商品

徳川家康の種がルーツ!?"唐辛子の聖地"の歴史とこだわりが詰まった「鉄釜七味」&「燻製一味」

2024/09/30

今回、アッキーこと坂口明子編集長が注目したのは、ピリリと辛い赤唐辛子。料理に独特の辛みと香りをつけるために欠かせないスパイスで、乾燥して粉状にしたものを常備して愛用している方も多いのではないでしょうか。
和食をはじめ、中華やエスニック、南米、ヨーロッパ…と、世界中の料理で重宝されている唐辛子ですが、日本では北関東栃木県の大田原市が、国産唐辛子の生産量ナンバー1なのだそう。
およそ100年前に創業し、"唐辛子の聖地"とも言われるこの地で生産から加工・販売まで手がける唐辛子専門会社・吉岡食品工業株式会社の代表取締役 吉岡博美氏に、スタッフが取材。唐辛子博士さながらに熱く語ってくださった唐辛子ヒストリーには、知られざる唐辛子生産の盛衰・復活の物語がありました。

吉岡博美社長
吉岡食品工業株式会社 代表取締役 吉岡博美氏

―激辛の赤唐辛子と言えば、中国や韓国のイメージが強いですが…。

吉岡 原産は中南米です。古くはコロンブスが大陸を発見した際に、コショウの代用としてスペインに持ち帰り、世界中に広まったと言われています。日本にも南蛮船による鉄砲伝来と同時期に持ち込まれました。16世紀…安土桃山時代のことで、当時は薬として使われていたそうです。

その他
鷹の爪やハバネロなどの品種が知られる赤唐辛子。
特有の刺激的な辛さに世界中の人がやみつきに!

―戦国時代、日本人は唐辛子を薬として使っていたんですね!

吉岡 唐辛子に含まれるカプサイシンという成分が体を温めたり、独特の辛味で食欲増進効果があるため、風邪をひいたときなどに重用されていたようです。
諸説ありますが、豊臣秀吉の朝鮮出兵によって、朝鮮半島に唐辛子を持ち込んだのは日本人だった、という言い伝えもあるらしいです。今ではキムチづくりなどに欠かせない食材として、韓国で大量に消費されていますけどね。

―貴社で扱うようになったのは、いつ頃ですか?

吉岡 戦国時代からわが社の創業まではまだ年月がかかりますので、もう少しだけ唐辛子の歴史についてお話しさせてください(笑)。
江戸時代に入り、幕府の創始者・徳川家康が晩年、自分で煎じて飲むほど漢方薬にはまっていた、というのは有名な話ですが、それが高じて旗本の内藤藩に命じ、当時の新宿内藤町という宿場町に薬草園をつくらせました。今の新宿御苑あたりの広大な土地だったそうです。そこの畑で唐辛子も育てていたのですが、当時そば食が流行していた江戸の町で薬味として人気を博し、内藤唐辛子と呼ばれるようになったのです。それをもとに七味唐辛子をつくり、無病息災の妙薬として商売を成功する店が出るなどして、一大ブランドになりました。

商品
収穫された生の唐辛子を乾燥させ保存性を高めるのが、
日本でのオーソドックスな提供方法。

―あの家康が、新宿に!まったく知りませんでした。

吉岡 江戸の町の繁栄と共に新宿の畑は消滅してしまいましたが、唐辛子畑は甲州街道や青梅街道に沿って、江戸の西方に移動。近郊の農家がこぞって内藤唐辛子を栽培するようになっていきます。現在の小金井市など西東京方面には、川が流れ、水車が多く、そばを育ててそば粉を挽くなどしていたこともあり、同じようにして唐辛子を加工できるインフラが整っていたといいます。農家にそばと唐辛子をつくらせ、新宿に持ち込んで、商人が商売をしていたのでしょうね。
さて。お待たせいたしました!わが社の創業者・私の祖父にあたる吉岡源四郎は、20歳くらいのときに、東京・小金井で前身となる商いをスタートさせました。1915年頃のことです。

―小金井! なるほど。いよいよ貴社の唐辛子ヒストリーの始まりですね!

吉岡 もともと親戚筋に唐辛子屋があり、新宿の内藤唐辛子との繋がりなども仕込まれていましたが、じつは最初から唐辛子だけの商売だったわけではなかったようです。1923年(大正12年)には、新宿に進出して緑屋商店(現・吉岡食品工業株式会社)を創立しますが、その年に関東大震災が起こり、東京は大混乱。炭や薪などの必要な物資を調達することで商売を成立させていました。ただ、そんななかにあっても祖父の唐辛子づくりへの情熱は絶えることなく、近郊の農家との契約栽培を通じて、質の良い唐辛子を細々とつくり続け、社会が安定するのをじっと待っている状態でした。

―大田原へはいつ移転されたのですか?

吉岡 1941年(昭和16年)、東京周辺の畑ではもう量がまかなえなくなり、ずっと引き継いできた種を持って、栃木県にある大田原へ移転しました。1941年といえば太平洋戦争が始まった年ですよね。世の中が不安定なのになぜ?と思われるかもしれません。でもじつは1935年(昭和10年)頃、日本の唐辛子にとっての革命的なブームが起こるんです。それは、カレーライスの流行です。カレーは明治時代に普及し始めたのですが、当時はまだ外食するもので、一般の家庭で食べるようになったのは昭和初期から。新宿の有名店がブームの火付け役でした。
カレー粉の原料として赤唐辛子の供給が大量に必要となり、注文が舞い込みました。国産で安くできるスパイスの一つとしてカレーメーカーに納めつつ、自社でカレー粉もつくっていたので、ブームに乗るためにはもっと広大な土地に行くしかない、と大田原行きを決断したのです。

商品
カレー粉缶の裏を見ると、たくさんの香辛料が並ぶ原材料のなかに、赤唐辛子が。

―なぜ大田原だったのでしょうか。

吉岡 大田原は那須野が原と呼ばれる広大な扇状地の中にあります。川がたくさん流れる丘陵地帯で畑作に適していて、どこか小金井の土地にも似通っていました。この土地の農家と契約し、東京から持ち込んだ種を使って大規模な唐辛子栽培を行いつつ、一丸となって品種改良にいそしみました。もちろん、戦争が始まってしまうと世の中はまた唐辛子どころではなくなります。麦やイモに切り替え、それでもめげずに並行して唐辛子づくりを続けました。必ずまた売れるときがくる、と信じていたのだと思います。唐辛子は天日乾燥すれば、2~3年間は保存が効く、というのも大きかったですね。

―社長ご自身は、大田原のご出身ですか?

吉岡 はい。1949年の生まれですから、大田原に移転していました。広大な唐辛子畑と加工工場の景色を見て育ったわけですが、この1949年という年は、朝鮮戦争が始まった年。ここもまた唐辛子栽培における一つのターニングポイントとなるタイミングなのです。

―また戦争ですか…。

吉岡 今度は戦争特需です。朝鮮半島での戦争は、韓国で食文化に欠かせない赤唐辛子の深刻な不足を引き起こしました。韓国が頼ったのはアメリカです。遠く離れた本国よりも、近くの日本から輸入すべく、GHQが戦後間もない日本で探して白羽の矢が立ったのが、大田原でした。GHQはドルで支払いますから、ドルを稼ぎたい日本は、国策として栃木県全体で唐辛子づくりを推奨するようになりました。当時、日本の貿易輸出品の生糸や日本茶などに次ぐ5位以内くらいに唐辛子がランクインしていたのです。

―国の産業を支える勢いですね!

吉岡 辛くて香りのよい国産唐辛子は他国からも好評で、輸出量はどんどん増えていきました。最盛期は栃木県だけで年間5,000~7,000トン、そのうち大田原産は1,000トンくらいを占めていたそうです。国内消費量が2,000トンの時代ですから、輸出産品として国の産業を支えた歴史を物語る数字だと思います。

その他
1962年頃の大田原の唐辛子畑の様子。一面、真っ赤なじゅうたんを敷き詰めたよう!

―それで大田原が"唐辛子の聖地"と呼ばれるようになったのですね。

吉岡 他に類を見ない聖地として、たくさんの人々がこの大田原を訪れ、唐辛子産業に関わっていきました。海外のリクエストに応えたり、お客様の好みに合わせた品種改良もさかんに行われ、わが社では「栃木三鷹(とちぎさんたか)」と呼ばれる優秀な品種を開発しました。

―「栃木三鷹」の特徴を教えてください。

吉岡 正式には「栃木改良三鷹」といって、初代の源四郎が内藤唐辛子などの八房(やつふさ)系の唐辛子をかけ合わせ、改良を重ねて1955年につくりあげた品種です。キレのある辛味と芳醇なうま味、食欲をそそる香りが特徴で、栽培や流通においても非常に優れた大田原発祥の優良品種として知られています。深い深紅の美しい色調は、粉製品に加工し輸送しても鮮やかさをキープ。海外でも人気を博し、「栃木三鷹」は貿易輸出品として日本の高度経済成長の一翼を担うこととなるのです。

―今回ご紹介いただく2品は、どちらもこの「栃木三鷹」使用ですね。

吉岡 はい。鉄釜シリーズから、人気の「鉄釜七味」と新製品の「燻製一味」をご紹介します。この鉄釜シリーズは、契約農家さんが丹精込めて栽培、収穫した栃木三鷹を、わが社で粉砕し、独自の巨大鉄釜で高温焙煎したものです。粉にした唐辛子を、鉄の釜を使い直火で炒りつける、祖父が小金井時代に開発した独自の手法にこだわることで、芳醇な焙煎香が立ちのぼる独特の風味が生まれます。

商品
焙煎の度合いを変えることで同じ栃木三鷹でも個性が生まれ、
アイテムに広がりができるのだとか

―「鉄釜七味」には、他にどんなスパイスが使われているのですか?

吉岡 栃木三鷹と相性の良い陳皮(ちんぴ)や山椒、黒ごま、金ごま、青のりなどで、すべて国産にこだわった原材料を使用しています。食欲をそそる奥行きのある辛味とうま味は、うどんやラーメンはもちろん、ピザやパスタとも合う七味唐辛子として評判です。

商品
1袋ストックしておくだけで、
いつもの料理に深みのある辛味と香りをプラスできる「鉄釜七味」。

―おすすめの食べ方を教えてください。

吉岡 江戸時代の庶民にならい、ぜひ冷たいざるそばの薬味として使ってみてください。おそばに山葵をのせて食べるように、「鉄釜七味」を麺そのものに直接ふりかけてつゆに浸けて食べれば、のど越しと共に風味が広がって絶品なんです。

その他
ざるそばの他、冷たいそうめんや冷や麦にかけてもおいしいそう。

―社長お気に入りの使い方はありますか?

吉岡 アジやサンマなど、ヒカリモノのお刺身に使うのがお気に入りです。生姜の代わりにするイメージなんですが、旬の時季にお刺身が手に入ったら必ず食べる、イチ押しの使い方です。

その他
「鉄釜七味」のもつ芳醇な辛みとアジのうま味の相乗効果で、
おいしさを引き立て合う組み合わせ!

―熱い麺などにかけるイメージが強いので、意外です!

吉岡 唐辛子の辛みは温度と比例するため、熱いものと一緒に食べると「辛っ!」となります。反対に、冷たいものは食べやすく、唐辛子の香りをダイレクトに感じられるようになるので、例えばソフトクリームにはたくさんかけても意外と辛すぎず、香りが鼻に抜ける感じなのです。さらに先程お話ししたように唐辛子は体を温めるので、冷たいものと一緒に食べるのが冷え予防的にもおすすめなんですよ。

その他
白菜の漬物など体を冷やす食べ物が、冷えにくく食べられる効果もあるのだとか。

―「燻製一味」の方は、袋を開けるとふわっと燻製の良い香りがします。

吉岡 栃木三鷹を鉄釜で焙煎していく過程で、焦がしすぎるといいますか、焙煎が強すぎることがありまして、それが煙でいぶしたような何とも言えない落ち着いた良い香りなんです。そこで、桜チップを使ってじっくり本格的に燻製してみたら、スモーキーな優しい香りとキレのある辛味が融合したオリジナリティあふれる一味唐辛子になってくれて…。商品化してまだ一年弱ほどですが、他にない逸品ということで、かなり話題になっているようです。

商品
スモーキーさが珍しい「燻製一味」は、
意外とマイルドなので辛いのが苦手な人もトライしやすい!

―こちらはどのような食べ方がおすすめですか?

吉岡 お好みの量を焼き鳥にかけて召し上がってみてください。焼き鳥も煙でいぶしてあるので、相性が抜群にいいんです。他にも燻製にしてあるものなら何でも合うと思います。

その他
「タレよりも塩の焼き鳥の方が、スモーキーさが感じられておすすめ!」と、吉岡社長。

―他にも定番からユニークな商品まで、いろいろと開発されているのですね。

吉岡 わが社は、創業以来ずっと唐辛子にこだわり、大地に種を蒔き、育て、収穫をし、原料を選別し加工して、充填包装から販売まで手がけてきた、国内では珍しい唐辛子専門会社です。当然、唐辛子製品の未来も考え、開発し続ける必要があります。
一時は日本の輸出経済を支えていた大田原の唐辛子生産ですが、近代化が進むにつれて、主な栽培拠点は海外に移行することとなり、残念ながら国内消費のほとんどが中国産になってしまいました。そこで、2005年に大田原の町おこし事業として「大田原とうがらしの郷づくり推進協議会」を発足し、地域の小中学校を訪問しての唐辛子栽培や七味唐辛子づくり体験指導を行うなど様々な取り組みをして、まずは地元から唐辛子の良さをもっと知ってもらえるように努めています。
努力の甲斐あって生産者数も生産量も順調に増え、協議会発足当時5軒だった生産者は2019年には189軒まで回復。同年、農林水産省発表の地域特産野菜生産状況調査のデータに基づき、「大田原 唐辛子生産量日本一宣言」をさせていただきました。再び日本一の座を取り戻すこととなったのです!

―では最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

吉岡 "唐辛子の聖地"としての大田原を、もっともっとアピールしていきたいと思っています。唐辛子料理を「唐辛子メシ」としてどんどん開発し、斬新なアイデアをSNSで発信するなどして唐辛子を普及していければ…。
先ほども申し上げたように意外とソフトクリームとも合うので、ケーキやフルーツなど甘いものと相性が良いはずです。既に和菓子屋さんが開発した唐辛子羊羹があるので、次はケーキ屋さんとコラボしたり、スイーツメーカーともタッグを組んで何かやってみたい!唐辛子の無限の可能性を追求して、広げていけるといいですね。

―唐辛子の歴史を知ることで、改めてその魅力と可能性に触れる取材となりました。本日は、貴重なお話をありがとうございました!

商品

「鉄釜七味」(小袋10g)
価格:¥420(税込)
店名:吉岡食品工業株式会社 online store
電話:0287-23-5555(9:00~17:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://yfood.base.shop/items/48584821
オンラインショップ:https://yfood.base.shop/

商品

「燻製一味」(小袋10g)
価格:¥560(税込)
店名:吉岡食品工業株式会社 online store
電話:0287-23-5555(9:00~17:00 土日祝除く)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://yfood.base.shop/items/85639238
オンラインショップ:https://yfood.base.shop/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
吉岡博美(吉岡食品工業株式会社 代表取締役)

昭和24年8月5日生まれ。昭和48年3月青山学院大学卒業、同年ブレスト食品株式会社入社。昭和59年ブレスト食品株式会社退社、同年吉岡食品工業株式会社入社。現在、吉岡食品工業株式会社 代表取締役の他、大田原市のとうがらし協議会などの会長も務め、唐辛子の普及活動に取り組む。

<文・撮影/亀田由美子 MC/三好彩子 画像協力/吉岡食品工業>

OFFICIAL SNS

Instagramでハッシュタグ#お取り寄せ手帖を検索。

  • Instagram
  • Facebook
  • Twitter