今回、編集長アッキ―こと坂口明子が気になったのは、福岡の老舗和菓子屋である左衛門の代表銘菓「博多ぶらぶら」。個性的なキャラクターが特徴のパッケージを開けると、ユニークな形のあんこ餅が並んでます。北海道産の小豆から作った餡と、餅粉をはじめとした材料で作った柔らかい求肥というシンプルな素材でおいしさを追求した「博多ぶらぶら」は、50年以上も地元で愛される福岡の銘菓です。「博多の楽しい思い出をお菓子と一緒に持って帰り、みんなで幸せを分け合っていただきたい」という左衛門の代表取締役社長 田中好治氏にお話を伺いました。
塩が効いたあんことふわふわの餅が絶妙!素材のおいしさが詰まった「博多ぶらぶら」
2024/09/26
有限会社左衛門 代表取締役社長の田中好治氏
―会社の歴史について教えてください。
田中 昭和4年(1929年)に創業し、初代は田中三好(みよし)という人物です。もともとは浪曲師で、浅草で天中軒 雲月(てんちゅうけん うんげつ)の弟子として公演をしていましたが、ある時から興行師になり、浪曲専門の興行師として全国をまわっていました。
そんな三好がお菓子作りをするようになったきっかけは、富山の温泉まんじゅうのお店でのこと。お店に朝早くから多くの人が集まって、楽しそうに仕事をしている光景を目の当たりにしたそうです。興行師として全国を回っていた三好の奥様が喘息などの病気に悩むこともあったようで、どこかに定住して商いをしたいと思っていたところ、にぎやかなお店の光景を見て「これだ!」と思ったそうです。その後東京の和菓子屋さんで修業して、お弟子さんを連れて福岡に戻ってきたと聞いています。
長い間全国を回っていたので、良いものや新しい技術などをよく知っていたのでしょう。当時は薪でまんじゅうを蒸すのが一般的だったのですが、初代はジェットボイラーというものを使って蒸し始めました。また、和菓子だけでなく滋養強壮にいいとされる「若本パン」や、「左衛門ぜんざい」というおぜんざいもお出ししていました。「左衛門ぜんざい」は商法も珍しく、当時の銀座にあった「12か月汁粉」というお汁粉屋さんの「12杯食べると代金が無料になる」という商法にならって、「左衛門ぜんざい」を15杯食べると(当時の)一千円贈呈という宣伝をしていたそうです。
ただお菓子を売るだけでなくエンターテインメントの要素も入れて、お客さんを巻き込みながら商売をするのが好きだったのでしょう。天神に店舗を出した時も、3階から2階に滝が流れるような空中庭園を作ったり、日本全国に3台しかないほどの大きなカラーテレビを設置したりと、当時まだ珍しかったものをどんどん取り入れて、人が集まって楽しめる仕組み作りをしていました。
このような初代の遊び心や人を惹きつけるために工夫する姿勢は、現在の左衛門にも引き継がれています。
私は3代目で、田中三好は私の祖父にあたります。私自身は幼い頃からお菓子屋になることを決めていたので、小学生の時から接客をしたり、商品への知識を深めたり、1人で催事の販売をしたり、展示会に連れて行ってもらったりと、いろいろな勉強をしてきました。喫茶でも洗い物をしたり販売をしたりしていたのですが、最初に接客をしたときはまだ小学生で、「いらしゃいませ」も恥ずかしくて言えなくて、机の下に隠れながら言った記憶があります。最初は給料も少ないものでしたが、仕事を覚えて一人前の給料をもらえるようになると嬉しかったですね。厳しく叱られる時もありましたが、反省して新たな気付きを得たり、「やってやるぞ」とやる気が出たりする毎日でした。
福岡の繁華街 天神にある左衛門の本店。
―「博多ぶらぶら」について教えてください。
田中 「博多ぶらぶら」は1974年に販売を開始し、2023年で誕生50周年になった、弊社のロングセラー商品です。当時、新大阪から博多まで新幹線が開通したこともあり、博多ならではのお土産が必要だということで開発されました。発売当初は味のおいしさはもちろん、テレビのコマーシャルで宣伝していたことや、パッケージのキャラクターが特徴的なこともあって、人気商品になるのが比較的早かったです。
シンプルに餅とあんこのお菓子だからこそ、素材の味がしっかり活きています。あんこには北海道産の小豆を使用し、すべて弊社で炊き上げています。少し塩気を効かせることで、絶妙な甘みに仕上げました。求肥は餅粉を中心にブレンドして作っており、もち米は佐賀県の「ひよく米」を使っています。もち米は東日本と西日本で特徴が違っており、東日本は切り餅が主流なので早く固くなるのがよいとされているのですが、西日本では柔らかい状態を保っていたほうが好まれます。そのような特性も踏まえて「博多ぶらぶら」の求肥は、あんこと同じように口の中でほどけていくほど柔らかいものになっています。
あんこと求肥へのこだわりがありますから、「左衛門の餡と餅こそ博多の味」というキャッチフレーズで販売しています。素材がシンプルだと同じ品質や味を保ち続けるのが難しいからこそ、餡と餅だけで商売を続けさせていただいているということがとてもありがたいですね。
お茶と一緒にほっと一息。
ちょっと塩の効いたあんこと餅が絶妙にマッチした味わいが楽しめます。
―ユニークな形が特徴的ですね。
田中 「博多ぶらぶら」を考案する際、2代目は初代に「なにか新しいものを、他の人の真似でなく自分で作れ」と言われたそうです。そこで他の人が作れないものにしようと、真ん中のあんこを求肥でくるみ、求肥をさらにあんこでくるんだ珍しい形状になりました。お菓子を作るところまでは機械で行うのですが、その機械も「博多ぶらぶら」のためのオリジナルのもので、細かく注文して作ってもらったと聞いています。
ユニークなキャラクターと商品名が特徴的で、思わず笑顔になるパッケージ。
田中 お菓子の形はユニークで、この形を保ったまま箱に入れるために機械でなく手作業で行っています。機械で形を整えた後、手作業でグラシン紙に乗せて箱に詰め、包装しています。一時期、手作業の工程もすべて機械化して自動で生産できるようにしたことがあったのですが、機械ではどうしても「博多ぶらぶら」特徴的な形を保つのが難しく、お客様から「これは博多ぶらぶらじゃない」と言われてしまいました。ですので現在は人の手で丁寧に仕上げています。
独特な形なので、あんこをこぼさず食べるためにはちょっとしたコツがあるのですが、食べ慣れている方はスッと召し上がっていただいているようです。個性が強い商品かもしれませんが、そこも楽しんでいただければと思います。
―パッケージも一度見たら忘れられないほど個性的です。
田中 パッケージに描かれているキャラクターは弊社の2代目である私の父の顔がモデルになっているのですが、私も顔が似ているので、博多駅でまったく知らない方に「あんたこれに似とるね」とパッケージを指差して声をかけられたこともあります(笑)。
「博多ぶらぶら」という商品名も個性的なので、一度聞いたら忘れられないのではないでしょうか。名前の由来は福岡の祭り「博多どんたく」に関係しています。博多どんたくでは、中をくぐると無病息災・幸せになると言われている「傘鉾(かさぼこ)」が街中を練り歩きます。ぶらぶらするんです。お菓子を食べながら博多の街を歩いて楽しんでいただいて、その楽しい思い出をお菓子と一緒に持って帰ってくださいという思いで「博多ぶらぶら」という商品名が付けられました。お菓子をみんなで分け合って食べるというのは「お福分け」といって、福や幸せを分けるいいことですので、「博多ぶらぶら」で楽しい思い出や幸せを分け合っていただきたいです。
手作りのおいしさはお土産だけでなく、地元にも愛される。
田中 「博多ぶらぶら」は季節ごとにあまおうや紫芋などのフレーバーを販売したり、2月14日であれば「博多らぶらぶ」を販売したりと、さまざまなバリエーションで楽しんでいただけるよう工夫しています。
また、「博多ぶらぶら」のキャラクターグッズも販売しています。若い方のなかにはキャラクターを知らない方もいらっしゃるのですが、年上の世代の方にはほとんど知っていただいています。高校生とコラボして商品作りをした際に、学生たちが博多ぶらぶらのキャラクターを知らなくても、家に帰るとお父さんやお母さんが歌って踊り出したという話も聞いています。
味のおいしさや形のユニークさはもちろん、一度見たら忘れられない個性的なキャラクターや、CMで放映している音楽と踊りなど、すべての要素が「博多ぶらぶら」を唯一無二のものにしていると思います。
ぜいたくにあまおうの果汁を練り込んだあんこを使った
「博多あまおうぶらぶら」。
―「博多ぶらぶら」以外にも人気の商品はありますか?
田中 いろいろありますが、最近は「博多もっちりどら焼き」が人気です。もっちりとした生地が特徴で、女性も食べやすいように生地を折りたたんで半月型にし、弊社のこだわりのあんこを包んでいます。
また、「好いとーぱい」というスイートパイの商品もあります。私が博多に戻ってくる時に、福岡の玄界灘(げんかいなだ)を見たら「あぁ戻ってきた」「やっぱり博多が好きだ」と安心するんです。そこで、私の名前にもある「好」という字と博多弁の「好いとーばい」をかけて、「好いとーぱい」と名付けました。パイ生地の中にくるみ餡がぎっしり入った和洋菓子で、私が最初に作った商品です。
あとは「博多ぶらどら」や「博多ぶらぱい」など、「博多ぶらぶら」から名前をとった商品もあります。中に小豆とバターとグラニュー糖が入っていて、とてもおいしいです。また、チョコレートクリームを入れてしっとりと焼き上げたソフトクッキーの「博多のへそ」も販売しています。
「博多ぶらぶら」をパイで包んだ「博多ぶらぱい」。
チョコレートの入ったソフトクッキー「博多のへそ」。
田中 こだわりの餡の味を大切に受け継いだ和菓子はもちろんのこと、パイ生地やクッキー生地などと合わせてさまざまな和洋折衷のお菓子も作っています。
こだわりの餡とバターが詰まった「博多ぶらどら」。
―今後の展望をお聞かせください。
田中 「博多ぶらぶら」をはじめとするお菓子を作るためには人手が必要で、ありがたいことに今は生産でいっぱいいっぱいの状態です。もう少し人手があれば喫茶などいろいろと事業を広げていきたいと思っていますが、今の状態をそのまま維持できるようにしっかりお菓子を作っていくことを大切にしていきたいと思っています。
―素晴らしいお話をありがとうございました!
「博多ぶらぶら」(6個~15個)
価格:¥972~¥2,430(税込)
店名:博多菓匠 左衛門
電話:092-944-1311(9:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://www.saemon.jp/博多ぶらぶら/
オンラインショップ:https://www.saemon.jp/category/lineup/
左衛門ホームページ:https://www.saemon.jp
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
田中好治(有限会社左衛門 代表取締役社長)
1963年福岡県生まれ。1985年に株式会社曙へ入社、その後西武百貨店商品事業本部朝日フーズへ入社を経て1989年に左衛門へ入社。2009年2月1日左衛門創業80年に社長に就任し、現在に至る。
<文・撮影/藤原志帆 MC/三好彩子 画像協力/左衛門>