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京都生まれのパイオニア「皮がすごい」どら焼き

2024/06/21

京都と言えば、日本屈指の和菓子処。街を歩けば老舗の定番からトレンドを押さえた商品まで、さまざまな和菓子に出合えます。今回、編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、その京都で「どら焼き」などの和菓子を製造し、全国各地の催事などで販売、好評を得ている「菓匠鈴屋将経(かしょうすずやまさみち)」。少し変わったスタイルの会社だということで、その概要を、代表取締役社長の千葉敏秋氏に伺いました。

株式会社菓匠鈴屋将経 代表取締役社長 千葉敏秋氏。
株式会社菓匠鈴屋将経 代表取締役社長の千葉敏秋氏。

―社長がメディアでお話をされるのは初めてだとか。

千葉 弊社はもともと、和菓子店様などの包装資材を扱う会社です。お客様とともに、どんな包装資材であれば商品が動くかを考え、商品が売れるとそれが自分たちの評価でもある、そんな裏方仕事をしてきました。和菓子の製造を始めても、できるだけ目立たず、と考えてきましたが、遠慮をしすぎて、せっかく自信を持って作っている自社商品のことを知っていただけないのも…と思い(笑)、今回、お話させていただくことにしました。

―包装資材会社でありながら、和菓子を製造・販売されるようになったのは?

千葉 弊社は2008年に、包装資材の会社として創業しました。創業者は父で、主に和菓子店様の貼箱(はりばこ)を製造していたのですが、父が起業後1年ほどで亡くなり、母がそのあとを継ぎました。本来ならば、私が継ぐものなのでしょうが、当時30歳。京都という土地柄、自分が社長になるにはまだ力不足だと思いました。

ちょうどその頃、日本で初めての鳥インフルエンザが出て、「人にも感染するのでは?」という噂から、人々が動かなくなり、京都の観光客も激減した時期がありました。お土産も売れないので当然資材も売れません。売り上げは10分の1になり、会社自体の存続が危ぶまれるほどでした。

私はずっと営業畑にいたので、今こそ営業が必要だと思い、とにかく動いて新規顧客を獲得し、状況を安定させることができました。ただ、その頃お客様の元を訪ねると、販売スタッフさんの代わりに職人さんや社長様が店頭に立たれているお店が増え、聞けば、景気が悪くて人を雇えないと。そんな状況を目の当たりにして、自分たちも現状のままではいけない、何か新しいことを始めなければと、自らお客様に商品を提供する商売を始めました。

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有名菓子店の貼箱を数々手掛けてきた同社。

―そして、「菓匠鈴屋将経」が生まれたのですね。

千葉 そうですね、まずは2014年に、弊社の1事業部として立ち上げました。ただ京都で和菓子の製造を始めても、お客様に受け入れてもらえるのだろうかという心配はありました。包装資材をやる会社が菓子屋もやるとなると、お取引先もよい顔をしません。そこで、お取引先とは全く違う方向性で事業を行おうと決め、社運をかけて大型の工場を建てて和菓子の製造を始めました。

―和菓子にしたのはなぜですか?

千葉 包装資材屋という仕事柄、毎日どこかしらの和菓子を食べる機会がありました。正直に言うと私は甘いものが苦手なのですが(笑)。だからこそ感じたのは、「どのお菓子も甘い」ということ。安全性の担保のために砂糖や甘味料を加える必要があることはわかるのですが、とにかく甘い。そこで私は、飲み物がなくてもまるまる食べられるような和菓子を作りたいと考えたのです。

日本で幅広く愛されていて、かつ機械化できる和菓子を考えると、どら焼きと羊羹くらいしかありません。それでメイン商品をどら焼きとし、さらに“皮”にこだわったものを製造することにしました。

―なぜ“皮”なのでしょうか?

千葉 「あんこがおいしい」とうたう和菓子は多いのですが、「皮がおいしい」とうたう和菓子は見たことがなかったからです。ケーキもスポンジがおいしいと評判になりますよね。それで皮にこだわることにしました。

そして、あんこの甘さに合った皮を作る、皮を食べてもらうためにあんこを選ぶ、という弊社ならではのスタイルが生まれました。ちなみに現在、弊社で販売している7種類のどら焼きの皮は、全てレシピが違います。

今では、皮づくりに関しては、和菓子界の“パイオニア”であると自負しておりまして、和菓子屋さんなどに皮だけの販売を行うまでになりました。皮の販売に合わせてレシピの考案・提供も行なっており、最近よく目にすると思われる、中に生クリームがたっぷり入った高さのあるどら焼きも、実は弊社からお客様にご提案させていただいたものなのですよ。

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袋から取り出すと、見るからにしっとり・もっちりとしたどら焼きの皮。
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HPではどら焼きを1種ずつ選び、好みのセットを作ることも可能。ぜひ食べ比べを!

―今回はそんな自慢のどら焼きから、「栗どらやき」をご紹介いただきました。

千葉 和菓子事業を初めた当初、どら焼きは和三盆と抹茶の2種類だったのですが、もう1種類くらいあった方が販売しやすいだろうということで、栗どら焼きを作りました。最初は栗あんを和三盆どら焼きの皮で挟んでみたのですが、甘すぎて非常にバランスが悪く、こちらは皮の砂糖を必要最小限にしてみました。すると、お客さまが求める自然な甘さの栗どら焼きが誕生し、今では弊社のどら焼きの中で一番人気となっています。

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一番人気の「京菓 栗どら焼き」。なんと1つ160円。

―あんこはどうなさっているのですか?

千葉 あんこは自社で作らず、他社で作っていただいたものを仕入れています。あんこの製造は水の処理など工場の管理が大変ですし、専門のところにお願いしたほうが品質も保てると考えました。弊社オリジナルのあんこが作れないというところだけは残念なのですが、あんことバランスのよいオリジナルの皮を作ることで、唯一無二のどら焼きを生むことができています。

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あんこにベストマッチの皮を作り、「トータルでおいしい」どら焼きに。

―皮へのこだわりに加え、御社のどら焼きにはどんな魅力があるとお考えですか?

千葉 弊社の商品は、催事などで販売するほか、スーパー様などでも取り扱っていただいています。売り場では、例えば100円のものが主体だったとして、うちは120円と、20円価格は上がりますが、その分大きな満足を感じていただける商品づくりを行なっています。小麦粉は三重県産の「伊勢のしおり」、卵は採れて3日以内のものしか使いません。このご時世、1円2円を吟味されてお買い物をされることが多いと思いますが、そのなかでも、「今日はよい日だったから、20円分贅沢して、鈴屋の商品を食べよう」と思っていただける商品のご提供を心がけています。

私が包装資材の仕事で訪ねたお客様ですが、鈴屋の名前が入った名刺を見て、「鈴屋の方なの?僕はよいことがあったら、あなたのところの和菓子を食べているよ」と言われたことがあり、非常に嬉しかったですね。「もっとおいしい商品を作ろう」と、モチベーションが大変上がりました。

―販売・開発をするなかでご苦労は?

千葉 弊社のどら焼きはしっとりとした食感が魅力で、皮の水分量が多め。そうすると、カビなどの心配が出てきます。防カビには一般的には様々な添加物を加える傾向にありますが、私はできるだけ添加物を加えたくないと考えており、現状、皮に使っているのは最低限の膨張剤のみです。それでなぜ、防カビが叶うのかというと、製造をできる限りオートメーション化して商品に極力触らないようにし、衛生面や加熱時間などに関しても細かな調整を行なうなど、日々努力をしているからです。他の業者様からも、驚かれています。

―現在は洋菓子も製造されているとか。

千葉 数年前から洋菓子のOEMを始めたのですが、弊社の専務がフードコーディネーターの経験を持っており、彼女の地元・鳥取の青果市場から取り寄せた、規格外の果物で作った洋菓子が好評をいただいています。さらに、鳥取でサツマイモの栽培を行っている会社様と一緒に新たなブランドを作り、干し芋やスイートポテト、ケーキなどの製造販売も行なっています。

―今後の展望について教えてください。

千葉 私個人としては、育ててもらった京都に恩返しができたらと思っています。私は宮城県の石巻市で生まれ育ち、縁あって京都に移って来たのですが、何者でもない自分を一から育てていただいた土地なので、京都という街には感謝しかありません。

会社としては、これから海外に目を向けていきたいですね。弊社にはベトナム人のスタッフがいますが、例えばベトナムで一緒に菓子を作るなど、これからの10年は力を注いでいきたいと思います。さらに近年、支援や福祉といった分野にも非常に興味があり、支援施設などの運営も考え始めています。誰もが安心して働ける環境づくりのお手伝いができたらと。

包装資材業界は基本的に裏方の仕事で、若い方には魅力を感じにくい業界かもしれません。でも、弊社のように新しい分野を掛け合わせながらチャレンジし、成長している会社があることをもっと知っていただけたら嬉しいですね。

―そうした構想を叶えるために必要なことはどんなことでしょうか?

千葉 人と直接会うことでしょうか。コロナ禍以降、インターネット上でできることが増え、便利にはなったかもしれませんが、弊社のような零細企業にはやはり人と人のつながりが欠かせません。あっちこっち行くとお金はかかりますが、足を運ぶことで信用を得られるという大きなメリットがあります。たとえ、訪ねる理由がトラブルのお詫びであったとしても、それは自分にとって励みになることであり、チャンスだと思っています。これからもいろんな方にお会いして刺激をいただき、さらにパワーアップしていきたいと思います。

―4月には、この季節だけの「桜どら焼き」が登場して好評だった「菓匠鈴屋将経」。他に季節商品を作るご予定は?と伺うと、「もっと手がけてみたいのですが、時間に追われてなかなか」と、笑顔で応えてくださった千葉社長。まずは、レシピが異なる定番7種類を味わい、こだわりの皮を堪能させていただきます。お話をありがとうございました!

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桜の季節だけの限定商品「桜どら焼き」。
「京菓 栗どら焼き」

「京菓 栗どら焼き」
価格:¥160(税込)
店名:菓匠鈴屋将経 公式オンラインストア
電話:075-315-0448(9:00~18:00)
定休日:土曜・日曜・祝日、インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://suzuyamasamichi.easy-myshop.jp/c-item-detail?ic=A000000002
オンラインショップ:https://suzuyamasamichi.easy-myshop.jp

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
千葉敏秋(株式会社菓匠鈴屋将経 代表取締役)

1976年8月26日生まれ。平成28年に鈴屋将経を創立。素材にこだわった商品作りを行なっている。

<文・撮影/鹿田吏子 MC/木村彩織 画像協力/菓匠鈴屋将経>

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