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持続可能な肥育法を追求し、クセのないあっさりとしたおいしさを実現した「むさし麦豚」

2022/12/14

バウムクーヘンを食べて育つ豚がいる!? と聞きつけました。探ってみれば、贅沢に育てるのではなく、フードロス削減や飼料自給率アップを目指しつつ、独自のおいしさを生み出す肥育法とか。今回編集長アッキ―こと坂口明子が気になった株式会社長島養豚 代表取締役の長島洋平氏に、取材陣が伺いました。

株式会社長島養豚 代表取締役の長島洋平氏
株式会社長島養豚 代表取締役の長島洋平氏

―創業からのあゆみをお聞かせください。

長島 埼玉県深谷市に父が創業しました。1971年、自宅の庭で、母豚を3頭買ってきてのスタートだったそうです。それから50年以上が経つ間に栃木、群馬、茨城にも農場を持ち、2万頭を肥育するまでになりました。私自身は、常に身近に豚がいる環境で育ったせいか、自然な流れで家業を継いでいます。

―入社後の道のりはいかに?

長島 最も記憶に残っているのは、豚流行性下痢という伝染病の流行です。下痢や嘔吐がひどく、生後間もない豚が罹患すると母乳も飲めなくなり、致死率が高まります。原因である豚のコロナウィルスが変異を繰り返し、なかなか終息させられませんでした。どんなに対策をしても収束の兆しが見えず豚がどんどん死んでしまうのです。スタッフのモチベーションも下がりますし、先の見えない状況下、このまま農場が終わってしまうのではないかという不安との闘いでした。

―どのように乗り越えたのですか?

長島 思い切った手段を取らないと終わらないと腹をくくり、オールイン・オールアウト方式に切り替えました。豚舎を一度空にして、徹底的に洗浄、消毒、乾燥をさせてから次の豚を導入する方法です。確信はありませんでしたが、夢中で続ける中、気が付けば終息していたという感じです。

この経験を通じて、農場を客観的に見ることができました。飼いすぎていた豚を減らしてゆとりをもたせるとか、採算の合わない肥育農場の継続を断念するなど、健全な農場経営に向けて一新するチャンスになったように思います。

―現在の農場はどのような体制ですか?

長島 繁殖から分娩・離乳・肥育まで自社で一貫生産しています。栃木の農場で繁殖させ、離乳後、それぞれの農場に移すというツーサイトシステムで、生育段階に合わせた疾病予防や防疫を行なっています。

肥育農場ではオールイン・オールアウト方式で衛生管理を徹底し、豚がストレスなく健康に育つよう、豚舎の設計にも工夫をしています。

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ストレスなく健康に育てる工夫を凝らした豚舎。

―飼料には特別なこだわりがあるとか。

長島 かれこれ20年ほど前から、食品工場の廃棄品を買い取って飼料にしています。廃棄品とは、工場で作りすぎたものや流通に乗れなかったものなど、お店に並ぶことのなかった商品です。

具体的にはバウムクーヘン、うどん、パン、パスタなど小麦由来の食品残渣が中心。それらを加熱・乾燥処理して、豚が好む飼料へとリサイクルしています。バウムクーヘンは油分が多いので、食べさせ過ぎると背脂肪が乗ってしまうなど、バランスは難しいですが、専門会社を立ち上げて取り組んでいます。

もう1つ、米農家さんに協力してもらい、耕作放棄地で生産した米を粉砕して飼料に加えています。昨年は1000トンほど収穫できたんですよ。日本は、トウモロコシなど濃厚飼料の自給率は12%、牧草といった粗飼料を合わせても25%しかないのです(農林水産省Webサイトより2019年度実績)。輸入穀物に依存し過ぎている現状を変えたい、国内資源をエサにしたいと取り組んでおり、毎月1000トンほど必要とする飼料のうち、半分は国内由来が実現しています。

―味わいや肉質への影響は?

長島 むさし麦豚の大きな特徴は小麦由来のものや米を主体とした飼料を与えている点です。輸入穀物に頼るとどうしてもとうもろこし主体の飼料となるのでそこで肉質が大きく変わっていると思います。小麦由来の飼料を与えることで肉の色が赤から淡いピンク色になり、ロースの芯にさしが入るようになりました。

味わいの点ではあっさりとした旨みが引き立つと感じ、味香り戦略研究所で分析してもらったところ、まろやかさとクセの少なさが突出していました。基本的な味覚(旨味、苦味、塩味、酸味、甘味、渋味)を数値化して味わいを客観的に表現する方法で、ほかの国産豚と比較してまろやかさは約2.5倍、クセの少なさは約1.5倍という結果が得られました。

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赤身がやさしい色合いでクセのない味わいのモモ。
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赤身と脂身のバランスがちょうど良いロース。

―それが「むさし麦豚」ですね。

長島 埼玉で肥育した豚を「むさし麦豚」というブランドで販売しています。ほんのり甘みがあって旨みが強く、脂身もしつこくないと好評で、2015年には「第13回銘柄ポーク好感度コンテスト」優秀賞を受賞しました。

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濃厚ながらくどくなく、脂身の甘みを感じられるバラ。
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赤身と脂身が混ざり、コクのある味わいの肩ロース。

―「しゃぶしゃぶ4種」のおすすめポイントを教えてください。

長島 ロース、肩ロース、バラ、モモ、部位ごとの味比べをしていただければ、との想いです。豚肉の味に自信があるので、ぜひ塩コショウで召し上がっていただきたいですね。もちろんポン酢でもおいしいですが。部位別でいうと、やはり昔から人気があるのはロースかバラで、脂の甘みを楽しめます。

脂身が苦手な方にはモモがオススメ。モモは硬いイメージがあるかもしれませんが、むさし麦豚は、小麦由来のエサのおかげで赤身が柔らかいのが自慢です。最もシンプルに味わうにはしゃぶしゃぶですが、料理法を選ばず楽しめると思います。

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4部位の味比べが楽しい「しゃぶしゃぶ4種」。
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火が通る程度にしゃぶしゃぶして、はじめは塩コショウのみで豚のおいしさを味わって。

―味噌漬けは白いご飯の進む味ですね。

長島 埼玉は焼鳥文化が根強くて、豚でも「焼鳥」と呼ぶほどです(笑)。特に焼鳥店が多い東松山市の有名店の元祖味噌だれを使って、自社で漬けています。フライパンで焼くだけと気軽で、バーベキューのときは網焼きにしてもおいしいですよ。食べ応えのあるロースは厚さ5ミリ、柔らかい肩ロースは1センチと、食べやすい厚みにもこだわりました。

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味噌をベースにニンニク、ショウガ、ゴマなどをブレンドした香りのよいタレ漬け。
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しっかり味なので野菜やキノコ類と一緒に炒めても。
手前がロース、奥が厚めの肩ロース。

―むさし麦豚への想いをお聞かせください。

長島 豚肉はビタミンB1、良質なたんぱく質などを豊富に含み、人間が生きていく上で大切な食品です。おいしいと喜んでもらえて健康のお手伝いもできるのが養豚業だと思っています。さらに付加価値をつけたいと、食品残渣や耕作放棄地の利用、国内飼料の増大を目指し、持続可能な取り組みにチャレンジしてきました。

結果、本当に自信をもって送り出せる品質と味わいの「むさし麦豚」ができました。豚の排せつ物をたい肥にして近隣農家さんに販売もしているのですが、後継者不足や高齢化などで農家が減り、たい肥が余る現状にあります。

そこで、自社で野菜や穀物を作るなど、農業にも挑戦できないかと模索しています。環境面でも、事業面でも、そして従業員にとっても「持続可能」な会社でありたいですね。

―「持続可能な会社」としての展望をお聞かせください。

長島 「働き方改革」が叫ばれるようになって久しいですが、第1次産業は24時間365日の仕事なのでなかなか難しい面はあります。しかし、若い世代が魅力を感じる会社となり、少しでも働きやすい環境を整えることで、養豚業というすばらしい仕事が持続可能になると信じています。

うちは、完全週休2日制を目指して、業務の効率化や生産体制の合理化を進めながら、少しずつ休日を増やし、現在、4週7休までになりました。年間104日まであと11日。やりがいと働きやすさの両立を目指す世代に影響を与えられたら……と思っています。

養豚業としては、農業や畜産の盛んな埼玉県に、むさし麦豚で貢献すべく、PRを強化していきたいと思っています。安全でおいしいという裏付けがあるので、食べればきっと、笑顔になってもらえるはず。おいしい笑顔は大きな励みになり、やりがいにつながります。笑顔の連鎖が続くよう、これからも未来に向かって取り組んでいきます!

―バウムクーヘンを食べて育つという話題性には「持続可能な畜産業」や「飼料自給率の向上」という確固たる目標があり、安全でおいしいという食品として大切な基準はクリア。さらには自社の労働環境改善にも注力と、幅広い視野で畜産業を見ている長島社長。素晴らしいお話をありがとうございました!

むさし麦豚 しゃぶしゃぶ4種

「むさし麦豚 しゃぶしゃぶ4種」(冷蔵/ロース・肩ロース・バラ・もも各250g計1000g)
価格:¥3,300(税込)
店名:むさし麦豚Webshop
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://musashimbuta.theshop.jp/items/46875708
オンラインショップ:https://musashimbuta.theshop.jp/

むさし麦豚 味噌漬け2種(山)

「むさし麦豚 味噌漬け2種(山)」(みそロース 300g.5mm.5枚、みそ肩ロース500g.約1cm.5枚)
価格:¥3,100(税込)
店名:むさし麦豚Webshop
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://musashimbuta.theshop.jp/items/47075092
オンラインショップ:https://musashimbuta.theshop.jp/

※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。

<Guest’s profile>
長島洋平(株式会社長島養豚 代表取締役)
1980年7月22日生まれ。2003年東京農業大学卒業後、飼料会社に就職、2004年に長島養豚に入社、2020年12月代表取締役に就任。養豚で持続可能な循環型農業を発展させるため、食品ロスや耕作放棄地で生産された飼料米を飼料の原料として扱い、ブランド豚むさし麦豚を生産。フードロス削減と養豚の飼料自給率の向上に注力している。

<文・撮影/植松由紀子 画像協力/長島養豚>

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