第7回 日東珈琲株式会社 社長 長谷川 勝彦さん

3代目ロースターが厳選した
自慢の農薬・化学肥料不使用コーヒー

大正の文化人たちが集まる場となり、ジョン・レノンも来日時には通ったといわれる「カフェーパウリスタ」によってコーヒー文化を日本に広めた日東珈琲株式会社。その3代目である、現社長の長谷川勝彦さんに自慢の農薬・化学肥料不使用コーヒー『森のコーヒー』の魅力についてうかがいました。

――― 森のコーヒーはどのようなコーヒーなのでしょうか?

 


長谷川 勝彦社長(以下、長谷川)
: 森のコーヒーの始まりは、20年程前にさかのぼります。僕はもともとオーガニックコーヒーに興味があり、有機栽培で味が良いコーヒーが作れないのかと思っていまして、生産者を探していました。その頃に出会ったのがブラジルでコーヒー農園を経営するジョン・ネットさん。この人の栽培方法が、極端にいうと何もしないのです。いわゆる、自然農法という堆肥も何も使わず自然そのままの状態を農園にしています。
コーヒーの発祥の地であるエチオピアでは、自然の森の中にコーヒーの木が生えています。本来、コーヒーは他の木よりも背が低く、日傘の役割をしてくれる日陰樹の下に生えています。それをポルトガル人が植民地経営をするためにブラジルに持ってきて、コーヒーだけを単作で植えるという、完全に直射日光が当たるフルサン農法が定着し、今のブラジルのやり方になりました。

ジョン・ネットさんの考えでは、コーヒーの木は、森の中で生えていたような木なので、フルサン農法ですと、木にストレスがかかって弱くなり、病気にかかったり、害虫にやられたりする。しかし、エチオピアの環境に戻せば、木は健康になるし、健康になれば病気にかからなくなり、農薬を与える必要もない。だから、有機農法で作れるという考え方なのです。

 

――― フルサン農法と比べると生産量が落ちるという事は無いのでしょうか?

長谷川:ジョンさんのところは、比較的安定しています。もちろん普通の農薬・化学肥料を使ってフルサン農法でつくるコーヒー豆と比べて、ヘクタール当たりの収穫量は普通の肥料を使ったところよりは低いですよ。でも、それもちょっと低くなる程度でさほど変わりません。

 

――― ほかの生産者はどのような観点から選んでいるのですか?

 

長谷川:今のブラジルで、有機栽培でコーヒーを栽培している人は本当に少ないんです。弊社が付き合っているのは農薬や化学肥料を使用しないでコーヒー栽培をしていて、かつ、品質の良い人ですね。該当者は5、6人くらいだと思います。
品質は土地で変わります。コーヒーは本来、標高の高い場所で栽培します。標高が高ければ高いほど風味が豊かなコーヒーが作れるんですね。だから、その農園の標高がどれくらいか。土壌のミネラル成分がどうなのか。どのくらい雨が降るのか。風はどうなのか。日当たりはどうなのか。そういったところを確認します。

その次は収穫の仕方です。コーヒーは1本の木の中でも、成熟している実と未熟な実が同時期に混在して出来ます。年に3、4回に分かれてコーヒーは花が咲くのですが、時間差で咲いた花がそれぞれ実になるので、熟すタイミングがバラバラになってしまうのです。
品質にこだわっている人は熟した実だけを収穫するのですが、こだわらない人は効率を優先して全部一緒に処理してしまうので、品質が悪くなるのです。

 

――― そのような農薬・化学肥料不使用栽培で、かつ、品質にこだわっているコーヒーは限られているわけですが、他のバイヤーとの高品質のコーヒーを獲得する競争に勝つための工夫はあるのでしょうか?

 

長谷川:私たちの強みの1つは必ず毎年買い続けることです。生産者は毎年決まった量を買ってくれないと困りますし、かつ、ちょっとずつ増えて行くのが良いんですよ。
去年、良いものが出来ていた農家でも、今年、良いものができなかったら買わないという人もいるので、その中で生産者の信頼を勝ち得ようとすると長期的に毎年買い続けていくことが重要ですね。そうする事で、農薬・化学肥料不使用栽培で高品質のコーヒーを仕入れることができます。

 

――― コーヒーに興味を持たれたのはいつ頃からなのですか?

 

長谷川:祖父が焙煎から販売まで総合的にコーヒーを扱うロースターでしたので、幼い頃から興味はありました。大学もポルトガル語学科で、在学中にブラジルに1年くらい行っていました。
社長になるずっと前からそうなのですが、弊社のような大手と比べてあまり規模が大きくない企業は、生き残るためには大手と違う特徴や個性が必要なので、農薬や化学肥料を使用しないコーヒーも含めたスペシャルティコーヒーに特化していかなくてはいけないと感じていました。
例えば、コスタリカの「ブラックハニー」を扱っているのですが、これもいわゆるスペシャルティコーヒーですね。

 

――― 創業100周年セレクションというご商品がありますが、これは?

 

長谷川:100周年を記念していくつかコーヒーを選んで100周年セレクションにしたんですね。ブラックハニーもその1つです。コーヒーの実は果肉がすごく薄いのですが、ここに糖分の多い液体があるんですよ。この甘い汁みたいな部分をコスタリカの人はハニーと呼ぶのです。
コーヒーの実は、果肉をとってアフリカンベット(高床式乾燥棚)で乾かすのですが、その際に、このハニーをどの程度残すかによって味が変わります。ほぼ100%残したものをブラックハニーと呼んでいて、20%程残したものをイエローハニー、50%程残したものをレッドハニーと呼びます。ブラックハニーが、一番甘みがあります。

 

――― 本来のコーヒーにはハニーが付いていないのでしょうか?

 

長谷川:こういったスペシャルティコーヒーが出る前は、水洗コーヒーと呼んでいたのですが、ハニーを微生物を利用して取り除いていたんです。今でもその方法が主流です。

ですが、ハニーが付いていると、普通のコーヒーより甘さがあって、フルーツの香りなんかが出てきます。スペシャルティコーヒーに関しての動きとしては、フレーバー(香味)に明確な特徴のある品種を選んで、コーヒーを作ろうとしていますね。

 

――― なぜスペシャルティコーヒーにこだわるのですか。

 

長谷川:1960年代の後半から、スペシャルティコーヒーと呼ばれるものが出てきて、全世界的に流行りました。背景にあるのは、コーヒーの値段が全部ニューヨークにある先物相場で決まってしまうことにあります。先物相場では、生産者は普通のコーヒーを栽培していると、このジェットコースターのように変動する相場でしか売れず、価格が安定しないのです。
しかし、スペシャルティコーヒー、つまり、高付加価値コーヒーを作り、ロースターと直接的関係を作って販売する場合はニューヨークの先物相場は関係ないんです。生産者は先物相場に左右されず、収入が安定しますし、安く買い叩かれることもありません。

 

――― 生産者としても高付加価値商品を作った方が良いということですか?

 

長谷川:そうですね。だから日本の農業とすごく似ています。ブラジルは経済規模も一時的にGDPでイギリス抜いたくらいの国なので、人件費が非常に高いわけです。その中で農業をやっていくためには日本の農業と同じで付加価値化していく必要があります。昔は労働力が安かったので、その安い人件費をベースに作ることもできたのですが、今ではそういうこともできないので、やはり高付加価値化しないといけないと考えました。お客様に変わらず美味しいコーヒーを提供するためにも、スペシャルティコーヒーなんですよ。

 

 

長谷川さんのおすすめ

「卵娘庵」さんのはこひよ
http://hiyokosan.net/index.html

https://www.paulista.co.jp/sc/products/details/478
※日東珈琲株式会社の販売ページ

「放し飼いの鶏の卵を使ったクッキーです。卵が濃厚で、後味がすごくいい。コーヒーによく合います」

長谷川勝彦さん

上智大外国語学部卒。
ポルトガル語を学び、大学時代からブラジルに足を運ぶ。
自ら産地を訪問し、買い付けを行う。

日東珈琲株式会社
http://www.paulista.co.jp/

明治43年創業。
南米ブラジル国サンパウロ州政府専属珈琲販売所として、カフェーパウリスタを開業。
現在は農薬化学肥料不使用の「森のコーヒー」等を販売している。

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