今回編集長アッキーが注目したのは、美濃焼のお皿。和食にも洋食にもマッチする、シンプルで洗練されたデザインです。時代に合わせて美濃焼をアップデートしてきた窯元だから出せる、絶妙なくすみカラーが、食卓をおしゃれにしてくれます。陶磁器卸である株式会社あづま商店の東隆之氏は、いち早くインターネットで陶磁器の販売を開始し、市場を広げてきました。焼き物の未来を守るためにも、たくさんの人に美濃焼の良さを伝え、地場産業を盛り立てていきたいと語る社長に、熱い思いをうかがいました。
普段使いの器を「MINO_works」でもっとおしゃれに揃えたい
2024/05/28
株式会社あづま商店 代表取締役の東隆之氏
―土岐市は美濃焼の産地として有名ですね。
東 皆さんが何気なく使っている器の多くが美濃焼です。国産の陶器の60%が美濃焼だと言われており、馴染み深い焼き物だと思います。価格も比較的安価ですし、日常使いしやすいデザインやカラーがそろっています。美濃焼においては、原料の土をブレンドすることで器のバリエーションを広げてきました。窯元の企業努力によって、今の地位を得ていると思います。
この美濃焼を生産しているのが、岐阜県の東濃地方で、その中にある土岐市はまさに焼き物の町です。街を歩けばたくさんのメーカー、窯元があり、陶磁器もごろごろしています。そんな場所で育ち、卸売を主とする陶器商を継ぎました。
美濃焼の町で陶器商として発展。
―卸売店だった御社が、インターネットや実店舗での販売を始めたのはなぜですか。
東 正直に言うと、成り行きでインターネット販売(以下EC)に成功したんです。私が父から受け継いだ頃は、売り先も売上規模も不安定でした。いくつも売り先を当たっていたうちの一つが、ECでした。
当時はインターネットモールの黎明期で、楽天市場にはまだ陶磁器を売るお店が数えるほどしかなかったんですよ。地域の同業者が「結構売れる」と教えてくれて、とりあえず出店してみたら、あっという間に売上が伸びました。ネットで器が買えるという物珍しさもあったのかもしれません。私自身も、これほどに食器のマーケットが広がっているのだと、びっくりした覚えがあります。現在ではECの売上が60%を超えています。
コロナ禍に入ると、おうち時間が増え、自炊や丁寧な暮らしを目指すライフスタイルの変化もあって、売上がさらに伸びました。しかし、いつか終わるかもしれないライフスタイルにすがるのではなく、その先の展開を考えて、実店舗を出すことにしました。コロナ禍がこんなに続くとも思っていませんでした。実はコロナ禍の開店だったので、東京都の恵比寿など、好立地のテナントも割安に借りられたんです。その後、渋谷と大阪、沖縄に計4店舗を出店しています。
顧客の多かった関東で最初の店舗を開店。
東 実店舗はECで見た商品を、リアルで確かめてもらう場にしようと考えました。風合いや実際のカラー、重さなど、手に取れるショールーム的な場所にしたい、と思いました。ここで購入を決めた商品は、送料無料で配送することにしました。当初はあくまでも、ECを補完する場所、宣伝・広告の代わりの店舗という位置付けでした。
ところが蓋を開けてみると、店舗で商品を選び、「この一枚が良い!」と持ち帰るお客様が非常に多かったのです。
―実店舗開店で、器に愛着のあるファンの存在に気づいたんですね。
東 はい。ネットで見てくださった方が来店して、さらに一枚一枚の個性を見て、自分の手で触れて買って帰りたいとおっしゃったんです。買ってくださる方の器への思い入れや、意識の高さを感じてうれしかったです。
実は苦労して探した目黒のテナントは、約100年続いた街の陶器屋さんだった場所で、そんなことにもご縁を感じました。
無料配送より、その場で購入するお客様が多かった。
―MINO_worksの人気の理由は?
東 MINO_worksは当社が取引している約50社の中でも、主要な窯元の製品です。当社の女性専務が中心となって、女性社員と一緒に、窯元にアドバイスをしました。当社は女性社員が多く、器の主な購買層である女性の観点を盛り込んで、商品企画をしています。デザインや価格など、在庫のリスクを低減できるような商品を窯元と一緒に開発しました。値付けについても、恵比寿店でテスト販売を行い、どんな価格帯なら受け入れられるのかを検証しました。正直に言うと、以前と比べて資材や燃料価格は非常に高騰しているのですが、なんとか手頃な価格を維持していこうと、窯元と一緒に奮闘しています。
カラーバリエーションが豊富で、和食も洋食も映えるデザインだと思います。最近では少しくすんだカラーが人気なので、ラインナップに取り入れています。グレージュとクロマグロの2色は、当社のオリジナルカラーです。この辺りの微妙な色出しも、釉薬に長けた業者がたくさんいるからこそできています。美濃焼の良さが出ている商品だと思います。
株式会社あづま商店オリジナルのグレージュが食材を引き立てる。
―リム十草MARLEも、手頃な価格でとてもおしゃれですね。
東 本当にギリギリの価格ですが、たくさんの方に手に取っていただきたいです。柄はシンプルながら味があり、カフェなどでもよく使っていただいています。
ほっこりとした味わいのある柄が人気。
―同じシリーズの食器を買い揃えたくなりますね。
東 器って、生活道具でありながら、趣味の雑貨のような面もあり、ついかわいいものを見ると買ってしまうことがありませんか。あちこちで気に入ったものをちょこちょこと買うと、全体としては雑多でバラバラになってしまうことに悩んでいる方も、少なくないはずです。統一感のない食卓になりがちですよね。
そこで、当社では一部の実店舗で、いらなくなった食器の回収サービスをしています。下取りとして古い器を持ち込んでくれた方に、10%オフのクーポンをお渡ししています。「飽きてきたし、バラバラだし、一揃い買い換えるか」と言うお客様に、お好みのラインアップをご提案できると思います。
―素敵な取り組みですね。今後取り組んでみたいことはなんですか。
東 日本の焼き物の未来は決して明るくはありません。技術は中国やタイなどに奪われ、今ではそこには、コンピューター制御の最先端の窯が並んでいます。国家資本を注ぎ込んで陶磁器産業を育ててきたわけです。そうした国で安くてそれなりの品質のものが、大量に生産されている一方で、日本の窯は古いまま。窯元がだましだまし使い続けているような有り様です。勝ち目がないと思います。
普段使いに最適なバリエーションを持つ、美濃焼。
東 この先、日本の焼き物が生き残るためには、窯元が直接一般の消費者に売れるような形を作っていかなければなりません。もしそのビジネス形態が完全に成立したら、当社の立場は必要なくなるのですが、その道のりでたくさんできることがあると思います。
例えば美濃焼の良さを伝えること。多くのお客様にそのバリエーション、品質を知ってもらえるような場所や機会づくりを続けていくこと。またロジスティクス。当社で扱っている商品は3,000〜4,000種で、これだけの商品を管理し発送しているノウハウは、まだまだ地場産業全体に貢献できるはずです。九谷焼や萩焼などと比べて地味な印象の美濃焼ですが、ブランディングだけではなく、ポジショニングをうまく使って、日本の陶磁器産業全体をもっとリードしていけるように力を尽くしていきたいです。
―貴重なお話をありがとうございました。
「MINO_works プレートL(23cm)」
価格:¥1,980~2,200(税込)
店名:イーストテーブル 楽天市場店
電話:0572-50-2069(平日10:00~12:00 13:00~17:00)
定休日:インターネットでのご注文は24時間365日受付
商品URL:https://item.rakuten.co.jp/t-east/13-005/
オンラインショップ:https://www.rakuten.ne.jp/gold/t-east/
※紹介した商品・店舗情報はすべて、WEB掲載時の情報です。
変更もしくは販売が終了していることもあります。
<Guest’s profile>
東隆之(株式会社あづま商店 代表取締役)
1971年 岐阜県土岐市に生まれる
1989年 高校卒業後父の営む陶器商に入社
2014年 個人事業から法人に変更、同時に代表取締役に就任
<文/鈴木満優子 MC/三好彩子 画像協力/あづま商店>