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伝統を受け継ぎ15代。「柿右衛門」の優美な色絵を現代の食卓に。

2023/11/21

多様なオンラインショップの中でも、今回編集長アッキーが目を奪われたのは、繊細で優美な色絵、伝統あるあの柿右衛門の器です。370年以上の歴史を受け継ぐ名窯、柿右衛門窯当主の15代酒井田柿右衛門氏に、柿右衛門窯の特徴やご自身のものづくりについて、取材班がお話をうかがいました。

柿右衛門窯当主の酒井田柿右衛門氏(15代酒井田柿右衛門)
柿右衛門窯当主の酒井田柿右衛門氏(15代酒井田柿右衛門)

―歴史ある窯元にお生まれになって、幼少期はどのように過ごされていたのですか?

柿右衛門 子どもの頃は引っ込み思案だったのですが、外で遊ぶのは大好きで、家の近くの山に登ったり魚釣りをしたり、自然の中で一人で遊んでいました。小学校に入ってからは友達と草野球などをして、とにかくのびのび体を動かしていましたね。

―自然に囲まれておられたのですね。お家には有名な木もあるとか…。

柿右衛門 柿の実の色と柿右衛門の色絵を関連づけたお話に出てくる柿の木ですね。尋常小学校の教科書にも載ったそうなのですが、もとはフランスにあったお話が日本風に書き換えられたとも言われていて、それが歌舞伎にもなり有名になったようです。でも、柿の実を見て色絵磁器を作ろうと思ったというくだりは実はフィクションなんですよ。

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佐賀県有田町にある柿右衛門窯。
敷地にある柿の木の話は脚色され、戯曲「名工柿右衛門」に。

―え、そうなんですね。

柿右衛門 色絵磁器は長崎貿易を行うにあたって、長崎におられた中国の明のかたに技術を習ったというのが始まりです。明の時代はオランダ東インド会社と貿易をしていたのですが、明末清初の時期に大陸との貿易ができなくなり、代わりに日本のほうに色絵磁器を発注するということになった。そこから長崎貿易が発展し、その中で日本から色絵磁器が大量に輸出されるようになったんです。

―歴史を感じますね。ところで、窯元を継ごうと考えられたのはいつ頃ですか?

柿右衛門 後継ぎになるのは物心ついた頃から意識していましたね。親ではなく工場の方やお客さんから「ちゃんと継がないと」とよく言われていました。選択肢がないというか、学校で将来の夢というような作文を書きなさいと言われた時も、もう決まっているのになあと違和感を覚えていました。

―お父様である14代は何と?

柿右衛門 父は継げとあまり言わなくて、継ぎたくなければ継がなくていいんだよと言っていて、私のほうが「それでは困るんじゃないの?」と言うほどでした。私は高校時代は陸上に打ち込み、その後多摩美術大学に入って日本画の基礎を学びました。その時に父から「毎日スケッチをして、目の前の対象をそのまま写すことを心がけなさい」と言われました。自分が描きたいように描くのではなく、見たままを描く。謙虚な気持ちで写し取るということです。繰り返すことで、絵の感性が育てられ、それをきっかけにいろんなことがわかるようになるし、実際に絵が上達すると言われました。

―そのスケッチが今の作品づくりに生かされているのですね。

柿右衛門 真面目にやってるかと言われるとわかりませんが(笑)、スケッチをやればやるほど感覚はよくなり、絵も魅力的になるのは感じますね。

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2014年2月4日に15代の酒井田柿右衛門を襲名。

―襲名された時のお気持ちは?

柿右衛門 まもなく10年になりますが、周りの方がめちゃくちゃ応援してくれているという感覚が今も残っています。先代がちゃんと仕事を全うしてくれていたおかげだと思いますが、披露の時もみなさんの視線や応援の圧を良い意味で感じて感激しましたね。次に繋げていくのが自分の仕事だという心構えができました。

―トップとして変えられたこと、変えなかったことは何でしょうか。

柿右衛門 自分で運営やデザインをしていかないといけませんが、そうすぐに全部決められるわけではありませんし、まずは自分の感覚でものを見て、よいものは残して、もうひとつというものは倉庫に片付けてということをしていきました。窯の食器は昔ながらの伝統的な仕事ですから、モチーフ等も方向性を受け継いでいくことにしました。自分の感性を生かすものとして、「濁手(にごしで)」という当主が作る焼物については、自分の思いを最優先で作る、その両輪でやっていこうと決めました。

―「濁手」とはどういうものですか?

柿右衛門 佐賀のほうでは米のとぎ汁を濁しと言いまして、とぎ汁のような乳白色ということでその名前になったようです。乳白色の素地の上に昔ながらの赤や黄色の色絵を描くことから、素地と色絵とセットでそう呼ばれています。12代、13代の時代、戦後の復興の時期に力を合わせてみんなで何か作ろうということになり、文献を調べて17世紀の柿右衛門様式の一番いいものを作ったんです。それをうちの代表的な焼き物ということで、「濁手」という名前で展開していきました。

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15代の濁手作品「濁手 藤文 花器」。

―途絶えたこともあったのですか?

柿右衛門 17世紀末の30年間、5代、6代の頃に一時流行ったのですが、その後金襴手が流行し、濁手の需要が減り、うちも金襴手を作るようになったんです。その後別の流行を経て、昭和の終わり頃からまた濁手が復活しました。

―濁手では、代ごとの特徴というのはあるのですか?

柿右衛門 窯もののほうはその時に求められる流行りの模様が出てきますし、濁手もその時々で個性が強いものが出ています。何代のものかはすぐにわかります。

―ところで柿右衛門というお名前の由来は?

柿右衛門 実は由来が伝わっていないんですよ。文献によると、鍋島藩の大名が江戸から地元に帰られる時に焼き物を献上し、名前をいただいたと言われています。

―その焼き物に柿の絵が描かれていた?

柿右衛門  江戸時代には柿の絵はないんです。当時は松竹梅や牡丹や菊など定番のおめでたい柄があって、あとは鹿やあわうずら、ぶどうりすといった決まったものを描くのが普通でした。

―現在オンラインで販売されているフリーカップはいつ頃作られたのですか?

柿右衛門 ごく最近で、使い勝手がよいサイズに作ったつもりです。13代から使っている図案を現代風に構成してデザインしています。文様について意味や発想はわからないのですが、それ以前の柿右衛門の柄を当時も自分なりにデザインしたのではないかと思いますね。時代に合わせてデザインを変えているんですね。

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いろいろなシーンで使えるフリーカップ。上は「筒形反 丸文」。

―絵柄はどのように選ばれるんですか?

柿右衛門 柿右衛門様式の絵柄を必ず2種ほど使い、そこに別の文様や自分らしいものを加えます。丸紋でもいろいろありますから、同じフリーカップでも雰囲気の違うものが生まれます。食卓に並べた時に、組み合わせ次第で全体の雰囲気も変わりますから、自分なりにそれを考えながら作っています。たとえば、柿右衛門様式だと左右非対称ですが、シンメトリーなものも組み合わせていくと、並べた時に面白いんですよね。

―昔の柄を守らなければというしがらみのようなものはないのですか?

柿右衛門 昔の柄はもうできあがっていますから、どちらかというとそれを整えているという感覚でやっています。時代に合わせたバランスに変化させる。一方、濁手に関しては、自分のオリジナルが多いので、変えたと思っています。

―どのような方に使ってほしいですか?

柿右衛門 焼き物に興味がある方が気にいってくださったらいいなと思います。うちは伝統工芸ですから、好みが分かれるというよりも、これもいいけどこれもいいねとみんなに言ってもらえるものを目指しています。

―新しいシリーズも出されたのですね。

柿右衛門 1つは昔ながらのデザインを形に合わせて調整した「花実文」(かじつもん)。たとえば枝の端の切れ方まで細かく整えたので発売までに時間がかかりました。もう1つは昔ながらの意匠の幅を細くして、洋風にも使える定番として作った第一弾の「縁地文」(ふちじもん)。深型、浅型の2種を1寸刻みで多種類作り、長く使っていただけるように10年後も対応できるシリーズとして展開します。

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2種の新シリーズ。古くからの花実文の絵柄を整え直した「花実文」と
洋食や各国料理と調和する「縁地文」。

―今後の展望をお聞かせください。

柿右衛門 現代はいろいろな食文化が日本に入り、われわれも海外の食に触れますから、和食中心から洋食や中華、さまざまな国の食に対応する器を作っていきたいですね。自分の濁手の作品と両輪で続けていって、最終的によいバランスがとれればいいなと思っています。あと20年くらい、晩年まで頑張って作り続けたいと思っています。

―読者へのメッセージを。

柿右衛門 眺めるだけでなくて家で使うことをイメージしながら、見ていただけたらと思います。ほんとうは実際に触れていただけたらいいのですが、画面でもふちの反り具合や薄さ、立体の雰囲気を、家に持ち帰る感覚で見てもらうと合うものが選べると思います。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

フリーカップ 筒形反 丸文

「フリーカップ 筒形反 丸文」
価格:¥36,300(税込)
店名:柿右衛門窯公式オンラインショップ
電話:0955-43-2267(9:00~17:00 年末年始除く無休)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://onlineshop.kakiemon.co.jp/view/item/000000000949?category_page_id=11
オンラインショップ:https://onlineshop.kakiemon.co.jp

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
酒井田柿右衛門(15代酒井田柿右衛門、柿右衛門窯当主)

1968年、佐賀県有田町生まれ。多摩美術大学絵画学科中退後、1994年に父・14代酒井田柿右衛門に師事。
2010年、日本伝統工芸展初入選。
2013年、国・重要無形文化財保持団体「柿右衛門製陶技術保存会」会長就任。
2014年、15代酒井田柿右衛門襲名。
現在、日本工芸会西部支部常任幹事、佐賀県陶芸協会副会長、有田陶芸協会副会長等を務める。

<文/大喜多明子 MC/菊地美咲 画像協力/柿右衛門窯>

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