今回、編集長アッキーが気になったのは、塩ふき昆布の「えびすめ」。大阪名物としても知られる伝統の逸品です。一般的な昆布の佃煮とは異なり、贈答用にもぴったりな高級昆布。その歴史やこだわりについて株式会社小倉屋山本 代表取締役社長の山本博史氏に、取材陣がうかがいました。
創業175年の昆布屋が誇るヒット商品!高級塩ふき昆布「えびすめ」「魁えびすめ」
2024/04/10
株式会社小倉屋山本 代表取締役社長の山本博史氏
―社長のご経歴を教えてください。
山本 昔は社員寮や作業場が自宅とつながっていたので、老舗昆布屋という環境にずっと身を置いてきたと言っても過言ではありません。中学3年生の頃に父(先代)が亡くなり、叔父が12年間にわたって弊社の代表取締役常務を務めてくれました。私は大学を卒業してから4年ほど銀行に勤めたのち、会社を継ぐことを決めました。私のために「社長のポジションを空けている」と言ってくれた叔父に感謝しつつ、申し訳ない思いもあったのです。入社の半年後、闘病していた叔父が亡くなり、私は28歳で代表取締役専務に就任しました。
―貴社の歴史も興味深いです。
山本 江戸時代、大阪・心斎橋に「びんつけ油の小倉屋」がありました。「びんつけ油の小倉屋」は代々一子相伝で暖簾分けは許されていなかったそうですが、そこへお勤めしていた松原久七さんが独立するにあたり、商売敵になってはいけないと北前船で北海道から入荷していた昆布に注目したそうです。
松原久七より「昆布商の小倉屋」として始まり、2人の子供と2人の奉公人(その1人が山本利助)に暖簾分けした1848年が弊社の創業年となります。「小倉屋」には暖簾分け制度があり、かつて47社ほどあったものの現在は19社となりました。「小倉屋」の商標を共有できる会は「をぐら昆布系友会」といい、その会長を私が務めています。
「昆布商の小倉屋」浪華之魁。当時の様子を今に伝えている。
―1949年に「えびすめ」が発売されました。
山本 戦後、先代が「えびすめ」を考案すると同時に、百貨店の「のれん街」へ出店が決まりました。当時においても非常に高級な昆布ということで、日本全国に名店として名前が広がり、ヒット商品も多数生まれたのです。
また、同時期に叔母の山崎豊子が「暖簾(のれん)」という小説を出版しました。私の父と祖父をモデルにした小説であり、弊社の発展と昆布屋の地位向上につながったと聞いています。昔の話ですが、「和菓子の老舗は玄関から、昆布屋は勝手口から入る」という扱いが同等になったそうです。
―社長就任後の印象深いエピソードは?
山本 「小倉屋山本」は「煎り炊き」を続けることに心を砕いてきました。最低限の調味液で昆布を炊き上げ、旨味を1滴も残さず昆布に吸い込ませるという製法です。対して、大量の調味液に昆布を入れて炊くのが一般的な「浮かし炊き」です。手間やコスト、昆布の仕上がりなど作り方が根本的に異なるので、どちらが良い・悪いということはありません。
弊社では原料のことを「原藻(げんそう)」と呼んでいます。昆布の味を生かしきる煎り炊きを行う以上、原藻にもこだわらざるをえません。天然昆布は1年ごとに豊作・不作を繰り返すもので、不作の年に備えて原藻を確保します。保管コストは合理的でなく、銘柄によっては確保すらできないため、私は「今あるもので製造する技術も必要ではないか」と意見したことがあります。それでも、社員たちが原藻にこだわり続けたことを今ではうれしく思います。弊社が積み重ねてきた文化そのものです。
―昆布屋としての強みは?
山本 昆布は海外から注目され、日本でも見直されている貴重な素材です。弊社は中級以上の昆布に大変詳しく、幅広い世代の方にもっと昆布が受け入れられるような製品を作っていきたいと思っています。昆布とひとくちに言いましても、日高昆布、利尻昆布、羅臼昆布などそれぞれに特徴があります。たとえば、出汁(だし)に含まれるアミノ酸の数値が3番目に高い利尻昆布は、京都の料亭で重用されています。
アミノ酸量とおいしさはイコールではありませんが、なぜ3番目の利尻昆布が良いかというと澄んだ出汁が出るからです。真昆布は出汁がよく出て、食べるにも適したオールマイティな昆布です。東京は硬水の地域が多いので、出汁が出やすい日高昆布がおすすめです。そのように昆布を見分けて、製品に生かしていくのがプロの仕事だと言えます。
―「えびすめ」の魅力を教えてください。
山本 煎り炊きした最高級の真昆布を、手間暇かけて乾燥させた「塩ふき昆布」です。お茶請けとしてそのまま食べられますが、ご飯に乗せたりお茶漬けにしたり、あるいは料理に入れていただくことで奥深いおいしさを味わっていただけます。小倉屋山本伝統の逸品です。
残念ながら、道南産の天然真昆布がまったく獲れない状況が続いています。漁獲高が低い時期は値上がりした昆布を使用していましたが、ここ数年は確保自体が難しくなりました。今後は限定販売に近い形で製造を続ける予定です。
昆布のおいしさを堪能できる「えびすめ」。ごはんのお供に。
―「魁えびすめ」とは?
山本 「えびすめ」と原藻を変えた新製品で、製法や味付けは変わっていません。生産量やコスト、味といった点から北海道中の昆布を選定した結果、「厚岸産おに昆布」を採用しています。厚岸産おに昆布は真昆布よりも少しクセがあるため、最適な炊き方を試行錯誤しました。開発に成功し、「えびすめ」のような制限をかけずに販売できています。
―おすすめの食べ方は?
山本 細切りの昆布はどんどん料理にお使いいただければと思うのですが、「えびすめ」を細かく切ってしまうのは正直もったいないという気持ちがあります。おすすめは、やはりお茶漬けやおにぎりです。弊社のHPでは「やまちゃんおすすめ簡単レシピ」と題したアレンジも紹介しています。「餅のえびすめ焼き」などのレシピをぜひお試しください。
―今後の展望について。
山本 昆布の生産について、今後どうなるかわからないという現実があります。しかし、弊社には昆布を中心に歩んできた175年の歴史があり、社員全員が「うちは昆布屋だ」という強い思いを抱いています。その両方をふまえて、私たちは昆布のエキスをはじめ、「旨み」を中心に据えた製品を積極的に開発していくつもりです。時代に合わせて変わる必要は重々感じていますが、昆布への誇りと「旨み」というルーツは忘れずにいたいのです。その上で、小倉屋を知らない方にも手に取っていただける製品作りをしていきます。
―「えびすめ」は、他のおかずがいらないと思うほど主役級の味わいでした。昆布のおいしさを周りにも広めたいと思います。貴重なお話をありがとうございました!
「山本利助創始伝承の味 えびすめ」(70g)
価格:¥2,160(税込)
店名:小倉屋山本
電話:0120-415-214(10:00~17:30 土・日・祝日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://ogurayayamamoto.jp/?pid=121508827
オンラインショップ:https://ogurayayamamoto.jp/
「魁えびすめ」(魁えびすめ)
価格:¥1,620(税込)
店名:小倉屋山本
電話:0120-415-214(10:00~17:30 土・日・祝日・年末年始除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://ogurayayamamoto.jp/?pid=176874345
オンラインショップ:https://ogurayayamamoto.jp/
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<Guest’s profile>
山本博史(株式会社小倉屋山本 代表取締役社長)
1953年、大阪生まれ。慶応大学経済学部を卒業後、第一勧業銀行(現:みずほ銀行)に入社。1981年に株式会社小倉屋山本に入社、2004年に同社代表取締役社長に就任。1848年創業の小倉屋山本の4代目を務める。
<文・撮影/マスダアヤノ MC/白水斗馬 画像協力/小倉屋山本>