今回編集長のアッキ―こと坂口明子が注目したのは、江戸時代から親しまれる愛媛県松山市の伝統菓子「一六(いちろく)タルト」。愛媛県産のユズを餡に取り入れフワフワの生地で巻いた和菓子は、お土産品として長く支持を集めてきたロングセラー商品です。
地元の農産物を積極的に新商品に採用し、愛媛県の企業として地域に貢献する株式会社一六の代表取締役社長・玉置剛氏に、商品の歴史やこだわりについて取材陣がお話をうかがいました。
愛媛産の柑橘を使用したさわやかな風味の大人気銘菓「一六タルト柚子」
2024/07/05
株式会社一六 代表取締役社長の玉置剛氏
―貴社の歩みを教えてください。
玉置 弊社は1883年の創業で、当初は地元の人向けの菓子店としてお饅頭やタルトを販売していました。
2代目は松山大空襲の戦火に巻き込まれて亡くなったのですが、戦地から戻った祖父の3代目がいち早く松山を復興するために、タルトを地元の銘菓に育てるという旗印のもと同業者の皆さんと協力し自転車で宣伝活動をしていたそうです。
そこからお土産菓子としての地位を固めながら事業化し、街の規模とともに店舗を拡大していきました。また、地元のご縁でカーディーラーやレストラン、食品スーパーなど多角経営に乗り出して現在に至ります。
ふんわり、しっとり。ロールケーキのような和菓子、歴史のある「一六タルト」。
―学生の頃から会社を継ぐご意思がありましたか?
玉置 はい。現会長の父からはあまりそうした話はなかったのですが、小さい頃に祖父と会うたびに「お前はお菓子会社を継ぎなさい」と言われていたので、なんとなく刷り込まれた部分もありました。
大学で東京に出て早稲田大学に通っている間に、長男の責任感もありますから家業を継ぎたい思いが強くなっていました。そして卒業前に会長と話をして、どの事業がしたいかを聞かれ「お菓子を学ばさせてください」とお願いして始まりました。
―家業に入られて最初のご経験は?
玉置 家業を継ぐ前に、会長は長いお付き合いのある北海道の菓子メーカーに修業に行かせたかったようで、無理をお願いし、大学卒業後から3年間半そちらで勉強させていただくことになりました。
スキルもなにもないですから新人の仕事がメインで、お店での販売員を1年半、製造経験を1年、あとは生産管理や発注を行う部門で1年、とても実になる経験を積ませていただきました。
3年半を通じて学んだことはお菓子屋としての基準の高さ、またそれを達成するためのストイックな姿勢です。最初に経験したことが自分の基準となる中で、非常にレベルの高い指標を得られた事が、今でも私の一番の財産となっております。
季節限定品。愛媛県産の甘夏みかんの果皮・果汁を使用したこし餡が特徴。
―今回ご紹介の「一六タルト」についておうかがいします。
玉置 愛媛のタルトは久松家初代松山藩主の松平定行公が江戸時代初期にポルトガル人より教わったといわれています。当時はカステラの中にジャムが巻かれたものでしたが、現在の餡入りは松平定行公が独自に考案したものとされています。現在のスタイルになって100年以上の歴史あるお菓子です。
松山市で有名なタルト屋さんが戦争で廃業に追い込まれ、そちらの工場長の方が弊社に来られて現在の「一六タルト」の形ができあがりました。
ユズといえば高知県が有名ですが、弊社は地元の愛媛県産を採用しています。使い方に注意を払い、餡の味が強すぎると柑橘の風味を消してしまうので、爽やかなユズの香りを効かせるようにバランスよく配合している点がポイントです。
京都の老舗茶葉ブランド「森半」の宇治抹茶を生地にも餡にも使用した「一六タルト」。
―スポンジにも特徴がありますね。
玉置 定番のユズは、たまご、砂糖、小麦のみで、ショートケーキのスポンジのようなバターなどの油脂系原料は使っていません。それでいてふんわりとした柔らかい生地に仕上げているのが特徴です。
一六タルトはすべて熟練の職人が手で巻いて仕上げています。この時きれいな「の」の字になるようにこだわっています。またちょうどいいサイズに最初からスライスしていますが、このスライスは一六本舗が業界で初めて導入しました。
一切れずつの食べ切りもお手ごろ価格(151円)で販売中。
―ユズ以外の味も豊富なラインナップですね。
玉置 タルトのトップメーカーとして100年以上ユズ味にこだわって製造してきました。一方でユズはどうしても味が特徴的で好き嫌いもあるというご意見を受け、お子様から年配の方までもっと幅広い年代の方に食べてもらいたいという思いもありました。
新工場でラインを新設したことをきっかけに、全国のお客様に愛媛のお菓子を発信していくためにも新商品の開発に踏み切りました。
そして試行錯誤を重ねた結果、2014年に「抹茶味」など初めてユズ以外の商品をリリースしています。そこから次々に「桜」や「焼きいも」などの季節的なものや、愛媛らしい食材を使った「伊予柑」「甘夏みかん」など、幅広くチャレンジしてきました。
現在でも森永ミルクキャラメルとコラボした「一六タルト キャラメル」を販売するなど、新しい企画品は絶えることはありません。
愛媛県のキャラクター「みきゃん」とのコラボレーションパッケージの商品。
―今後の展望をお聞かせください。
玉置 人口減少で市場は縮小していく中、売り上げをどんどん大きくしていくのも限界はあると感じます。しかしどんな時代でも私たちは、お客様に感動を与えられるようなお菓子作りやサービスを常に提供する方針は変わりません。
今後も商品開発をはじめ新しいチャレンジを続け、お客様の人生を豊かにするための企業活動を行っていきたいと考えています。
―本日はありがとうございました。
「一六タルト柚子」(11切れ/本)
価格:¥972(税込)
店名:一六本舗
電話:0120-161647(9:00~17:00 日曜日除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://ichiroku-shop.raku-uru.jp/item-detail/1109702
オンラインショップ:https://ichiroku-shop.raku-uru.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
玉置剛(株式会社一六 代表取締役社長)
1981年愛媛県松山市生まれ。2004年に早稲田大学商学部を卒業後、2008年に入社。2019年に代表取締役社長に就任。これまで1種類だった「一六タルト」に、四季折々の素材を使い、季節の味わいが楽しめる一六タルトを商品化。地元の生産者と連携した取り組みにも注力している。
<文・撮影/田中省二 MC/伊藤マヤ 画像協力/一六本舗>