全国の元気な社長を取材しているこの連載ですが、今回、編集長のアッキーが気になったのは、地元に根ざした商品を次々とヒットさせている愛媛県伊予郡の義農味噌株式会社。代表取締役社長・田中正志氏に取材陣がお話を伺いました。

義農味噌株式会社 代表取締役社長・田中正志氏

―義農味噌という社名の由来を教えてください。

田中　1953年に私の父・田中義一が田中醸造所という名前で創業しました。最初は全くの素人でしたが、失敗を繰り返しながら味噌作りを続けて会社を大きくしていきました。そして、1973年に義農味噌株式会社になりました。社名は、地元の篤農家の義農作兵衛に由来します。江戸時代の享保の飢饉のとき、唯一の食料の麦種を食べずに翌年に残して地域のために貢献した英雄で、昭和初期の道徳の教科書にも載っていました。地元に貢献し、お客様や社員を大切にする会社にしようと考え、その名前を使わせてもらうことにしたのです。

―ものを売るだけでなく、地元や人を大切にするという思いが込められたんですね。

田中　父は常々「売る商品ではなく、自分が食べるものを創れ」と言っていました。これは、今でも弊社の基本方針の一番大切な部分です。おいしさはもちろん、安心安全にもこだわって、自分が食べたい、家族に食べさせたいと思うものを作っています。
それから、地元・愛媛に貢献したいと思い、愛媛のおいしいものを商品にしてきました。

―次々とヒット商品を発売されていますが、その中でナンバー1人気は「いよかんドレッシング」ですね。開発のきっかけを教えてください。

田中　弊社の看板商品は、麦味噌「伊予のみそ」です。愛媛県は全国的にも珍しい、麹の割合が高い甘味を感じる麦味噌が受け継がれているんです。
40年ほど前、マルコメさんからだし入り味噌が発売されて、味噌革命が起こりました。それまで味噌には地域性がありましたが、この商品は全国に広がりました。弊社も、味噌だけでは生き残れないと考え、新しい商品の開発に力を入れ始めたのです。
そして、地元の食材・伊予柑を生かそうと考え、生まれたのが「いよかんドレッシング」です。実は、その前に味噌ドレッシングも考えましたが、すでに他社から発売されていました。そのとき、「他社がやっていない独自の商品を作ろう」と発想を変えました。

「いよかんドレッシング」は、サラダはもちろん、
カルパッチョやローストビーフにかけてもおいしい！

―ピンチのときに、パイオニア精神が生まれたのですね。開発の苦労はありましたか？

田中　伊予柑は、地元の農家さんが大切に栽培したものでも傷がついたら商品になりません。そんな農家さんの助けになればと、伊予柑を使うことにしました。半年くらいで商品ができましたが、試食をしてもらった女性たちから「パンチが足りない」という意見が。そこで、伊予柑の皮を入れることにしたら、香りがぐんとよくなりました.
完成品に近いものを、さらに試食をしてもらったら、「甘すぎる」という人もいて賛否両論ありました。でも、半分くらいの人が「ハマる味」と言ってくれました。私は、3割の人が「ハマる」と感じたら、その商品はヒットすると思っているので、「いよかんドレッシング」を発売。今では、弊社を代表するヒット商品に。「甘すぎる」という声は今は聞かれなくなったので、私の「ヒットする！」と思った予感は当たりました。

―おすすめの食べ方はありますか？

田中　にんじんの千切り、ゆでブロッコリーなどシンプルな野菜料理が、このドレッシングをかけるだけでおいしくなります。それから、鯛のカルパッチョ、鶏肉のソテーなど、野菜だけでなく魚や肉にも合います。ほとんど宣伝はしてないけれど、口コミで広がり、リピーターが多いのも特徴ですね。

野菜がおいしくなる「いよかんドレッシング」。
野菜をゆでただけのシンプルなメニューが立派な副菜になります。

―愛媛県の魚・真鯛を使った「鯛釜めしの素」も人気商品ですね。

田中　「いよかんドレッシング」と同じ発想ですが、愛媛県の魚の真鯛を使って何か商品を作りたいと思いました。愛媛といえば、鯛めしが名産ですが、それが家で食べられたらいいなと考え、開発をスタート。通常このような商品は、鯛をレトルトにしてスープとセットで販売します。でも、それでは鯛がパサパサになっておいしくない。そこで、鯛を酒蒸しにして半生にしました。商品化までに試作を重ね、約11カ月。手間がかかりましたが、他社がやっていない独自の商品「鯛釜めしの素」が出来上がりました。
おかげさまで、松山新商品ブランドコンテストで最高位の愛媛県知事賞をいただきました。お客様からも「ご飯に混ぜて炊飯器で炊くだけで、こんなにおいしい釜飯が作れるなんて！」など、うれしい声が届いています。

「鯛釜めしの素」を土鍋で炊いてみました。
鯛の旨味がしっかり感じられる、鯛がふっくらしたご飯です。

―田中社長自ら開発した「松山昭和ミートソース」は、どんな商品でしょうか？

田中　私が高校生の頃に、松山に“アミド・パリ”というミートソースがおいしい店がありました。愛媛は醤油、味噌などが甘く、料理の味つけも甘いことが多いのですが、このミートソースも甘かった。“アミド・パリ”はもうないのですが、この味を再現しようと姉と一緒に作ったのが、この商品です。2歳上の姉も、その店のファンで通っていました。姉から「少し値段が高くなっても、全ての原料に国産を使ったほうがいい」とアドバイスされ、「それなら他社製品と差別化ができる」と考えました。そして、苦労して、にんにく、しょうがに至るまで原料を全て国産にしました。一般的なミートソースの商品よりは、少し値段は高い「松山昭和ミートソース」ですが、人気商品に成長。一度食べると、必ずリピーターになってくれます。松山出身の芸人・友近さんがテレビで紹介してくれて、さらに広まりました。

100gのパスタに「松山昭和ミートソース」1袋をかけて、ボリューム満点！
好みで粉チーズとパセリをトッピング。

―“他の会社が作っていない商品を作る”という部分に、田中社長の信念を感じます。今後、どのようなことをやっていきたいと思っていますか？

田中　コロナ禍で個人向けの通販の商品は売り上げを伸ばしていますが、店舗での販売やレストランなどは厳しい状況ですね。例えば、松山空港の売り上げは、10分の1にダウンしています。でも、社員たちのためにも、落ち込んではいられないので、新しい商品の開発を進めています。
新商品は、動物性食品を使わないビーガン用の即席味噌汁です。だしは昆布と椎茸でとり、アミノ酸は使いません。最近、若い人を中心に、世界的にビーガンは注目されていますので、取り入れてみることにしました。さらに、具材は国産の野菜をフリーズドライにするのですが、野菜を加工する工場を愛媛県と組んで作る予定です。高齢者や福祉施設の入居者さんが働ける場所にしようと考えています。
それから、海外の方にもぜひ、弊社の商品を食べてもらいたいなと思っています。ただ、これは私の代ではなかなか難しいこと。でも、思いを継いでくれる弊社の若い社員たち、私の子どもたちがきっとかなえてくれると思います。

―新しいことへの挑戦は続きますね。貴重なお話をありがとうございました。

「いよかんドレッシング」
価格：¥430（税込）
5本以上買うと１本あたり400円に
店名：義農味噌株式会社
電話：0120-84-2135（平日9:00～16:30）
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品ページ：https://shop.gino-miso.co.jp/SHOP/D-1.html
オンラインショップ：https://shop.gino-miso.co.jp

「鯛釜めしの素」
価格：¥1,080（税込）
店名：義農味噌株式会社
電話：0120-84-2135（平日9:00～16:30）
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品ページ：https://shop.gino-miso.co.jp/SHOP/GT2-1.html
オンラインショップ：https://shop.gino-miso.co.jp

「松山昭和ミートソース」
価格：¥360（税込）
10個以上買うと１個あたり330円に
店名：義農味噌株式会社
電話：0120-84-2135（平日9:00～16:30）
定休日：インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL：https://shop.gino-miso.co.jp/SHOP/Y-1.html
オンラインショップ：https://shop.gino-miso.co.jp

＜Guest’s profile＞
田中正志氏（義農味噌株式会社　代表取締役社長）

1957年愛媛県生まれ。山梨大学卒業後、筑波の農林水産省食品総合研究所研修士を経て、1980年義農味噌株式会社に入社。製造部主任、取締役部長、常務取締役を歴任し、2003年に同社代表取締役社長に就任。同社の代表商品「伊予のみそ」の商品化、地産地消の商品開発等の原動力となる。2019年には第8回四国でいちばん大切にしたい会社大賞を受賞し、社員のやりがい・労働環境の改善・社会貢献にも取り組んでいる。

＜撮影・文／大橋史子（ペンギン企画室）　MC／吉田茉代　画像協力／義農味噌＞