神奈川県三浦半島にある、まぐろやかじきを中心とする魚の味噌・粕漬け専門店。まぐろを知り尽くした職人の裏技を商品化しました。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社羽床総本店(はゆかそうほんてん) 代表取締役の山本浩司氏に、取材陣が伺いました。
極上まぐろ刺身がひと際上等な味わいに。「天然本まぐろ炙り味噌漬」
2024/09/30
―これまでの歩みをお聞かせください。
山本 初代の羽床伊太郎が横浜の地で商いをはじめたのが1923年です。関東大震災後の焼け野原で米穀店をスタート。昭和に入って三浦・三崎に移り、地元で獲れる魚介類を練り製品などに加工し販売していたようです。
入り婿であった羽床信次が二代目となり、もともと静岡県で水産業に就いていた彼は、おいしい魚を、海のない地域にも届けたいと創意工夫をしました。当時は流通も加工技術も未発達でしたからね。三崎はまぐろの町として有名で、一緒に上がるかじきはほとんど利用されてきませんでした。そこで2代目は、三崎の仲間と一緒に試行錯誤して、かじきを味噌や粕に漬けて食べる方法を生み出しました。商品化したのは1950年だと記録に残っています。
かじきの味噌漬けや粕漬けは、群馬県や栃木県などの北関東や信州に出荷されるようになり、うちの看板商品として、現在まで受け継がれています。
昭和40年代までは卸売が中心でしたが、3代目である羽床亘は、自分の手で作って自分の店で売る小売りのスタイルに特化することを決めました。「食べた方の喜ぶ顔が見たい」という想いからでしょうね。本店、三崎港店をはじめ、鎌倉、逗子、藤沢、横須賀など三浦半島や湘南地域での直営店と通販で販売をしながら現在に至ります。
うちは、贈答品やギフト利用のお客様が非常に多いのが特徴です。時代とともにフォーマルギフトの市場は縮小傾向にある中で、知る人ぞ知る逸品や自分への特別なご褒美のような物として選んでいただけるのがありがたいですね。
良質な素材にひと手間加えさらにおいしくしたまぐろやかじきが自慢。
―社長のご入社は?
山本 私は長く商社に勤めており、3代目の娘である妻と結婚しましたが、2人とも継ぐ予定はありませんでした。しかし3代目が病気をしたのを機に、「任せてもらえませんか」と入社を決めたのです。
実は私は北海道の港町出身で、食に携わる仕事をしたいと常々思っていながら、商社では希望を出しても叶わず、プラント営業などをしていました。そして何より、うちの商品のおいしさに衝撃を受けた1人として、まぐろ漬けの可能性に魅力を感じていました。
白皮かじきやめかじきを粕床や味噌床に適宜漬けて。
―どんなところに衝撃を受けたのですか?
山本 北海道では、魚は基本的に鮮度の良い物を刺身で食べるのがおいしいとされてきました。うちの魚は、刺身で食べられる上質なものを使っていますが、漬け魚。味付けした魚をほとんど食べてこなかった私は、こんなにおいしいんだってびっくりしちゃったんです。これほどおいしいかじきも食べたことがない! と、それは衝撃的で……。
―入社、代表ご就任後に取り組まれたことは?
山本 最初の10年は加工の現場にずっといました。それから、体を壊しながらも現役でいてくれた先代からいろいろ学んだ後の2016年、社長に就任しました。
自分たちの手で作って自分たちの店で売るという先代のスタンスを変えることなく、目の届く範囲で自分たちが食べて本当においしいと思えるものを作っていこうと思っています。新鮮で上質な魚を選び、きちんと作られた調味料を使って、食品添加物を加えることなく、魚によって配合や漬け方を変えながら丁寧に作ることはずっと大切にしたいですね。
その一方で、時代やニーズの変化に合わせることも必要だと考えています。例えば、昔は保存性の観点からかなり塩分が高かったのですが、今は品質が保持できるレベルまで減らしたり、食べる人の嗜好の変化に合わせたり。また、魚離れが進んでいるといわれますが、台所事情も昔と変わっているので、魚料理へのハードルを下げる加工にも挑戦しています。
―商品へのこだわりをお聞かせください。
山本 素材に関して言えば、刺身で食べておいしい良質なもの、産地が明確な魚だけを使います。素材の時点でダメなものは何をしてもダメじゃないかな。まぐろとかじき一筋、三崎でやってきた目利きには自信があります。
合わせる調味料は、それぞれに手間暇かけて作られたものを使っています。例えば、地元神奈川の酒蔵から仕入れる酒粕、京都から取り寄せる甘口の西京味噌や老舗味噌蔵から取り寄せるコクのある赤味噌など。素材に合わせて羽床独自にブレンドするわけですが、各々調味料がしっかりおいしいから、漬け床は引き算の一手です。
こういった発酵調味料に漬け込むことで、魚が持っているたんぱく質がうまみ成分であるアミノ酸に分解が進みます。化学調味料は必要ありませんし、おいしく安全なものを安心して召し上がっていただきたいので、保存料や着色料も一切使いません。
すべて手作業で、素材によって漬け込む時間や塩分量を変えています。作業で最も大切にしているのは、素材の扱いを「早くきれいにていねいに」の徹底でしょうね。
雑味を除き本当においしいところだけを切り分けた、羽床ならではの四角い形。
―「天然本まぐろ炙り味噌漬け」誕生のきっかけは?
山本 もともとまぐろ大トロの味噌漬けが商品にあって、自分たちでいろいろな食べ方を試す中で、さっと炙るとおいしい! と発見し、お客様にお勧めはしていました。先ほどの話に出ましたが、魚料理のハードルを下げるなら、おいしいと思う食べ方をもう1段階こちらで済ませてしまおうと……。さらには柵でなくスライスまでしたらより食べやすくなるのではないかということで完成しました。
アイルランド沖で獲れる天然本マグロを使用。水分が少なくねっとりとした身で、さっぱりとした脂が持ち味です。良質ながら漁獲量が少なく希少で、高級料亭や有名すし店向けにしか出回りません。その「背トロ」という部位を味噌床に漬け、最後に味噌を除いて直火で炙っています。熟成されたまぐろの旨味、香ばしい味噌の香りがバランス良く仕上がっていると思います。
ねっとりとした赤身はうまみが強く、脂身の赤身は甘い。
味噌の風味と炙った香ばしさはまぐろの味わいを邪魔せず絶妙に引き立てる。
添付の「沢わさび」も抜群に香りが良く、まぐろと好相性。
―おすすめの食べ方やシーンは?
山本 冷凍でお届けしますので、袋のまま水に漬けて流水で約10分解凍するだけと気軽です。炊きたての白いごはんや酢飯に乗せてどうぞ。大葉や白ごま、柚子胡椒も合うと思います。
流水に約10分で食べごろに。
お酒を合わせるならぜひ日本酒で。
結構なお値段を頂戴するので、毎日の食卓にとはいかないと思いますが、たまの贅沢や、ちょっとおいしいお刺身が食べたいときなどに、お値段以上の喜びを届けられるのではないでしょうか。大切な方にちょっとこだわりの品を贈りたいときにも、思い出していただけたらありがたいですね。
化粧箱に入って贈り物にも最適。
―2023年、創業から100周年ですね。今後の展望をお聞かせください。
山本 魚離れが叫ばれてはいますが、魚を食べたい、家族に食べさせたい人が減っているわけではなく、提供側の課題だと感じています。魚は白いごはんや酒の肴のイメージが強いかもしれませんが、うちの商品はパンにはさんで食べてもおいしいなんて言っていただくんですよ。国産大あじ&海鮮フライセットもとても人気。フライも電子レンジで温めるだけの手軽な商品で、これからも調理のハードルを下げる商品開発を続けていきたいと思います。
実は、私の故郷である北海道・日高のなじみの網元さんからも魚を仕入れるようになりました。キングサーモンや秋鮭、また、気候変動の影響か、これまで見なかった鰤が上がったりしているので、そういう北海道の良い魚を、羽床らしく加工して商品化します。
その根底には、漁業をはじめとする1次産業の方々が無理なく存続するために、6次産業的な役割を担っていければ、という思いがあります。商品価値を上げて、お客様にはおいしさを届け、仕入れ値を上げることで生産者さんの役にも立てる、そんな循環を作るべく、次の100年に向かいたいと思います。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「天然本まぐろ炙り味噌漬」
価格:¥2,700(税込)
店名:羽床総本店オンラインショップ
電話:046-882-2337(9:00-17:00平日・土曜日)
※休業日や営業時間ございましたらご教示ください。
定休日:日曜日
インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://hayuka.co.jp/i/yg2110
オンラインショップ:https://hayuka.co.jp/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
山本浩司(株式会社羽床総本店 代表取締役)
1972年生まれ。昆布漁やシャケ漁が盛んな北海道新ひだか町出身。高校進学で地元を離れ、大学で上京し卒業後は創業から400年以上続く老舗商社に勤務。10年の商社勤務を経て、羽床総本店へ。工場での商品作りや百貨店などへの営業に従事。創業以来の味噌漬け作りで培った、『素材を大切にする商品作り』をいかした魚惣菜作りや、地元の農家さんや高校生とのコラボ商品など、魚にこだわらず地域に根差した商品作りに取り組んでいる。
<文・撮影/植松由紀子 MC/橋本小波 画像協力/羽床総本店>