんどんお金を入れていって、涼しくなってからようやく数えるというくらい盛況だったそうです。

―2代目であるおじいさまは、アイデアマンだったとか。

井上 祖父は麺の商売と冷菓の商売を同時にしていたおかげで、「冷凍の麵」というのを思いつきました。
終戦後はラーメンが非常に人気だったので、当時としては画期的な、具材とスープ付きで凍っているラーメン、つまり鍋に入れて温めるだけでできあがるラーメンを考えて、大ヒットしたそうです。「冷凍即席ラーメン」をつくったのは、おそらく祖父が日本で初めてだったのではないでしょうか。
しかしその人気は一瞬のことでした。日清食品からチキンラーメンが売り出されると、パッタリ売れなくなったのです。
冷凍即席ラーメンの商売で挫折した祖父は、「地元の資源を使った商品づくりをしないことには、競争はできない」と悟りました。そこで、淡路島のわかめに目をつけたというわけです。

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淡路島産のわかめがたっぷり練り込まれた「わかめ麺」。

―それが、現在の「わかめ麺」につながるわけですね。

井上 はい。鳴門海峡産わかめは、渦潮を生み出す激しい激流で育っているので、シコシコとした歯ごたえが特徴です。また、鳴門海峡には吉野川の水が流れ込んでいるので、山からミネラル分も運ばれてくるのです。様々な栄養素を集まった中で育つため、風味豊かで肉厚です。しかし、「わかめ麺」の開発は簡単にはいきませんでした。
わかめというのは小さくすりつぶすのが非常に難しいので、麺に練り込むのがなかなかうまくいきません。私の両親の代になってからも頑張っていましたが、ひとつでも大きい粒が混じっていると、そこでぶつぶつと切れてしまって麺にならないのです。私も一緒に考えて試行錯誤した結果、ようやく、わかめを混ぜた麵というのが完成しました。
それで販売を始めたわけですが、やはりちょっとくらいわかめが混じっているだけでは、食べたときのインパクトが足りないんですよね。入れられるだけわかめを入れたい。わかめペーストだけで麺をつくったらどうなるか、ということで再び試行錯誤しました。
こうして、現在の「わかめ麺」ができあがったのです。祖父が思いついてから私が開発するまでに、60年もかかりました。

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井上社長が考案した機械のひとつ。

―社長は会社経営の傍ら、機械工学の知識を生かしてエンジニアとしても活動されているそうですね。

井上 はい。実際に、食品製造工程の中で、私が考案した機械も使っております。
私は、子どものときから自然観察とか電気工作が大変好きでした。祖父から「製造の機械を勉強しろ」と言われて、東京水産大学(現在は東京海洋大学)に入り、食品工学科で学びました。当時、その学科が学べるのはそこだけだったのです。卒業後は、冷凍食品の会社に勤める傍ら、趣味として休日にはロボットのようなものをつくったりしていました。そうこうしているうちに祖父が体調を崩し、「会社を辞めてすぐ帰って来い」と言われたため、淡路島に帰ることになりました。
私の祖父は創意工夫が得意でしたが、父親は商売の方が得意でした。私は商売は下手くそで、どちらかというと祖父型なんです。下手だから「なにくそ」とさらに商売に挑戦していくというのではなく、「私しか作れないものを考えてみよう」と思いました。ほかの人がやって失敗を続けていることに挑戦して、成功できたらすごいこと。だから、人が失敗しているようなことから始めました。それが、手打製麺工程の自動化です。

―特許を取られた機械もあるのですか。

井上 特許を申請したものが22件あり、そのうち8件くらいは取得しています。
単純な作業が、意外に難しいんですよ。たとえば、「確実に1本ずつ麺を竿にかけていく」というようなことが、なかなかできません。それを実現した機械が、1番よく売れましたね。1番最近では、ベルヌーイと言う物理学者が考案した「レムニスケート」という八の字運動に挑戦して、手延べ麺を竿にかけるという機械を特許申請しました。今までにもそういう機械はたくさんありましたが、歯車が麺より上の位置にあって油が落ちてしまうとか、様々な欠点がありました。私はそれを防ぐため、機械部分と食品部分を完全にセパレートしたものをつくりました。発明としては非常に面白いものができたと思っております。

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箸でつかみにくいほどヌルヌル、ツルツルで、食感がよく風味豊か。

―すごくツルツルで、ヌルっとしたのあの食感は、そうやって生まれたんですね。

井上 わかめなどの褐藻類には、アルギン酸がたくさん含まれています。アルギン酸は、小麦粉生地と非常に相性がいいのです。
弊社の「わかめ麺」には、わかめを「これ以上入らない」というくらい目いっぱい入れているので、ツルツル、ヌルヌルの食感になるのです。

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工場に届いたわかめを特殊な加工でペーストにして、小麦粉や塩と合わせて麺帯をつくる。

―麺の色もきれいですね。

井上 一般的に食品素材は、加工すればするほど品質が落ちます。わかめを乾燥させたり、粉末状に加工することによって、香りや色、味、食感などが失われてしまいます。弊社ではワカメを生(非乾燥)の状態で小麦粉と練って麺にしているので、きれいな緑色が保たれているのです。乾燥粉末を麺に練り込んでいる商品はよくありますが、弊社のように、生わかめを麺に練り込むという方法で生地を作っている商品はほかにないと思います。この製法については、企業秘密です(笑)

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酸味のあるトマトとの相性はピッタリ。

―「わかめ麺」のオススメの食べ方はありますか?

井上 私が1番好きなのは、やっぱりゆでた後水氷で絞めて、冷たい麺を食べるというものです。わかめって、酢の物によく使われますよね。酸味のあるものと合うんです。だから、酸味のあるトマトをのせて食べるのもおすすめですよ。

―1991年に社長に就任されたそうですが、苦労されたことはありますか?

井上 父親の代まで、行き当たりばったり的な経営で、ソフト的な背骨の部分がなかったことです。高度成長期は、なんでも物があれば売れるという時代でしたが、その後は流通過多になり、差別化ができないと売れないという時代になりました。一般的なものに関してはどんどん値段の下げ合いになって、売れども売れども利益が出ないという状況に陥ってしまったのです。ここ淡路島も、鳴門海峡大橋が架かったことで、流通は激烈な競争になりました。単純に「儲かるもの」を追っかけてやってきた結果、経営は下り坂になり、その後は長期低迷飛行を続けていました。それをいかに通常運転に戻せるかというのが、私に課せられた1番大きな問題です。時代の変わり目のときに、そういう状態でバトンタッチしたので、大変苦労しました。

―「背骨の部分」というのは、たとえばどういうことでしょうか。

井上 まずは、「他社が作れないものをつくる」ということです。そのためには、会社の仕組みや製造の基準を見直して、背骨になる、大げさに言うと国の憲法にあたる部分をつくる必要がありました。社員を教育し、ひとりひとりに自主的に改良する意思をもってもらうこと、より良いものをつくろうというひとつのベクトルを持ってもらうことが、1番大変なことだったし、今でも継続中です。

―今後の展望についてお聞かせください。

井上 いまのところ、「わかめ麺」は冬より夏のほうがよく売れています。メニュー開発をすすめて、もっと冬向きのメニューも紹介したいと思っています。また、海外でのマーケテイングに力を入れております。タイでは、タイスキの大きなチェーン店でも採用されましたし、香港では「無印良品」で扱っていただいています。「わかめ麺」の緑色は「翡翠」に似ているということで、中国系の方に好まれるんですね。機能面についても、もっとアピールしていきたいです。わかめは水溶性食物繊維が非常に豊富なので、腸内環境を整えることにつながります。「わかめ麺を食べた翌日はお通じがいい」というお声もいただいています。「冷凍庫の中にいつもパンパンに詰めておきたいから、業務用を送ってほしい」という人もいるんですよ。今後も、国内だけでなく世界中で食べていただけるように、頑張っていきます。

―本日は、楽しいお話をありがとうございました!

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「わかめ麺ギフトセット」(8個入)
価格:¥3,283(税込、送料別)
店名:井上商店
電話:0799-45-0385(9:00~16:00水・日祝日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.wakameya.jp/SHOP/20150306.html
オンラインショップ:https://www.wakameya.jp/

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「わかめ乾麺ギフトセット」(3個入)
価格:¥3,240(税込、送料別)
店名:井上商店
電話:0799-45-0385(9:00~16:00水・日祝日を除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.wakameya.jp/SHOP/wakamekanmen4.html
オンラインショップ:https://www.wakameya.jp/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
井上賀夫氏(有限会社井上商店 代表取締役社長)

1959年兵庫県淡路島生まれ。東京水産大学(現:東京海洋大学)で食品工学科食品冷凍講座を学んだ後、1981年冷凍食品製造会社ユニチカ三幸に入社。1982年井上商店へ入社。1991年に同社取締役に就任。現在、井上商店の社長として「他社にはない」新商品開発の傍ら、機械工学の知識も生かし、エンジニアとしても活動中。「麺撚り綾掛け機構」などの特許を現在8件程度取得。

<文・撮影/臼井美伸(ペンギン企画室) MC/根井理紗子 写真協力/井上商店>

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