倉敷発! 全国1位を獲得した名物うどん
「ぶっかけうどん」
2016年、「うどん天下一決定戦」(主催:商店街振興組合原宿表参道欅会)にて見事、優勝したのは、岡山県倉敷名物の「ぶっかけうどん」。このぶっかけうどんを販売しているのが、「倉敷うどん ぶっかけふるいち」です。
社長の古市了一さんに日本一になったぶっかけうどんの魅力についてお聞きしました。
――― ぶっかけうどんが出来た経緯を教えてください。
古市了一社長(以下、古市):実家で『ふーまん』という饅頭を販売していたのですが、小学校の5年生のときに「明日からお小遣いはあげません」と親から言われました。
「どうすればいいの?」と聞くと「アルバイトをしなさい。お店の中でできることを見つけなさい」と。子どもに出来ることといったら皿洗いしかないですから、1時間5円で働きました。友達は1日20円くらいお小遣いを貰っていたんじゃないかなあ。最低4時間は働かないと追いつかないという状態でした。
そんな訳で、1年も経たずにあまりの時給の低さにクーデターを起こすわけですが、クーデター叶わず、父から言われたのは「仕事の賃金というものは仕事の質に見合うんだ」と。それを教えられるわけです。
――― その後もアルバイトは続けたのですか?
古市:小学校6年生になった頃には、うどんの手打ちを覚えるなどお小遣い欲しさに親父の策略に乗っていました(笑)。完全に手打ちうどんを覚えて、「わあ、子どもが作っている」と外からお客様がガラス越しに見て、それにつられてお客様が入ってくる。親父にとっては一石二鳥という。
そんな中で親父は月に1、2回友達を呼んで唯一の楽しみの麻雀をやるわけですよ。そこに私がご飯をつくって持っていくんです。
夏のある日、父からざるうどんを注文されて持っていったところ、「ひとつのどんぶりに入れてきて」と言われ、うどんも具も一緒に一つのどんぶりに入れて持っていたんですね。やっぱり麻雀やっているとつけて食べるのが面倒くさいということですね。それでひとつの丼ぶりに入れて持っていった所、「これはもんげえ(岡山弁で「とても」の意味)おいしいわ」と。
そのときにいきなり父が「これメニューにしよう!」と言い、では、名前をどうするかとなった時に「上からばさっとぶっかけてるから、ぶっかけじゃ」と。それで言った次の日から商品になったというサンドイッチ伯爵ではないですけど、父の麻雀から始まったんです。
――― ぶっかけうどんはどのように広まったのでしょうか?
古市:私が10代後半の時、雑誌の月刊食堂さんを始めとして、たくさんの雑誌がぶっかけうどんを取り上げてくれました。その記事をみて手打ちうどん同好会の方がお見えになり、父に講演を依頼してくれたそうです。
父がぶっかけうどんの講演会をしたことで、講演を聞いていた人たちが、ぶっかけうどんを全国に持ち帰ったんだと思います。
――― 商品を広めるためにどのような戦略をとっていましたか?
古市:私が20代中頃に登録商標の申請をはじめましたが、最初は全然取れなくて。「ぶっかけうどん」というフレーズになってくると、もう既に何件かが世の中に出している人がいました。佃煮などの桃屋さんがぶっかけ丼ぶりという言葉を既に登録商標として出されていたり。
その2つの理由で特許庁からは取れませんといわれ、申請を出す度に「NO」と返されましたが、しつこく挑戦しました。
――― 特許を取得するためにどのような工夫をされたのですか?
古市:ある時、特許の大きな分類編成の変更が法的にあった時に、地元の力のある弁理士さんが、今が一番チャンスだと教えてくれ、申請を出しました。
その時は通らなかったのですが、また少し期間をあけて提出すると、「ぶっかけ」という言葉は加工品名としては無理だが、看板の紋としてはふるいちさんのところで間違い無いということで特許がおりました。
そこではじめて完全にぶっかけはうちの特許となったのですが、その後この特許をどう使うかで悩みました。私が選んだ道は日本中のうどん屋さんにぶっかけという商品を出してもらって、お客様の間で広まったところで、実はうちがぶっかけという特許をもっていると大々的に打ち出すブランド戦略を選びました。
――― その戦略は、大会に出場したことと関係があったのでしょうか?
古市:ブランド戦略の中で全国大会に優勝することが全国の人達に一番知らしめる近道だと思い、「うどん日本一決定選手権U-1グランプリ」が東京の代々木ではじめて開催されるということで、私たちは日本1位を目指して2013年からその全国大会に参戦するようになりました。
ぶっかけを全国で使ってもらって、それは自分たちの登録商標なんだということをアピールするためにです。
――― 他店のうどんとぶっかけうどんとは、どのような違いがありますか?
古市:まずはタレ。ぶっかけは、ザルや釜揚げに使うようなタレをかけているということが全ての共通点です。醤油を直接かける、醤油だしをかけるのはぶっかけとはいわない。生醤油うどん、醤油うどんに入ります。
要するにだしでとっている黒いつけダレをかけていることをぶっかけというんです。
のせる具については本当に全国様々です。
――― ふるいちさんではどのような具を入れているのでしょうか。
古市:うちの場合、脂分が全くない商品ですので、最初に“天かす様(と弊社でといってます)”を入れましょうと。天かす様は、天ぷらを揚げたときに弾かれた揚げ玉ではなくて、実際にぶっかけ専用のものを一番だしで風味をつけて作っています。
うどんのタレと麺とが、時間の変化によってどう絡んでくるかということを想定しています。天かす様は2分3分経過しますとタレの中で段々緩んできて、タレの中で粘りを作ってくれる。それが麺にしっかりと絡む。それを食したときに、口の中でのタレと麺をマリアージュするのに一番いい組み合わせなんです。
タレはいかに麺に絡みつかせるかを意識しています。何かが際立っているとかないんですよ。全ての色んな複雑な味をとんがらないように丸くしている。
醤油が立つわけでもなく、甘みが立つわけでもなく、辛味が立つわけでもなく、そして素材のカツオとか様々なたくさんの混合節を使っているんですが、そのひとつひとつが決して勝つわけではない。
麺の方も大きな違いがありまして、讃岐うどんはどちらかというとべっぴんさんと言われまして、表面をきれいにツルツルピカピカに仕上げていきます。
その代わり、出汁はイリコを中心として、出汁の角をたたせて、そのツルツルの麺でも耐え得るバランスにしてある。
うちはツルツルにしません。それは何故かと言うと、天かすの絡みを良くするため。なるべく高い温度でなるべく傷つかせる。どちらかというと茹でた感じは伊勢うどんとか九州の福岡のうどんに似ています。高い温度で表面が少しとろけるぐらいまで茹でるのがうちの作り方ですね。