京都府京都市「篠田屋」の皿盛

京都府京都市「篠田屋」の皿盛

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姿も味も、京都らしい魅力にあふれる文化財的食堂

この店の名物は「皿盛」

京都は、ゆるぎない日本最高の観光地である。いや、昨今の人気投票では世界最高といっても過言ではない。と同時に、日本料理の歴史と文化を牽引する土地でもある。

関東圏からは、京都というだけでハイクラスの日本料理が出てくる神々しい錯覚もあり、関西生まれのぼくからは崇められすぎかとも感じるけど、歴史の浅いアメリカがヨーロッパを憧憬する感覚と似ているのかもしれない。

食随筆家なる職業柄、京都で何百年も続く料亭やミシュランで星を取る気鋭の割烹にもちょくちょく顔を出す。しかし、数は尋常じゃなく大変に高額。しかも、後から後から新規独立組も加わるので、追っかけてもきりがない。

京都には、厨房を持たないお茶屋に仕出しをすることから始まった独特の文化も華やかだが、歴史があるのは庶民の生活とて同様。戦前いや昭和初期の建物にて、脈々と営む食堂も少なからず存在する。

さて少し話がそれるが、ぼくの学生時代は、大阪に暮らし京都の大学に通った。当時から、大阪京都間には3通りの交通手段、つまり阪急、京阪、JRの利用ができた。
JRは、大阪~京都を最短で結ぶものの価格が高く、JRの京都駅はぼくたちが行きたいエリアから遠く離れていたので全く利用しなかった。というか、利用する、もしくは沿線に住んでいる面々は、その点が突っ込まれる対象となった。つまり、大阪京都間のみならず、神戸でも奈良でも、関西人は私鉄を利用するのが定番だったのである。

では大阪から京都に行く場合、阪急か京阪どちらを選ぶか。ちなみに神戸に行くのにも阪急と阪神の二択だが、これはもうプロ野球の阪神ファンかどうかにかかってくるようだ。

京都の場合、大阪梅田から出ている阪急電車の方が圧倒的に便利で、しかも終着駅が四条河原町。京都市内で最も栄えているエリアに到達する。それに対抗する京阪は、沿線に「ひらかたパーク」といった遊園地を作ったり、今はなきテレビ付きの特急電車を走らせていた。この「テレビカー」は、沿線にパナソニック(旧松下電器産業)の本社や工場があったからだとも言われている。

その界隈は三条京阪と呼ばれ比較的大きなターミナルの顔を持っていた

ぼくの場合、阪急なのか京阪なのかは、終着地の目的によって使い分けている。最近は京阪が出町柳まで延長されたので、その界隈や鞍馬等へ足を伸ばす際も大変便利だ。いっぽう、ぼくが大学生のころは、京阪は三条駅までしかなく、その界隈は三条京阪と呼ばれ比較的大きなターミナルの顔を持っていた。

今回訪問した「篠田屋」は、そんな三条京阪出口の真ん前にある
どこか懐かしい店構え

今回訪問した「篠田屋」は、そんな三条京阪出口の真ん前にある。辺りを見回しても、すでにすっかり近代化された都市ながら、その合間に、ここは重要文化財かと思わせるような古い建物がぽつん。近づくと食堂であることが分かり、さらに驚く。どこか懐かしい店構え、昔ながらのメニュー。ほとんどの人が入ってみたくなるに違いない。そんな魅力が外観からすでにあたり一面漂っている。

ラーメン、うどん・そば、丼ものなど、食堂メニューが揃う
昔ながらのメニュー

第二次大戦の戦火を免れた京都ならではの、昭和初期の建物。それを丁寧に修繕しながら今日まで間断なくお客様を迎えてきたと、元気な女将さんが歯切れのいい京都弁で語る。ラーメン、うどん・そば、丼ものなど、食堂メニューが揃うが、ご承知のように京都の料理はダシの文化。そのテイストは食堂でも同様で、丼物の味付け自体も、関東以北の方にはなじみが薄いに違いない。

カレーうどんに使うダシの利いたカレー餡を皿盛のご飯にかけ、カツを載せたもの

加えて、この店の名物は「皿盛」。
京阪の終着だった時代、昼食に長時間かけられない乗務員のための特別メニューとしてスタート。平たく言うと、カレーうどんに使うダシの利いたカレー餡を皿盛のご飯にかけ、カツを載せたもの。
皿盛なので丼に比べ食べやすく時間もかからない(堂々とスプーンを使える)、カレー餡ゆえ胃にもたれにくい、カツも載っていて満足度も高い。シンプルながら短時間で活力を得たい乗務員の顔を日々見ているからこそ生まれた心温まる一皿である。

この地にしっかりと根付いた京都をここ「篠田屋」で改めて知る

京阪が出町柳まで延び、三条京阪が単なる途中駅となった結果、店の経営が難しくなった時期もあるそうだ。でも、そこは京都たる意地。スタイルも料金もほとんど変えずに今日まで続けてきた。
豪華な料亭で会席料理に我を忘れることも一興だが、この地にしっかりと根付いた京都をここ「篠田屋」で改めて知ることになるとは、今までなんと遠回りをしてきたことだろうか。

SHOP INFORMATION

▶ 店名 篠田屋
▶ 住所 京都府京都市東山区三条通大橋東入大橋町111
▶ 営業時間

11:30~15:00
16:30~18:30
毎週金曜日 15時閉店

▶ 定休日 土曜日
▶ TEL 075-752-0296

伊藤 章良

食随筆家

料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。その普遍的な内容から、シリーズ一作目が「東京巷蔵好店」として中国語に翻訳され中華圏でも販売。
2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

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