大島屋

第10回 「大島屋」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

首都圏随一のパワースポットにて、雲海を見下ろしながら蕎麦を味わう。

三峯神社

埼玉県秩父の三峯神社は、大変なパワースポットして有名だそうだ。
ぼくは元々、そういった『力』を感じる能力がなく、したがって興味も感じなかったが、以前ハワイのパワースポットを紹介され出向いたところ、あまりにも強い『力』と『音』に感激。確かにパワースポットって存在するんだと認識し、がぜん関心が高くなっていた。

三峯神社がある三峰山とは、奥秩父にそびえる妙法が岳、白岩山、雲取山の三山の総称で、三峯神社は妙法が岳にある。昔はロープウェイも完備されていたが老朽化で廃止となり、クルマか路線バスでしか行くことができない。
今回は、その三峯神社門前に店を構える「大島屋」を訪ねることになった。
本来なら食い気だけのぼくである。でもそんな著名なパワースポットなら神社への参拝も少なからず興味をそそられた。
向かった日はあいにくの雨。ところが雨のせいで改めてその魅力をクリアに知ることになろうとは予想だにしなかった。

西武秩父駅からバスに乗ると、雨の平日にもかかわらず女性の一人旅姿がちらほら見受ける。さすがじわじわと知れ渡った霊峰。こんなブームを迎えるなら、もう少しロープウェイも頑張っていればと残念だ。
1時間半の山岳ドライブを経て、バスは上へ上へと登っていく。
道中はかなりの土砂降りだったものの、終点に降り立つと雨も小康状態でこのまま治まりそうな雰囲気。雨上がりのもやっと感、霊気が混じるような湿気がまた、体に心地よい。

バスを降りて三峯神社に向かい始めると晴れ間さえ見えてきた。さらに不思議な感覚があたりに立ち込めるのは気のせいだろうか。目指す「大島屋」は、まさに門前。自家用車は入れないエリアだが、一見すると大きなドライブインの風情。この神社を訪れる参拝者のパワーを補給するためのオアシスがここにある。

大島屋外観

「大島屋」の入口は、地元の名産などを売るお土産店も兼ねる。ラベルも貼っていないオリジナルの味噌を置いていた。あくまで食堂がメインとの矜持がそこに垣間見えるのは嬉しい。
食堂は食券制である。食べたいものを伝えお金を払うと食券を渡される。今はもうないと思うが、子供のころ楽しみだった百貨店の大食堂を思い出していた。
ダイニングのスペースはかなり広く、大きな窓からは三峰連峰を望むパノラマが広がる。宴会場のような広間も用意されていて、参拝に訪れる団体客に対応するそうだ。

今でこそ、三峯神社がパワースポットとして再び脚光を浴びるようになり、門前食堂の賑わいを復活させている。しかし、百年を超える長い歴史の中では、神社を参拝する団体が後を絶たない時期もあり、神社内に合宿して越年する著名武道家もいたそうだ。店を切り盛りする五代目は、子供のころ神社を出て「大島屋」に食事に来た著名武道家から渡される高額のお年玉が、とても待ち遠しかったという。

まず、おつまみとして供されたのが、こんにゃくの田楽。これに先ほどお土産コーナーで見つけた自家製味噌をたっぷりと付ける。地元で作られたこんにゃくとの説明があり、ふだん口にするよりもみずみずしく特有の臭みも少なく、より穀物感が増して食べやすい。さらに自家製味噌の角の取れた丸い味わいがこんにゃくとよく絡む。

大島屋の蕎麦

メインは蕎麦である。手打ちと聞いてどのぐらいのクオリティだろうかと思ったが、素朴で歯ごたえよく蕎麦の香りも十分、実においしい。くるみをひいてダシと合わせ、それをつけ汁にするのが名物。表面はゴマだれのように白いが、まったく別物。ダシの個性を壊すことなくあっさり仕上げつつも、アクセントとしての役割を見事に果たす。蕎麦湯を回してつゆをいただくとポタージュスープの味がした。

大島屋の主人と

「大島屋」の蕎麦がうまいのは、丁寧な仕込みも当然だが、この場所において水が悪かろうはずがない。今も現役の四代目は、自分たちの場所から流れる水が、やがては東京に供給される川へとつながっていおり、水を大切に扱うことへの高い使命感が「大島屋」継承のモチベーションとなっているんですと、話してくださった。

旅は、できるだけ晴天の方がいい。でも、三峯神社は雨でもいいかなと感じた。たくさんの霊気はもちろん、「大島屋」から眼下に広がる素晴らしい雲海を堪能することができたからだ。

三峰山雲海

SHOP INFORMATION

▶ 店名 大島屋
▶ 住所 埼玉県秩父市三峰297-2
▶ 営業時間 10:00~16:00
▶ 定休日 不定休
▶ TEL 0494-55-0039

※食随筆家 伊藤章良さんが出演している、BSフジ「ニッポン百年食堂」は2017年7月1日より再放送開始
http://www.bsfuji.tv/100nen/

伊藤 章良

食随筆家

料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。その普遍的な内容から、シリーズ一作目が「東京巷蔵好店」として中国語に翻訳され中華圏でも販売。
2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

食随筆家 伊藤章良のニッポン食堂遺産新着記事

おすすめ記事