初めて「魚庵さんの「棒寿司」を食べてみませんか?」と言われたときは、実はさほど興味が沸かなかった。関東の人間にとって、寿司と言えば握りだし、どうしても関西のあの箱寿司のイメージが強かったこともある。
ところが、もう食べてビックリ。竹皮で包まれた棒寿司たちの美味いことと言ったら!
これはお話を聞かねばと、魚庵さんの「番頭」(名刺にもそう書いてある)、赤堀さんとお会いすることに。
絶品棒寿司「魚庵」スペシャル対談企画
大木 あんまり美味しかったので、その秘密をお聞きしたく思っいてました。看板商品は泳ぎ鯖と金華鯖の棒寿司ですが、鯖は回遊魚で“サバの生き腐れ”といわれるくらい、鮮度が命。すぐに手当てしないと臭みが出てしまいますよね。
赤堀 そうなんです。ですから魚庵では店に生け簀を作っていて、生きた状態で仕入れます。そこで1日くらい泳がせてから神経締めにするんです。
大木 なるほど。だから臭みを感じないんですね。
赤堀 はい。鯖の旨味を最高の状態で出したいので、こだわりました。
大木 泳ぎ鯖は、引き締まった身から旨味がじんわりと口中に広がりますよね。反対に金華鯖の脂の乗りっぷりは凄まじい。
赤堀 金華鯖は回遊せずに、三陸沖で豊富なプランクトンを食べて育っているので、とにかく脂が乗っています。日本全国の鯖の脂肪分を測っていくと、恐らく金華鯖が最高ではないでしょうか。脂の率が30%を超えているんです。
大木 こちらは食べた瞬間に、脂の旨味で頬が緩みますものね。でもこの旨味を出すための熟成のさせ方は難しいでしょう。
赤堀 熟成は本当にこだわって研究を重ねました。一番大事なのは塩なので、30種くらいを比べて、最終的に淡路島の藻塩を使っています。この藻塩をつけて1~2時間置いて、さらに酢をして、その後に1日寝かせます。
大木 魚は個体によって、塩の入り方、時間も違いますから、まさに職人の腕ですね。
赤堀 ええ、いい料理長が目を光らせてます(笑)
大木 頼もしい(笑)。酢飯もいわゆる箱寿司のイメージよりも柔らかい。古米ですか?
赤堀 はい、国産の古米のブレンドです。
大木 誤解されている人も多いですが、酢飯には新米より古米のほうがいいんですよね。
赤堀 そうなんです。古米のほうが酢の吸収がいいですし、新米は粘りが出すぎてしまうんです。当初は従来の押し寿司と硬さが違うので、ふんわりした食感を出すまでには、職人さんも苦労していました。
大木 家で食べるということを考えると、この柔らかさが一番美味しいですからね。
赤堀 みなさんが口に入れた瞬間に、魚本来の旨味をいかに最高の状態で出せるか、それだけを考えています。ですから酢飯も魚の脂と混じり合ったときに一体感が出るように、甘めにしています。
大木 だから甘い白板昆布も上にかぶせるんですね。
赤堀 はい。素材のインパクトを出すために両側を甘めな素材にして挟んでいるんです。
大木 なるほど、それで旨味をより感じると。
赤堀 ネタの旨味がしっかり舌で感じられると思います。
大木 そういうことなんですね。魚庵さんでは穴子と海老の棒寿司もあります。人気でしょう? いかにも子どもさんが好きそうですから(笑)。
赤堀 実はそうなんです(笑)。穴子は売れ行もとてもいいです。どうしても泥臭くなりがちですが、私どもが扱っている穴子は深海に生息していて、臭みが少ない上に一年中脂が乗っています。泥臭いと煮ツメでごまかさなくてはならないのですが、その必要が無い。醤油とざらめ、酒でさっと炊いただけです。味付けによけいなものは一切使っていません。
大木 それは安心です。酢飯には椎茸をまぶしてありますね。
赤堀 はい。炒っているんですが、これも甘味を出すためで、いわば煮ツメの代わりですね。
大木 そしてまた海老が肉厚で!
赤堀 ありがとうございます。食感にこだわりました。そのためには大きな海老が必要で、海外で採れる天然の大型海老「シ―タイガー」という、1尾40センチくらいある海老を2尾使っています。
大木 すごい。私も小さい頃は海老のお寿司が大好きでしたが、これは喜ばれそうです。
赤堀 お子さんは大木さん同様、海老好きが多いので、せっかくなのでがっちり食べてほしいとがんばりました(笑)。
大木 (笑)。それにしっかり旨味が残っていますね。旨味成分が逃げないように、ボイルするときに塩を入れてるんですね。
赤堀 ええ。さらにそのあとに酢でさっと洗っています。酢洗いというのですが、これをやるのとやらないのでは旨味の出方がまるで違うんです。
大木 家庭でも応用できそうなテクニックですね。やってみよう。海老は酢飯に塩昆布と海苔をかませていて、これがまた旨味を呼びますね。
赤堀 お腹に余裕があれば、お茶漬けもぜひお召し上がりください。
大木 そうだ! 〆のお茶漬けがありましたね。
赤堀 もともとは余った棒寿司を捨てるのは忍びないね、とスタッフと話していたら料理長が出汁汁を作ってくれて、それでお茶漬けにしたらとて美味しかったんです。料理長はまかないだから商品にしたくないと言ったのですが、私が勝手に(笑)。
大木 まかないからヒット商品が生まれるって、まさに「飲食店あるある」ですね。
赤堀 料理長はいまだに納得していませんが。
大木 わはは! こんなに美味しいのに。酢飯と出汁と魚の旨味がどんどん重なって、抜群です。
赤堀 わさびはもちろんですが、いろいろなトッピングをしても楽しめますよ。
赤堀 実は今日、別の商品も食べていただきたくてお持ちしました。
大木 嬉しいです。なんでも食べます(笑)。
赤堀 よかった(笑)。ほたてとサーモンの燻製なんですが。
大木 おお。ではさっそく。あ、美味い! 変な雑味が一切ないし厚みもある。このほのかな甘みは……。
赤堀 わかりましたか。玉ネギの粉なんです。塩をした後に玉ネギの粉を振ってまた熟成をかけてまして、それがアクセントになっています。
大木 ほう!
赤堀 こちらも水分と熟成のバランスを重要視している商品です。3~4日かけて仕上げるのですが、水分の飛ばし方、冷蔵庫で寝かせる時間などの調節がとても難しいんです。
大木 これはお酒に合いそうですね。
赤堀 白ワイン、日本酒などは特に合うと思います。
大木 親子連れのパーティにもいいですね。子どもたちは棒寿司、親はお酒とサーモンとホタテで。どうしても唐揚げとか肉類になってしまいがちですが、魚で特別な場を演出すると、よりゴージャス感も出そうです。
赤堀 そうですね。本当に少しでも多くの人に魚の美味しさを味わっていただきたいです。魚庵の商品は配達日を指定できますので、一番美味しいときに召し上がっていただけます。そして大木さん、からすみもいかがですか? 料理人の方に使っていただきたくて新たに作ったものです。
大木 また立派なからすみですねえ。うわっ、とてもしっとりしています。普通のからすみは美味しいんですが、歯の裏に付くのが難点で。でも全くそんなことが無いですね!
赤堀 そうなんです。皆さん天日干しにして作るので、どうしてもパサつきが出てしまうんですよ。うちでは特別な乾燥機がある工場さんにお願いしていて、そこで干すと中がしっとりするんです。
大木 それは便利な。
赤堀 いえいえ。ただ乾燥機に入れておくだけじゃないんです。お塩で3日、熟成させて3日、そこから毎日、日本酒を塗ってはひっくり返すという作業を20日以上。合計で約1か月かかります。これだけこだわっているからすみって本当にないんじゃないかと思います。ぜひ料理人の方々に味わってもらって、違いを実感してほしいですね。
大木 それは凄い。今、意欲のある料理人さんはいい素材をどん欲に探していますから、喜ばれると思いますよ。
赤堀 そうだといいのですが。
大木 ご興味をお持ちになった料理人の方は魚庵さんへご一報を(笑)。今日は美味しかったのはもちろんですが、改めて「熟成」の奥の深さを教えていただきました。
赤堀 いえいえ。私は大学で化学を勉強していたこともあり、昔ながらの手法と科学を融合させて旨味を追求することが楽しくて仕方ないんです。
大木 そうでしたか。数年前から、世の中は熟成ブームでなんでも熟成をかければいい的な流れもありますよね。
赤堀 とはいえ、その個体自体が美味しくなければ、いくら熟成をしてもやはり美味しくないんですよ。ですから、まず、いい魚をきちんと仕入れて、それを添加物などを使用せず、美味しく仕上げて世の中に広められたら、そう思います。
大木 それはまさに、今の世界的な潮流でもありますね。これからも楽しみです。
赤堀 これからと言えば、新商品も開発中なんです。私が今まで食べた中で美味しかった魚だけを集めた「究極の棒寿司」を作れないかと考えています。
大木 えー! 完成したら一番に駆けつけます!
赤堀 ぜひ(笑)!